第112話 一時休戦


「ロイン……!?」


「…………っはあ……っはあ……ここは……!?」


 クラリスとカナンに呼ばれて、俺は目が覚める。

 今まで真っ暗な空間にいたような気がする。

 さっきまでの記憶がまったくない。

 俺はクラリスに膝枕をされ、カナンにマッサージを受けていた。

 そしてここは……ダンジョンの中だろうか……?


「ロイン……よかった……! 蘇ったのね……!」


「そうか……俺は……一回死んだんだな……」


 ようやく意識がはっきりしてきて、いろいろと思い出す。

 俺は戦いの中、相手をひきつけるために、一回死んだんだった……。

 そして不死鳥の首飾りによって、こうして蘇った。

 自分の体を見ると、傷一つなくて、完全に綺麗な状態になっている。


「そうか……あのアイテムはちゃんと機能したんだな」


 半信半疑だったアイテムの効果が、どういう仕組みであれ、こうしてちゃんと発動したことに、安堵する。

 あれがもしまがい物だったら、俺はあのまま死んでいたことになるからな……。

 神の御業としか思えないようなアイテムだったが、とりあえずはあれのおかげで助かった。


「もう……! ロイン……! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!!」

「うお…………!?」


 俺はクラリスから、平手打ちを食らう。


「心配したんだぞ……! この馬鹿……!」


 そしてカナンに、ぎゅうっと抱きしめられる。


「二人とも心配したんだからね……! もしあのアイテムが発動しなかったらどうするのよ……! 無茶なんだから……!」


 クラリスがそういって、俺をしかりつける。

 しかし、その声色はまったく怒っていない。

 むしろ安堵しているような、そんな声だ。


「そうか……すまない……心配をかけてしまったな……」


「もう……! 本当に……よかった! ロイン……! うわあああああああああん!!!!」


 クラリスも俺に抱き着いてきて、俺はカナンとクラリスに挟まれる形になる。

 しかもものすごく締め付けてきて、いろいろと当たっていてなんだか申し訳ない。

 俺は二人を心配させているのに、こんなことばかり考えて……。


「わ、わかったからもう離れてくれ……。とりあえず今はそれどころじゃない……」


「え……? あいつはもう倒したんじゃ……?」


「いや、まだだ。あれだけで死ぬような相手とも思えない……」


「じゃ、じゃあ……!」


「そう、だからこそ、俺はこのサイハテダンジョンに転移した――! さらなる強化のために……!」


「そうだったんだ……!」


 とりあえず二人を引きはがし、俺は説明を始める。


「やつは800レベルだとかなんだとか言っていた。それがやつのステータスに関する唯一の情報だ。とにかく俺たちは、それを凌駕するステータスを得るまで、このダンジョンから出るわけにはいかない」


「で、でもそれって……すごく時間がかかるんじゃ……」


「ああ……だからこそ、俺はダンジョンにいきなり転移してきたんだ。アルトヴェールの街じゃなくな」


 俺はアイテムボックスから、一つのレアドロップアイテムを取り出す。

 そしてそれを、クラリスたちに見せた。



《サイハテの砂時計》

レア度   ★2700

ドロップ率 上位限定

説明    このアイテムを使えば、ダンジョン内にいる間、外の時間を止めておくことができる。



「こ、これは……!」


「そう、これさえあれば、外の時間を気にせずにいられる」


 サイハテダンジョン一階層で手に入れた、サイハテの砂時計だ。

 これはたしか、トキイタチを倒したことで手に入れたものだった。

 まるでこのダンジョンを攻略するためにあるかのようなアイテムだが……。


「これなら、外であいつが暴れるのを防ぎつつ、わたしたちは強化できるってわけね!」


「そういうことだ」


 レベル――それがなんなのかさえわかれば、俺たちにも勝機があるだろう。

 そしてこの規格外のサイハテダンジョンなら……その答えにつながるなにかを、見つけられる気がする……!

 そうじゃなくとも、とにかくこのダンジョンで強化をしていかなくてはならない。


「待っていろ……! 絶対に次は瞬殺する……!」


 俺たちはさっそく、ダンジョンの次の階層へと進んだ。





【ゴウン視点】


「うわああああああああああああああああああああああ!!!!」


 僕が放ったはずの邪龍炎滅ドラグ・黒王波リベリオンが、なぜか僕の元へと跳ね返ってきている。


 ――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

 まるで皮膚全部に画びょうをぶっさしたかのようだ。

 それか皮膚をいっきにはがされているかのよう。


 とにかく皮膚が燃えるように痛い。

 なぜならこの僕の最強攻撃魔法は、そういう魔法だからだ。

 消えない炎――深淵の魔王の炎を、ここに顕現する。


 僕の体は、焼けてボロボロになっていった。

 もはや虫の息。

 ここはいったん休戦、僕も回復をしなくてはならない。


「ぐあああああああああああああああああああああああ!!!! ママママママママぁああああ!!!!」


 とにかくひたすら耐える。

 自分の攻撃がやむまで、痛みに耐え続けた。

 それは一瞬のことだったのかもしれないが、まるで五億年のような体感時間。


 次第に、痛みがひくにつれて冷静になってくる。

 そうだ、僕はやつをめった刺しにしたじゃないか。

 さっきの魔法がなくても、どのみちやつは死ぬ運命だ。

 だからもう勝負はついたも同然だ。

 まあ、退屈なことだったけど……他のやつよりはましかな……。

 そんなことを思いながら、目を開ける。


「あれ…………? いない…………?」


 なんとそこにいたはずのやつらは、すっかり消えていた。

 あれだけ死にかけていたのに、どこへいったというのだろうか。


「くそ……! くそ……! なんなんだよ……!」


 この世界にはまだまだ、僕の知らないことがあるということだろうか……?

 とにかく僕は、一杯食わされたらしい。

 そして僕は、焼けただれた肉体をひきずりながら、とぼとぼとその場を後にした。

 追手の兵士がやってくるも、適当に受け流す。

 とにかく今の僕には回復が必要だった。

 どこか人目につかないところに隠れて、やり過ごすしかない。


「くそ……! 痛い……! 痛い……! 絶対に許さないからな……! ロイン……!」


 僕は憎しみと屈辱を感じながら、痛みに耐え続けた。

 歩きながらも、僕の体は燃え続けている。

 だが僕のステータスは思ったよりも高く、この程度では死ぬことさえもできないらしい。


 これは憎しみの炎だ。

 そう、決して消えることのない――。


「ははは……! ようやく面白くなってきたじゃないか……!」


 僕は初めて、この異世界にやってきてよかったと思えた。

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