第103話 無敵の鎧


 第二階層にて待ち受けていたのは、鎧の巨人だった。

 剣を構え、まるで銅像のように突っ立っていた。

 最初は遺跡の一部かと思って通り過ぎようとしたが、クラリスがそれに気づき盾で受け止めた。


 ――キン!


「っく……この鎧、動くぞ……!?」


 とりあえず鎧から距離をとる。

 動く鎧は3メートルくらいあるモンスターで、中身は無人のようだった。

 頭部の兜からは赤い光が湧き出ている。


盾火砲シールドビーム――!!!!」


 クラリスが光線で鎧を攻撃する。

 しかし、鎧には傷一つついていない。


「効かない……!?」


 カナンも横から短剣で攻撃するが、まったくダメージは入っていない。

 前回手に入れた《智略の指輪》の効果で、俺には相手へのダメージが可視化されていた。

 二人の攻撃が鎧にあたった瞬間、その部分に「0」とダメージが表示される。

 効果が薄いのではなく、まったくのゼロダメージのようだ。


「くそ……全然効いてないぞ! こいつは無敵なのか……!?」


 俺たちはこう着状態になっていた。

 すると、ダンジョンの奥からさらに別の鎧の巨人が現れた。

 そういえばさっき、通りすぎるときにほかにも鎧の像があったっけ……。


 ――ドシン、ドシン。


 大きな足音とともに、鎧の巨人たちが迫ってくる。

 鎧の巨人は全部で6体いた。

 俺たちは攻撃を続けながら、距離をとる。

 しかし、こちらの攻撃は敵にまったく効いていない。

 あっというまに、俺たちは追い詰められてしまった。


「どうする!? ロイン!」

「よし、俺に任せてくれ! 空間転移の剣ディメンションソード!!!!」


 俺は空間転移の剣ディメンションソードを放つ。

 鎧がすべての攻撃を弾いているのなら、このスキルでどうだ……!?

 空間転移の剣ディメンションソードを鎧の中に発現させる。

 しかし――。


「くそ……これもゼロダメージ……!?」


 考えてみれば、鎧の中身が空なのだから、鎧の中に剣を通しても意味がないのか……!?

 でも、だったらどうやってこいつらを倒せばいいんだ……!?


 ――ゴオオオ!!!!


 鎧の巨人たちが一斉に、剣を振り上げる。


「くそ……絶体絶命か……!?」

巨大盾ビッグ・ワン――!!!!」

「クラリス!」


 クラリスが大盾でなんとか鎧の巨人たちの剣を防ぐ。

 しかしいくらクラリスの盾が巨大化したからといって、敵は6体もの巨人だ。

 6本分の剣をいつまでも抑えていられるほど、盾は万能ではない。


「ロイン……なんとかしないと! 私ももう持たない……!」

「っく……わかっている。今考える……!」

「くそおお! 盾火砲シールドビーム!!!!」


 クラリスが巨大化した盾から盾火砲シールドビームを放つ。

 今度もダメージはゼロだったが、巨大化しているぶん、衝撃は与えられたようで――。


 ――ドン!!!!


 巨人たちを押し返すことに成功した。

 盾火砲シールドビームを受けて、鎧の巨人たちは数歩後ろにはじき返される。

 よし、ここで隙が生まれた……!

 なんとかこのまま逆転したいところだが……。


「よし、今だ……! カナン! 氷の舞!!!!」

「わかった!」


 俺はカナンに氷の舞のスキルを使うように指示をだす。

 氷の舞――以前のスキルブック集めのときに得た能力だ。

 冷気を送って、敵を凍り付かせる攻撃だ。


 ――ヒュオオオ!!!!


 今回もダメージはゼロだが、なんとか鎧の巨人たちの動きを封じることに成功する。

 鎧は金属でできているからな、よく冷えるだろう。


「ロイン、ここからどうするの……!? 氷つかせたはいいけど……このままだと倒せない!」

「大丈夫だカナン、俺に考えがある。よしクラリス、次は地震クエイクをつかってくれ!」

「わかったわ!」


 地震クエイク――これも以前の(70話)でスキルブック集めのときに得たスキルだ。

 盾を地面に大きく叩きつけ、地面に衝撃を与える盾専用のスキル。


 ――ドーン!!!!


 クラリスが巨大化した盾をたたきつけると、通常の何倍もの威力になって発動した。

 大きな揺れで、凍り付いた鎧たちはグラグラ揺れ始める。

 凍っているせいで、関節部分の接続が弱くなり、簡単に外れやすくなる。

 そう、鎧はあくまで部位ごとのつくりになっている。

 だからダメージは与えられなくても、鎧の形を壊すことは可能だ……!


 ――バラバラバラバラ!!!!


 揺れが大きくなるにしたがって、鎧の巨人たちは腕や足からバラバラになって地面に崩れ落ちた。


「やったぁ!!!! さすがロイン!」

「でも……このままだと氷が溶けたらすぐに復活するんじゃ……?」


 それも計算の内だ。

 二人には鎧をバラバラにしてもらうまでが仕事。

 あとは俺がとどめを刺す作戦。


「よし、あとは任せろ! 極小黒球グラビトン――!!!!


 俺はバラバラになった鎧の真ん中に、極小黒球グラビトンを放り込む。

 すると、極小黒球グラビトンによって鎧の部位が一か所に集められる。


 ――ズオオオオ!!!!


「すごいロイン! これなら一網打尽ね!」

「ああ……でも、普通のダメージは通らないだろう……」

「だったら……どうやって……!」


「こうやるのさ……! 運試しの賽子ファンブルギャンブル――!!!!」


 俺がそう唱えると、空中に巨大なサイコロが三つ現れる。

 そして、それが勝手に振られ……。


 ――6・6・6!!!!


「よし、最高威力……!」


 ファンブルギャンブルは出目によって強さが変わるバフ技だ。

 これで俺が次に放つ攻撃は、6の三乗倍の威力になる。


闇の右手ダークネス――!!!!」


 ここで闇の右手ダークネスを召喚する!

 俺は一か所に集まった鎧たちを、闇の右手ダークネスで握りつぶす!


「うおおおおおおおおおお!!!!」


 ――ズリュリュリュリュリュリュリュ!!!!


 しかし、ダメージ表示は「ゼロ! ゼロ! ゼロ! ゼロ!」と数字を吐き出すばかりだ。


「まだまだあああああああああ!!!!」


 俺は必死に闇の右手ダークネスに魔力を送り、その握力を強める。

 すると……。


 ――ブチチチチチチ!!!!

 ――メキメキメキメキ!!!!


 金属が圧縮されて、つぶされ――。

 鎧はスクラップの塊になった。

 相変わらずダメージはゼロのままだったが……。


 ――キュイン!


 金属の球となった鎧の巨人たちは、そんな音とともにドロップアイテムを吐き出した。


「やったぁ! 今度こそ倒したのね!」

「ふぅ…………」

「でも……ダメージはゼロのままだったのにどうやって……」

「さあな……まあ、戦闘不能になったということだろう」


 この世界のルールがどうなっているのかはわからないが……。

 世の中にはダメージを一切受け付けないようなモンスターもいるということだ。

 まあこの鎧たちがモンスターと呼ぶにふさわしいかは疑問だが……。


「よし、ドロップアイテムを回収するか」


 なんと今回は、鎧の巨人6体分のドロップアイテムだからな。

 いちいち効果を確認するのにも時間がかかりそうだ。

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