第66話 魔法の穴


 俺たち三人は帰らずの穴へとやって来た。

 ダンジョン近くの地点へ転移すれば一発だ。

 しかし、こうして上から見ているだけでも、足がすくんでくる……。


「これ、落ちたら確実に死ねるな……」

「ねえロイン、手を放さないでよ……?」

「ああ、わかってる」


 やはり、クラリスは高いところが苦手みたいだな。


 縦穴は、らせん状に降りるための道が、崖のようについていた。

 その中腹あたりに、いくつか広い足場のようなものが付いていたりする感じだ。

 それが何階層にもなっていて、まさに帰らずの穴という感じだ。

 一度入れば、登ってくるのにかなりの時間を要するだろう。

 まあ、俺は転移で一発だけど……。


「じゃあ、転移を使って降りていくか……」


 不安定な足場を、少しづつ下っていくのは危険だし、面倒だ。

 ここは転移である程度まで下がってしまおう。


「でも、大丈夫かな……? 足場のないところに転移してしまったりしないかな?」

「そこは大丈夫だ。俺に任せろ!」


 目で見える範囲になら、確実に位置のずれなく転移する自信がある。

 だから、転移を何回も繰り返しながら、少しずつ降りていけばいい。


「カナン、その目的のモンスターは、だいたいどのあたりにいるんだ……?」

「そうだね……1000ミルボンはくだらないとだめかな……」


 俺はカナンの案内に従いながら、穴を下りて行った。


「それにしても、カナンはよくそんなことを知っていたな。前に来た時はどうだったんだ……?」

「え……? 私、ここには来たことがないけど……」

「は……?」

「ただ、酒場で聞いたことがあるだけだぞ……? だって、こんなところ来る用事もなかったし……」

「おいおい……そんな不確かな情報で、こんな危険なところにいるのかよ……俺たち」

「はは……まあ、大丈夫だ」

「なにがだ……!?」


 まったく、カナンの思い切りの良さには呆れてしまう……。

 と同時に、少し頼もしくもあるかな。

 俺にはないような部分だ。

 そういう思い切りも、時には必要だったりする。


 そんな話をしながら、転移を繰り返し。

 もう500mくらいはおりてきたかなというところで――。


「ねえロイン、あれはなに……!?」

「え…………!?」


 突然、俺たちの真上に影が差した。


 ――プオオオオオオン!!!!


 そんな汽笛のような音が、頭上から轟く。

 俺は、上を見上げた。

 すると……。


「巨大な……クジラ……!?」


 空飛ぶクジラが、そこにはいた。

 クジラという生物は、普段は海や砂漠なんかに生息しているらしい。

 俺も、本や絵でみたことがあるから、その姿かたちについては知っていた。

 しかし、こんな大穴の中に、空飛ぶクジラがいたなんて……聞いたことがない……!


「ねえロイン……どうする……!?」

「そんなの、決まってる――





 ――討ち落とす!!!!」


 そして、レアドロップアイテムをゲットする……!

 だって、こんな未知の生物から、どんなアイテムが手に入るのか、気になって仕方がない。

 未知の生物は、きっと未知のアイテムを落とすはずだろ……?


「えぇ……ロイン……大丈夫なの……!?」

「まあ、大丈夫大丈夫! クラリスとカナンは、ここで待っていてくれ。危険だから、俺だけで行ってくる」

「あ、ちょっと……!」


 俺は、カナンとクラリスを広めの足場に残して、クジラの上に転移した。

 上から剣をぶっ刺せば、さすがにあの巨体も落ちるだろう。

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