第62話 酒場


「さあ、ここが私の行きつけの店だ。じゃんじゃん飲んでくれ……!」


 俺はカナンの案内で、街の大衆酒場にやって来た。

 ギルドラモンの冒険者ギルドと同じく、ガラの悪そうな連中でごった返していた。

 しかし、先ほどとは全然周りの反応が違っていた。

 なにせ、俺の横にはカナンがいるのだ。


「ふっふーん、ロインに私の街を紹介できてうれしいぞ!」


 カナンは上機嫌で、俺に腕を絡ませている。

 それに対抗して、クラリスも反対側の腕を占領している。

 客からの視線が、いっきに俺に浴びせられる。

 中には視線で俺を殺せそうなものもいたが、不思議と敵意は感じられない。

 やはり、カナンと一緒だからだろうか……。

 ランキング1位のカナン、その知名度は街中に轟くほどだろうからな。


「お、おい……! カナンが男連れてきやがった……! ど、どういうことなんだ……!?」


 店のマスター的なスキンヘッドのこわもて親父が、驚きの声を漏らし、カウンターから身を乗り出した。

 そのせいで、手に持っていた肉から汁が、他の客の皿に入ってしまう。

「おいオヤジ!」と抗議の声があがるが、親父はもう、それどころではなかった。


「なんだよ! 私だって女なんだぞ! 男くらい、連れてきてもいいだろ!」


 と、カナンはこわもての親父に言い返す。

 その発言に、酒場中がざわつき始めた。


「お、おい……カナンが女だってよ……。あれだけ女扱いされるのを嫌がっていたカナンが……!?」

「いつも男に混じって酒を飲み比べしていたあいつが……!?」

「どういうことだ……!? カナンは自分より弱い男には興味がねえんじゃなかったのか……!?」

「くそ……! 俺、ひそかにカナンのこと狙っていたのに……!」


 などと、みなそれぞれに勝手なことを言い始める。

 ここは、俺も自己紹介をしておいた方がいいかな。


「あー、みなさんどうも……ロインです……」


 ぺこり、と頭を下げる。

 すると――。


「おいおい! 兄ちゃんどんな手を使ったんだよ!」

「そうだよ! 教えてくれ! あの鉄壁のカナンを落とした裏技をよ!」

「こんなひょろい兄ちゃんが、カナンを倒したってのか……!?」

「さあさあ、どんどん飲んでくれ! 俺がおごるぜ……!」


 と、大柄の男たちに囲まれてしまった。

 これは……なかなか解放してもらえそうにないな。

 が、しかし、カナンが怒りだして、大声を上げた。


「ちょおおおっと!!!! みんな、ロインは私の客だよ! ロインは私と飲むんだから! 離してよね!」

「ちょ、ちょっと……」


 俺はカナンに手を引かれ、店の端に空いていたテーブルへ。

 クラリスとカナンが、俺の横に座る。

 いや、対面、空いてるのに……ま、いっか。


「じゃ、じゃあ……俺もなにか頼もうかな」


 店の人に、手をあげて合図する。


「そういえば、ロインってお酒飲めたの……?」


 とクラリス。


「あーまあ、あんまりだけど……せっかくだから」

「じゃあ、私もいただいちゃおう……!」


 俺はこのときはまだ知らなかった……。

 クラリスとカナンが酔っぱらうと……あんなことになるなんて――!

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