第231話 お兄ちゃんと一緒①
晩餐会の疲れか、はたまたその後の睦事の疲れのせいか。そもそも朝が弱い俺が昼になってようやく起きると、王宮のあてがわれた部屋の外から賑やかな声がきこえた。
「今すぐ、あの男を出しなさい!」
たぶん、旭日同盟のもう一人の副長であるラッキーさんだ。
はてはて、彼女がブチ切れるような事などしたかいなぁ?まるで身に覚えがないのだが?
部屋の扉を開けて顔を出すと、アイリーンが一人の日本人女性を冷たい瞳で見下ろしていた。
「やぁ、ラッキーさん、久しぶりだね。元気だった?」
「元気だった?じゃないのよ!」
グイッとにじり寄ろうとするラッキーさんの前にアイリーンがそれを阻む。
「元気そうで何よりなんだけど、もうちょっと声おとしたら?場所も場所だし」
「アンタねぇ……ゥップ!」
俺の言葉に更に怒りを露わに近寄ろうとするが、高身長ナイスバデーなアイリーンの胸によりたやすく押し返される。
「ちょっと今立て込んでるから、急ぎの用がなければ、また今度にしてくれる?アイリーンも出かける準備しろ。じゃあ」
昼まで寝てた身分の俺が言うのも何だが、こちとらこの世界で起業した
いつも口煩く言ってくるニートでお気楽なツルペタOLの相手をしてる暇はない。
ちなみにOLとは『オフィスレディー』ではなく、彼女のジョブである『オペレーション・リーダー』の略だ。
日本じゃ普通にOLだったらしいけど、ジョブとの関連性があるのかはわからない。
「ちょっと!待ちなさいよ!話しを聞いて!」
アイリーンが部屋へと入ろうとした時、彼女は強引に部屋の中へと押し入ってきた。
「あっ!」
「……あっ……。ギィィヤァァァァーー!!」
「だから入るなと言ったのだ……」
俺は寝る時は裸派だ。特に昨夜も遅くまで頑張っていた為そのままの状態で眠りについたのだ。
基本裸族な俺は裸を見られる事に然程抵抗はない。
公の場で晒すと法に触れるので晒さないだけだ。
ここは俺の領域である。だから隠す事なく、寧ろ見せつけるようにポーズをとった。領域展開である。
「うわぁぁぁあ!変態がぁーーーーっ!!」
ラッキーさんは、一糸纏わぬ産まれたままの俺の姿、特にブラ珍の珍の部分を見ると、部屋から逃げ出していった。
「良かったのか?……アレは」
「いいんじゃね?どうでもいいけど。早く支度しようぜ」
よく分からない事を考えても仕方がない。「さっきまで寝てたくせに……」みたいな目のアイリーンを無視して着替えることにした。
護衛のハイランダーを連れて王城を出ると、ゼンラ帝国大使館へとやってきた。
「ブラックホークです!異世界一年生です!」
元気良く門番に名前を告げると、応接間まで丁重にエスコートされる。
帝国の兵士はやはり良く訓練されている。多少顔が引き攣ってはいたが、護衛の武装すら解除させる事もせず案内してくれた。
帝国の大使とデアフリンガー中佐が揃って応接間へと入ってくると大使から挨拶を受ける。
「大使のアルペンハイムでごさいます。使徒様がこの大使館に直々にお越しになるとは、一体どのようなご用件でしょう?」
「まぁ、ね?ご挨拶ですよ。
Pで購入した贈答用のウィスキーとグラスを大使に渡すと、非常に恐縮された。
コイツらがどれくらい俺の事を本国から聞いているか知らないので、ちょっと探りに来たのが理由の一つ。
「それで?我々に何か御用があるのではないですか?」
「イヤイヤ、まいったな。大使はお見通しでしたか?まぁ、ちょこっと魔導通信機を貸して欲しいんですよねぇ」
「……通信機ですか……」
「そう、帝国のある人物とちょっと連絡を取りたくて」
「それは昨日渡した手紙の差し出し人ですか?」
それまで大使の後ろで静かに立っていたお兄ちゃんが会話に入ってきた。
「まぁ、そうだね。俺的にはどうでもいいんだけどね?ソイツの弟子にもちょっと込み入った用があってね」
「しかし……」と、大使が少し渋る様子を見せながらお兄ちゃんに視線を送ると、お兄ちゃんは軽く頷いてみせた。
なんせ相手は帝国の宮廷魔導師筆頭である。
「しかし使徒殿からの要件と言うのも一応伺ってもよろしいですか?いや、何せここにある魔導通信機は機密性の高い物なので……」
「ええ、勿論。おたくの国で少し前に大掛かりな麻薬組織の摘発があったでしょう?帝国からは麻薬組織は一掃……、少なくとも一番大きなカルテルは壊滅したと言っていい」
「……何故それを?それは良いとして、それが何か問題でも……」
「あるよね!?問題! 大使や武官も本当は知ってますよね?この国に討ち漏らしが大勢流れてきてるの!」
「いや、それは……」「……そうなんですか?アルペンハイム大使」
麻薬組織流入の責任が全て帝国のせいとは言わないが、重大な過失があったのは間違いない。
お兄ちゃんは知らなかったようだが、ミッドガルドが帝国に責任を表立って追及できないだけで、事を知る人達の間では周知の事実だ。
「んでまぁ、その件を私の会社が対応する事になりましてね?つきましては、事情をよ〜く知る人物に話しを聞きたいと。ま、そーゆー事ですわ」
「お前らのせいでここに出向いてきてやっとんのやぞ?」と、言外に滲ませつつ、ちょっと大使にマウントを取ってやる。
「ま、まぁ、そういう事でしたら?ええ!勿論!是非、遠慮なく使って下さい!」
揉み手でもしそうな勢いの大使に少しだけ同情する。おそらく水面下では相当ミッドガルド側から突き上げをくらったはずである。
勿論、遠慮など最初からするつもりなどないが?
むしろ、これからは自由に使わせてもらう事にするけど。
通信室へと場所を移すが、とりあえず
「あのぅ、シコルスキー様の方が先では……」
「帝国としては、『この国の麻薬カルテルは放置しておけ』と?そういう事ですか?」
「いえいえ!滅相もない!ちょっと気になっただけなのでお構いなくどうぞ!」
別に大使をいじめるつもりはないのだが、いや、貸を作る気は満々ではあるのたけど。
「……」
無言のお兄ちゃんの大使を見る目が少し怖い。
「繋がりました」と、通信手の呼びかけに伝声管のような装置に話しかける。
「もちもちぃー?童貞君?ワタシー、リカちゃん!」
『えっ!?り、リカちゃん?ど、どちらのリカちゃんだろ……。ゴメン、ちょっと……』
「オイ、お前、マジか?悲しすぎて泣きそうになったじゃねーか!オレだよ!」
ちょっと裏声で喋っただけで、この声を本当に女だと思ったのだろうか?
そうだとしたら、もう軽く冗談でも揶揄うのはよそう。だって可哀想過ぎるもの!
『え?へ?な、ななななな、何ぃぃぃ!ちょっ、おま、お前!ふざけんなよ!』
「どうでもいいけど、周りに人もいるから話し進めてもいい? あの悪徳令嬢が仕切っていた麻薬組織の件なんだが……」
『え?他に誰かいんの?今の聞かれたの!?』
「人の話し聞いてる?童貞丸出しなのはいつもの事だから、今更気にすんな。それで、ソッチで調べて欲しい事があるんだけど……」
一応当事者と面識があって、国の軍務にも就いてるDT野郎に協力してもらおうと思ってたんだけど、こりゃあ人選間違えたかもしれん。
俺もあの時、麻薬組織の事を少しだけ聞いてはいたのだが、こちらの事情と照らし合わせると、どうも情報に食い違いがあるようなのだ。
ゴチャゴチャうるさいDTに、「もっと詳しい情報を集めておけ」とだけ最後に言って、一方的に通信を切った。
「とりあえず終わりました。ご協力感謝します。これからもちょくちょく使わせてもらいますね?」
微妙な顔した大使にお礼を言うと、お兄ちゃんとの約束も果たす事にした。
「それじゃあ、デアフリンガー中佐。狩りに行きましょうか!」
「……え?い、今からですか?」
帝国から来た害獣共なんだし、駆除を手伝うのはまぁ、当然だろう?
「大丈夫。今日は生き餌を捕まえるだけだから」と、俺は笑顔でそう答えた。
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