第230話 晩餐会③
晩餐会は終始賑やかに執り行われる中、俺のもとへは数名の軍関係の貴族が挨拶に来たのみ。
他国の要人にいたっては二人だけだった。
その一人は、協商連合国の使節団代表。
この使節団代表は、協商と辺境伯とのいざこざのせいで俺に対する蟠りを感じさせる態度ではあったが、国のトップ連中とは今では割とズブズブの関係を築いる俺を軽視する事はなかった。
「フロマン議長とベッケル評議員より、最大限に便宜を図るよう申しつかっております……。御用がございましたら何なりと……」
「そうか、ちょうど良かった。協商の邸宅に近い内に家人を送りたいので面倒をみてほしいと伝えてくれ」
「お任せください」
俺の手元に置いても使い道のない、元領事で未亡人のソフィアとその息子を協商で預かってもらうつもりだ。
現在はブリスク辺境伯の所で世話してもらっているが、元々は協商の人間なので二人ともその方がいいと言う。
しかし、今のところウチから輸送に人手を割く余裕はない。
この二人には、協商に戻ったら少しばかり働いてもらう事になる。
『ブラックホーク・ピース・セキュリティー』の人材募集だ。
協商は、国軍の一般兵はへなちょこだがその分傭兵や冒険者は腕利きが集まる傾向にある。
金払いがいいから。あと、功をあげれば仕官の道もある。
ソフィアは外交官としての経験もある。死んだ旦那は元々名家だったらしいし、ベッケル家の助けがあればそう難しくないと思っている。
ただし、有象無象の輩には用はないので厳選した精兵のみをリクルートしてくれと頼んでおいた。
個人、団体は問わない。
採用にあたって、詳細な評価基準を作って渡しておくことにした。
「初めまして、使徒様。ゼンラ帝国駐在武官のヘルムート・フォン・デアフリンガー少佐です。貴方の活躍は、かねがね聞きおよんでおりますよ」
協商の代表が立ち去るのを待って、話しかけてきた若い男はそう告げてきた。
歳は20代なかばだろうか、帝国軍の正装に身を包んでいなければ、とても軍人とは思えない中性的で整った顔。フワッと香る甘い香り。
軍服越しでもわかる、その少しなで肩もやはり彼女を思い出させる。
「これはまた……、帝国貴族の中でも今、最も有力とされるデアフリンガー公爵家のお方とは……」
そう、ツェツィーリアちゃんのお兄ちゃんだ。
妹ちゃん、元気?
な〜んて、聞けるわけないけど。
「まさか、使徒様に我がデアフリンガー家を評して頂けるとは恐悦至極。はて、どなたか帝国にお詳しいご友人でも?」
「えっ!?……えぇ、まぁその……ハイ」
ちょっとサカ・ナクン・サンとして、しばらく帝国にお邪魔してたんで!その節はどぅもー!
なんて言えない……。
柔らかい表情に見えるけど、お兄ちゃん目が怖いよぅ。
コイツは知ってますわ。多分、ほとんど知られてしまってますわ。
なんだかちょっと気まずい……。
イヤイヤ!俺は、やましい事など一切していない!
……ヤラシイ事はしたけど。
何だかヤリ捨てした女の兄貴と対面してるような気不味さを感じる。
別にヤリ捨てしたわけじゃないんです!信じて下さい!
あの時の状況では仕方なかったんです!
まぁ、言ったところでせんなきこと。
ここは悪びれることなく、堂々としておくべきだ。
「まぁ、私も帝国には興味を持ってるもので、多少は調べているのですよ」
「それは嬉しい!是非ともいらっしゃって下さい!特に妹は貴方の大ファンのようで。喜びますよ!兄等、舞い上がって何をしでかすか分からないくらいです」
「へ、へーっ……」
お兄ちゃん、もう一人いるってよ。
「まぁ、家族の話しはここまでにして。実は、私もこの国に着任したばかりで、交友関係もあまり築けていないのです。どうです?近い内に狩りでも行きませんか?お得意なんですよね?」
「あ、ハイ、是非……」
「良かった!あぁ、それと私は大抵大使館におりますゆえ、御用があればいつでも」
「それでは」と、場を離れる際に握手を交わすと、手に何かを握らされた。
小さく折られた文であろうそれをそっとポケットにしまい、何食わぬ顔で晩餐会を後にした。
「なんだよ、シコルスキーからの手紙かよ!」
部屋について差し出し人を見ると、手紙を無視してアイリーンのドレスを脱がしにかかった。
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書ける時に書いておく。
基本的に、なんの山場もないシーンを書くのは結構神経をすり減らすものです。
読む側が飽きてしまわないように、セリフ回し等も気を使います。
あまり話しをすっ飛ばすと面白みに欠けるのですが、思いの外冗長になってしまいました。
次回からは、ようやく『お仕事』にとりかかれそうです!
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