第204話 ただいま
「な、なぁ、アイリーン。早くそそそその美しい顔をお、俺にみみみみ見せておくれ」
協商へと戻った俺は、愛する者との再会に胸を弾ませ、自分でも驚くほどの、その心臓の高鳴りは最高潮に達していた。
口以外を氷漬けにされたせいで、急激な温度変化によって、俺の心臓はヤバいレベルで鼓動している。呼吸も心なしか過剰だ。
「他に何か言う事はないか?」
「あ、アイリーン。も、ももも、もう……い、意識も朦朧と、して、きた……そ、そろそろ」
自分では確認できないが、今の俺は土下座姿の氷の彫像のようであるに違いない。
「貴様は、反省という言葉を知らん男だ。明日までそうしていろ」
「い、いやいや、もう死んでしまいます。それ……」
「大体、何をどうすれば皇帝殺しなんかやろうと思った?え?無茶はしないと言っただろ?言ったよな?貴様は」
「ハイ、言いました。でもなんか、流れで?な、成り行きでそうなっちゃいまして、はい。俺のせいじゃないんです、ほほほ本当です」
「それと、新しい女を作ったそうだな?」
「……黙秘します……」
「……そうか」
危うく特大の氷塊でとどめを刺されそうになったが、周りの必死の説得によってなんとか一命を取り留めた。
「やはり、この馬鹿を一人にさせたのが、そもそも間違いでしたね、姉さん」
凍傷に回復魔法をかけながらミルフがそう言った。
(そもそも、お前がチクったんちゃうんか。絶対に許さない。)
ミルフを睨みつけるとアイリーンが俺に言った。
「コイツが告げ口した訳じゃない。まぁ、態度で丸わかりだったがな」
「素人童貞は今度、オークの群れに投げ込んでやる。絶対だ」
「俺のせいじゃないだろ!つーか、他所で女作ったあんたが悪い!つーか、姉さんがいながらよくまぁ、そんな事できたな。命知らずかよ!」
「ミルフ、それはどういう意味だ?」
冷気を放つアイリーンにビビったミルフは「後は若い二人に任せて……へへへへ」と、とっとと逃げ出していった。
帝国に対抗する内に協力者ができた事、戦いを終わらせる事が神の意思であった事、皇帝に命を狙われてた事などを説明した俺は、渋々であるがアイリーンに許された。
「女の素性は分かった。すぐに迎えに行かないのか?帝国には私の知り合いもいるし、ちょうど良いから私も行こう」
ツェツィーリアの事も説明したら「中々の大物じゃないか。良くやった」と褒められた。
シコルスキーの名を出したらかなり興味深そうにしていたので、本当は自分が帝国に行きたいのではないだろうか。
「ほとぼりが冷めるまでは無理だろ。とりあえず帝国とは一度距離をおく」
アイリーンからすれば、『雷神トオル』の最後の直弟子シコルスキーは、魔術の系統で言えば遠い親戚のおじさんみたいな関係らしく、ハイランド公国出身ということもあって尊敬する魔導師の一人であると言う。
確かにアレは現段階では俺でも
しかし、その本性は最低だ。性格も悪い。
アイリーンにしては珍しく他人を敬うような発言が出たので、おっパブ成り金のスケベ爺いって事は黙っておく事にした。
できれば、あんな碌でなしに会わせたくない。
久しぶりの再会に、ついつい盛り上がってしまった俺達のところに、ベッケル爺さんの使いがやってきた。
「まったく、久々のマッタリタイムを邪魔しやがって。腰がおめぇ……。金玉は軽いけど」
アイリーンやハイランダーの半数は、ベッケル爺さんの別宅に居を置いている。
ディアミドと若手ハイランダーの一人がアイリーンと組んでベッケルの護衛。ワイアット他二名とミルフで鉄面皮おばさんのシモンの護衛を請け負っていた。
ちなみに、副長ゲイルとモーリッツ達は、ソフィアの息子を連れ高機動車でブリスク辺境領へと戻っている。
サセ湖から戻る際、ヴァルガンとウサちゃんコンビにコタロウと、ついでに傭兵志願の青年タマザを新しく購入した軽装甲機動車に乗せて帰ってきたので、ベッケル爺さんの護衛は、お役御免である。
軽装甲機動車を見るド・ゴール将軍の物欲しそうな顔は無視した。
「お久しぶりです。使徒様」
ベッケルの使いは家令見習いのジャン。ベッケル爺さんの妾の子だ。
「ああ、久しいな。わざわざお前が来るとは、それほどの要件か?」
ジャンは俺達の事を把握しており、かつ目端が効く男だ。
「いえ、然程の用というわけではありませんが、何分使徒様に接触できる者があまりおりませんので……」
俺達を知る者は行きたがらないし、知らない者に任せて下手をうたれたくない。情報はあまり漏らすなと言ってあるので、消去法でジャンにおはちが回ってきたという事らしい。
「……そうか。面倒をかけるな」
「いえ、お気になさらずに。それで、ド・ゴール将軍からのお話しを受けた追加報酬の件は、準備しておりますのでもう少々お待ちください。別件で当主からの依頼を持ってまいりました。こちらを」
渡された封書には、協商国内の不要ダンジョン一覧と協商に巣食う盗賊団などの無法者達の詳細が入っていた。
帝国でダンジョンを攻略した際、ダンジョンの攻略に味をしめた俺は、ミルフを通じておばさんと爺さんに「仕事を受注してやる」と、用意させていた物だ。
盗賊団は単純に賞金がボロい。大所帯とまでとはいかないが、今後も見据えると、金はいくらあっても困る事はない。
「結構多いな」
「まぁ、ダンジョンは別として、食えなくなった傭兵が盗賊も兼業したりするので、うちのような国では割と問題になっております」
この国は、傭兵による防衛戦力の割合が高い。
国の制御から外れた傭兵が賊に転身、もしくは兼業盗賊として悪さを働いたりするようだ。
「全部を直ぐにとはいかないが、まぁのんびりやらせてもらうよ」
真面目な俺は、真摯に使徒としての使命を果たすとしよう。
「お前ら、パーティータイムだ」
集めたメンバーにそう言う。
「「イエァーーー!!」」
ゲンナリした顔のミルフの横で、ハイランダー達はハイタッチしながら喜んでる。
アイリーンはニヤリと俺に微笑んだ。
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