第176話 包囲

「全隊!油断するな!敵は姑息な作戦しか取れない寡兵である!必ず罠を仕掛けてくると思え!」


とは言え、こんな村に戦力の五分の一の兵力を先行させるほどの必要があったのだろうか?

騎兵・歩兵・魔術部隊にゴーレム10機と豪華なオマケ付きである。


遅々として任務を完遂できない先遣隊に入れ替わって、本体である我々が北の村を確保することになった。


そもそも今の先遣隊は将校を軒並みやられ、司令も負傷中ときてる。

指揮系統はズタズタにされ、兵の士気も落ち込んでいる。


先遣隊の司令官は同僚であるオイゲン中佐だった。

優秀な男である事は間違いなく、厳格な軍人で指揮能力、作戦遂行能力においては私なんかよりは遥かに信頼できる男だ。


そんな男が出発前に「どんな仕掛けをしてくるか想像もつかん。予想してない所から攻めて来るぞ。絶対に油断するな!」と忠告してきた。

どうやら敵に転移者らしき男がいるらしい。

というか、この男一人に……たった一人に先遣隊は良いようにやられているのだ。とても信じがたい話しではあるが。



「ゴーレム隊は全機先行しろ。井戸を埋め、家屋の捜索が終わり次第、ゼンラ聖教派遣団が村の全域を浄化の魔法で瘴気を祓う」


村の制圧作戦は順調に進んでいる。

汚染された井戸なら最早潰してしまった方がいい。

川と湖は近く、魔法使いの数は十分にいる。

水の確保は問題ない。


ぱっと見た感じ、ほとんどの建物は使えそうである。

我々本隊は到着して直ぐの出撃である為、できるだけ兵達には屋内で寝泊まりさせてやりたい。


「メイヤー中佐!ゴーレム隊が戦闘に入ってる模様!援軍要請が出ております!」


「敵の数は?」

「……二人です」

「たったのか?」

「やたら素早いらしく、ゴーレム隊に被害はありませんが、捕捉が難しいと」


「騎兵隊は村を包囲!歩兵部隊は村に突入!魔術部隊はこれを援護せよ!」


これは罠だろうか?しかし、索敵魔法を使って村周辺を警戒させてある。

たった二人で何ができる?この数だぞ?


それでも私は、何か嫌な予感を抑えきれないでいる。

杞憂であれば良いが……


————————————


「この、ちょこまかと!おい!とっとと歩兵どもを投入させろ!」


まったく!我々のゴーレムとはまるで相性の悪い相手に舌打ちが漏れる。

あのハゲ頭の大男が異世界人か?確かにゴーレムの装甲を凹ませるとは驚いたが、こんなヤツに先遣隊は手こずっていたとは、なんと情けない!帝国軍の恥晒し共め!

もう一人は女か。イヤ、メスの獣人か?

あの下賎なメス獣人は、後でズタズタにして慰み者にしてくれる。


「ヤツらに我らのゴーレムは破壊できん!村の中央に追い込め!」


後は歩兵で削ってお終いだ。

然しもの異世界人でも、700の歩兵と100の魔術士達から逃れるのは無理というもの。

村の外には騎兵隊が待ち構えている。


二人の動きも徐々に精彩を欠いてきている。

まんまと追い込まれ、窮地に絶望する獲物を前に、我々の乗る装甲馬車の中は笑い出す者すらいた。


「上からは殺すなと命令されたが、捕らえた獲物の状態については一切命令を受けておらん。死なない程度になぶってやるぞ」


嗜虐の笑顔を浮かべる部下達だが、露骨に嫌な顔した部下もいた。

コイツらは後で教育が必要だな。


しかし、あの小賢しいオニツカの青二才が手こずったと聞いて少しだけ警戒したが、蓋を開けてみればこんなものか。


これで、より優秀な魔導師がどちらかであるか、はっきりと上の連中に思い知らせてやる事ができる。


この高貴な私が、あんな平民などに遅れを取るなどあってはなぬのだ!


「あああっ!」 「うわっ!」


我々ゴーレム隊の操縦者達が乗る装甲馬車内に叫び声が響く。


「どうした?騒がしいぞ!」


「遠隔魔力が強制解除されました!おそらくゴーレムが、イエ、核がやられた模様……」


「何?あんなヤツらにゴーレムの装甲が抜けるものか!この未熟者め!」


まったく、これだから低能どもは嫌いなのだ。

大方集中を切らして魔力の接続を解除してしまったのだろう。

後で軟弱者と一緒に教育的指導を行う事にする。


「いたぞ、あそこだ!フハハハハッ!見ろヤツら息も絶え絶えだぞ!馬鹿みたいに動き回るからそうなるのだ。脳なしの獣に、狩りの仕方を教えてやろう」


8機のゴーレムで獲物を村の中央に追い込み、突入してきた歩兵部隊で包囲網が完成された。


最早ヤツらに逃げ場はない。

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