第162話 激闘

「死ぬ覚悟はできたか?使徒よ」


これだから噛ませ役ってヤツは……、台詞がすでに負け確キャラのそれだ。

この主人公様に勝つ気でいやがる。


よくよく見ると、前回の時と装備が違うような気がする。

金属板の貼られた革鎧。

普通のブーツではなく鉄板剥き出しの脛当て、爪先から甲の部分にも鉄板で補強されている。

手には金属製と思われるトンファー。

これは、本気でたまとりにきてますわ。


「大分色気なくなっちゃってるじゃん!せっかくのウサ耳が勿体ないぜ?」


ウサ耳と言えば露出だろう!

そんな世紀末覇者のようなウサちゃんなんか、おじさん見たくなかったよ。


「ヴァルガンとっとと始めろ!」

こりゃあ何いっても無駄だわいな


「両者、正々堂々と闘うこと。殺しは無しだからなシシリー」


イヤイヤ、彼女、る気満々ですよ?


「それでは始め!」


デカ男の合図とともに一気に襲いかかって来るウサちゃん。

相変わらずの速さである。

蹴りか?と思った瞬間にステップで視界から消えたウサちゃん。


「フェイントかよ」


『ドゴッ!』とエグい音の方に視線を向けた時には俺の頭部にトンファーを振り抜こうとするウサちゃんが驚愕の表情で俺を見ていた。


「今のは入ったと思ったろ?」


ニヤリとそう言うと後ろに飛び退いた。


タイミング的にはドンピシャであったろう。

あんなモノでウサちゃんに殴られたら頭部陥没は確実だったろう。


「魔法か……小癪な!」


「俺は魔法使いだからな、魔法を使うのは当たり前だろ?よもや卑怯とは言うまいな?」


まぁ、本人としても「魔法か?」と言われれば疑問が残るが。


『ガードカスタム』の自動防御機能オートガードシステムが働いただけなんだけど。


防御範囲はバックラー程度で、広範囲の防御は出来ないし攻撃行動中は作動しないので無敵ではない。

不意打ちや不可視の攻撃には有効であるので、結構気に入ってる。


他にも障壁を広範囲に展開したり、自分を中心に全方位にバリアを張ったりと、防御能力は非常に高い。

力と体のステータスも1.5倍と一見破格の壊れキャラのようだが、バレット使用不可という俺のアイデンティティーすら失いかねない防御偏重モードである。


「どうした?まさか、もう終わりじゃないだろう?」

コチラからの攻撃手段は肉弾戦のみだ。

今のウサちゃんのスピードに着いていくのは難しい。

ストライカーモードなら可能だろうが、アレは攻撃力高すぎてウサちゃんを殺しかねない。

ここは防御を固めて、ウサちゃんのスタミナ切れを待つ作戦が無難だ。


「舐めるな!」

ナメプの俺に正面から突っ込んでくる。


左右のトンファーの連撃からのハイキックと見せかけてのローキック。そのままの流れで、跳躍からの三連蹴りプラス回転胴回し蹴り。片手だけで着地するとどうじにカポエラのような開脚蹴りまで見せてきた。

どんな身体能力しとるんじゃ……


全ての攻撃をオートガードで防ぎ切るが、ブチ切れウサちゃんの猛攻は止まらない。


上段中段下段を不規則かつ目で追うのがやっとの速度で多段蹴りの嵐。


これだけのハイスピードでの攻撃は、流石にと言うべきかスプリンターの性と言うべきか、ウサちゃんの息も荒くなり始めた。


そろそろかと、前に出る素振りを見せると不用意なトンファーの一撃が顔の前を通過する。

『ブォン』とそれでも一撃で意識を刈り取るには十分な威力である。


「捕まえた!」

「クッ、離せっ!は、はな、せっ!」


元々パワーなら俺の方に分があった上に力1.5倍のバフまで効いてる。

ウサちゃんに俺の拘束から逃れるのはかなり難しいだろう。

トンファーを振って身体が流れた所を後ろから羽交締めにしている。


「さて、そろそろ降参してはどうかな?」


「ふざけるな、貴様にまけ、ヒィッ!馬鹿、ヤメ、ヒィー!」


ウサちゃんの耳に息を吹きかけ、舐めたり甘噛みしたりねぶりに舐った。


「うぁああああ、ヤメローーー!」

耳先から付け根までモシャモシャと口に含んでいく俺と、断末魔の叫びを上げるウサちゃんに、すっごい微妙で嫌そうな顔のデカ男。

ドン引きする周りで見ていた傭兵や冒険者達。


「ァァァ、ァァァ、ヤメ、ヤメてくれ……。負けだ、負けでいいから……ヤメてくだしゃぁ……」


震えながらそう宣言したウサちゃんを解放すると、ドサッと倒れ白眼を剥いて痙攣していた。


「…勝負あり……。ブラックホーク殿の勝ち……」


「だぁぁぁああっしゃあ!見たか俺様の実力!」

やっぱり主人公は勝つ!勝てば正義だこの野郎!


ウサちゃんの一撃一撃にヒヤリとしたが、神チート舐めんなって事だな。


周りの盛り下がり具合はちょっと気になるが、勝ったヤツが一番偉いのだ!


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