第147話 ワタシ、サハギン

「おはようギョざいます。私、サハギンです!」


猟兵を率いて湖へと向かうと、水辺の近くで変な魚をかたどった帽子を被る白衣の男と遭遇した。


「……つかぬことを聞くが……正気……では……あるまいな」

一言で言えば、困惑だ。


朝から酔っているのか、薬物か、はたまた幻覚の魔法や呪いをかけられているのか、であろう。

気狂いの可能性も高い。

帝都でそれなりにイってる連中を相手にした事もあるが、コレは酷い。

インパクトだけでいったらダントツであろう。

男の目つきや顔は至極真っ当なところが逆に恐怖をあおる。


「ギョギョッ!?人間の言葉は難しいですね?サハギン、ギョまってしまいます」


兵士達に目を向けると、やはり困惑しているのは私だけではないようだ。

第一分隊長のホルガー軍曹と目が合うと、彼はハッと我に返った。

「小隊長殿、とにかく捕縛しましょう。正気に戻る可能性もありますし」と進言してくれた。


「そうだな、行方不明の者達を知ってるかもしれん。オイ、暴れるなよ!怪我したくないだろ?」


「ギョギョーッ!いきなり捕縛とは!なんてギョういんな人間達だ!ギョまります!私はここのサハギンを代表して人間達に会いにきたのに!」


ふと、思う。

この狂人はもしかして、我々帝国軍人を馬鹿にしているのか?と。

いや、そんな命知らずの馬鹿がいるか?


「ここはサハギン達の楽園。そう、ギョく楽浄土。人間達にはお引き取り願い鯛!」


こんな狂人にいつまでもかまっていられない。

ホルガー軍曹に目配せし捕縛させる事にした。


頷いた軍曹が部下二人と男に近いた瞬間である、「なんだよ、交渉決裂か?」そう呟く男から、今まで感じた事のない魔力を感じた。

背筋が凍り、全身が粟立つ


「軍曹!ソイツから離れろっ!」

咄嗟に声を出して止めようとした——



—————————


『掌撃』

近寄る兵士二人を派手に吹き飛ばすと、湖の水面を2回3回と"石切"のように飛び跳ねて水中に沈んだ。


急に吹き飛んだ仲間を見て唖然とする下士官風の兵士を逆に拘束する。

「動くな。仲間の首をへし折るぞ」

肩と肘を極めて制圧すると、首を掴み帝国兵を牽制する。


「軍曹っ!オイ、その手を離せ!貴様、何者だ!」


まだ幼さの残る青年が、この部隊の指揮官らしい。

捕縛された部下を気遣ってる。判断が鈍い。

武器を抜いて襲い掛かろうとしていた部下達を手で制した。

とても新米士官らしく、微笑ましい。


コチラは攻撃力の一端を見せてあげた。

十分、脅威として認識できるくらいには。


敵兵を捕縛していて動きに制限がかかってる今がチャンスだろ?

一人が犠牲になってる間に一斉攻撃。

コイツは最大のチャンスを逃した。部下に情けをかけた故に敵を有利にした。

上司としてなら好感をもてるかもな。

軍人としてならどうかな?あの若さでそこまで求めるのは酷か?

命のかかってる場面で、士官にそんな言い訳は通用しない。


まぁ、俺にとってはありが鯛ことだが。あっ、さっきのに引っ張られた。


「まぁ落ちつけよ!交渉のやり直しだ。すまんな、実は俺、サハギンじゃないんだ!」


「ふざけるな!何が目的だ!」

サハギン作戦は失敗だ。

勿論、俺だってコレで帝国軍が撤退してくれるとは思ってなかったがな。



まだ日が昇る前、水路潜入用の『ゴムボート・エンジン付き』を購入し水路にて南下、南村の村長にワンコを預ける事にした。

ゴムボート?勿論経費で落とすさ。


村長は大量のサハギンと大金貨を数枚握らせると喜んで引き受けてくれた。

そういえば、ワンコもボートのスピードに尻尾を股に挟んで大喜びしていたなぁ。



キャンプ地に戻ると、北の村に行こうとしていた俺に向こうの方からやってきてくれた。


そして、俺は思った。


「何も作戦考えてない……」と。


だって、コッチから行こうとしてたのに!向こうから来るんだもーん!


咄嗟に思いついたのがこの『サハギン作戦』だった。

結果は推して知るべし。だ。



まぁしかし、こうなっては仕方がない。

面倒なのである程度正直に話してみる事にした。


「俺、冒険者。依頼、サハギン、退治スル。オマエラ邪魔ダ、カエレ!」


「何だその片言は!冒険者風情が帝国に仇なすつもりか?交渉などと分をわきまえろ!」

まぁもっともな意見だが、人質がいる以上、話しだけでも聞いてもらう。


「ぐぅっ!ぎぃっー!」拘束していた兵士の関節を締め上げる。


「部下がどうなってもいいのか?」

「この卑怯者め!」


青年士官は頭に血が登っているが、それ以外の兵士達はすでに平常心を取り戻していた。

個々の武はそれほど脅威ではなさそうだが、練度は高いらしい。


「お前らコソ泥には言われたくないがな」

「何!?」


「自覚ないの?人様の土地をセコセコとみみっちく盗んで回ってるそうじゃないか。コソ泥と同じだろ。コソ泥帝国に名前変えろよ」


「我が栄光あるゼンラ帝国を愚弄するとは!万死に値するぞ!」


「まぁ、その全裸帝国って言うのも、なかなか変態っぽくてアレな感じだけどな」


「貴様!偉大なる初代皇帝ゼンラ=タイキ様をも愚弄するかぁ!」

うん、ソイツ完全に変態じゃんね。


「栄光ある帝国かなんかしらんが、超絶凄腕冒険者であるこの、サカ=ナクン=サンの邪魔をするなら殺すだけだ。今なら見逃してやってもいいぞ?」

いまだGランクだけどな。なんなら名前すら偽ってる。


「許しを乞うのは貴様の方だ!部下を解放しろ!」


何故だろな。いつもこうなる。

まぁ、どのみちヤリ合う事になってたし、物事はシンプルな方がいい。


要するに、ゴリ押しが一番って事だ。


捕虜は二、三人でいいか



俺は、わめく青年士官に笑顔を見せると、彼の部下の首をへし折ってみせた。





—————————


尊敬してます。本当です。

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