第135話 中央都市 死神の列①
「つーか、俺にもその黒い戦闘服ねーの?」
ベッケル爺さん宅訪問の翌日、その配下の連絡員が手紙を持ってきた。
内容は『日の入りから一刻後、日の出の一刻前まで』
その間に片付けろと言う事らしい。
どんな手を使ったかは知らないが、この間は邪魔が入らないようにしたらしい。
あの爺さんいい仕事するなぁ。おまけに対応も速いときた。
早速準備に取り掛かる俺達が、揃いの黒いBDUを着込んでいるとアホなミルフが物欲しそう顔でたずねてきたのだ。
「お前、何の役にも立ってないくせにどんだけ図々しいんだよ」
「これから役に立つんだよ!つーか、急いでここに来たせいでお気に入りのローブがボロボロになったんだよ!」
「知った事か。コレは高いんだよ。お前のようなフニャチン野郎には勿体無いぜ。お前なんか初期装備で十分だ」
「なんだと!つーか、コノヤロウ!言わせておけばコノヤロウ!」
語彙乏しくギャーギャーと騒がしいミルフを無視しているとディアミドがしょうがなく相手していた。
「童貞風情がこの戦士の装束を着るなんて百年早いぜ?もうちょっと漢を磨いてから出直しな、坊主」
渋みと強者のオーラ全開のディアミドに言われてしまえば「キィーーッ!」と悔しがるしかないミルフ。
ついでにアイリーンからも魔法使いの先輩として一言賜ってた。
「下僕の分際で生意気だが、その気概だけはかってやろうじゃないか。貴様のようなペーペー魔法使いにも私は公平だ。今日は私の側で戦わせてやる、十分な戦いが出来たらこの服をお前にもやろう。ありがたく思え」
アイリーンが側に居れば、まぁ平気か……
「流石、姉さん!このDランク最速の男が本気見せてやりますよ!」
「ぶっちゃけ、Dランクくらいで威張られてもなぁ……」とこぼすと、「つーか、Gランクおじさんだけには言われたくないぜ」と痛い所をつかれた。
未だに冒険者最低辺のGランクの俺はちょっとだけ傷ついた。
だが、俺は大人だ。怒りに任せて怒鳴り散らしたりなどしない。
こういうのは笑って返すのが大人の対応だ。
「殺す……」
笑顔でミルフの首を絞めて白眼を剥いた所で慌てて周りから止められた。
「お前はもうちょっと下僕を大事にしろ。こんな所で殺してどうする。もっといい死に場所を用意してやるのも主人としての勤めだろう」
アイリーンの言い分も大概だと思う。
周りのハイランダー達もちょっと引いてるし。
グッタリとしているミルフに、只々憐憫の眼差しを向けるハイランダー達であった
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「イヤー、そりゃたまげたのなんのって!ヌッと現れたのが死神の集団よ!もう寿命が縮まったね。五年、イヤ十年は縮まったね!え?格好だけ?はん!そりゃ現場を見てない奴の台詞だぜ!」
エールを飲み干した男は周囲を見回すと声を落として尋ねた。
「本当に大丈夫なんだろうな?俺が話したなんてバレたら……」
ブルッと身を震わせる男は本当に怯えているらしかった。
この男とて名高い傭兵団の一員で、都市の権力者達が住まう住宅街の警備を担当していた位には腕が立つ。
そんな男がまるで小動物のように震える様を見ても信じ難い話であった。
「全員が黒装束に身を包み、口元を髑髏のマスクで覆っていた。いや、そういや一人だけボロボロのローブを羽織ってるヤツがいたなぁ……まぁ、それはいいや。それでそいつらの黒装束の肩辺りに、死神が鎌を担いだ刺繍が見た事ないくらいの精緻に施されてたわけよ。ありゃー、相当なもんだったぜ?俺?はっはっはっ、アンタね、俺も強えよ?でもね、死神には勝てねぇよ!人間相手なら何とかなるだろうけどさ。現場見に行った後思ったぜ。俺は生きてて良かったーってな」
男がエールから蒸留酒に切り替えたらしい。
ボトルを受け取り、店員が離れるのを待って話しを続けた。
「奴等を見た瞬間、恐怖のあまりに剣を抜きそうになったんだ。ガタガタと震えながらね」
自重気味に笑い手の平を握っては開くを何度か繰り返した。
「初めて人を殺した時よりビビったぜ。俺がもっと若かったら、隊長が横にいてくれても泣いて逃げ出すかションベンちびって腰抜かしてたぜ。まぁ、それで隊長が抑えてくれたんだよ、震えながら剣を握る手をな。『アンタらが例の部隊か?』なんて上擦った声を抑えて聞いたわけよ。いや、隊長がだよ?俺は逃げたいのを我慢するだけで精一杯よ。知ってるか?あのベッケル家の『蒼眼の巨星』と『紅眼の彗星』をヤッたのもその死神の一員って話だ。それを聞かされてたんだ。この国で最強の二人がいた傭兵団だぜ?それを一人で壊滅させた奴がいるんだ、ビビらねぇ方がどうかしてるぜ!まぁ、いい。それで奴等の隊長らしい奴が言ったんだ『特殊治安介入部隊ですー』って。そんな部隊知らない?俺だって知らねぇよ!軍の治安組織の中の秘密部隊かなんかじゃねーの?まぁ、そんで『念の為、割符を』って言うと『ハイハイこれね』って、コレまた軽い感じなわけよ。コッチは死ぬほどビビってるつーのに。今からお祭りに行くみてーにさ、何となくワクワクしてるっつーか、楽しそうな感じよ。え?だからぁ!俺らはそいつ等を素通りさせるのが、あの日の仕事だったの!絶対に敵対するなってね。奴等が何をするかなんて知らなかったって」
男は度数の高い酒を一気に呷ると、手酌で並々とグラスに注ぐ。
「そいつ……隊長らしい男が言ったんだ『死にたくなければ手出しはするな』って。アレは笑ってたと思う。『それじゃあ、お勤めご苦労さんね』て言ってたな。その時はちょっと拍子抜けだったぜ?まぁ、その後片付けをした身としちゃあ、あの時の俺の勘が正しかったって思ったぜ」
皮肉な表情で笑う男の顔から笑みが消えると、呟くように言った。
「アレはお祭り向かう死神達の列だったんだ。誰が一番残酷に人を殺せるかの競争でもしてたのかもしれねぇな……」
男は傭兵を引退して故郷に帰ると少し笑って店を出て行った。
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お久しぶりーフ
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