第134話 中央都市 カスタム
ベッケル家で昼飯をご馳走になった俺と護衛のディアミドとワイアット。
昼間から子豚の丸焼が出できて、さらにそれを切り分けるのがベッケル爺さんだったのが少し驚いた。
「この家の主が大事な客をもてなす。我が家の伝統だよ」と言う。
大きな窯で焼いた子豚の皮はパリパリで旨味が強く、ハーブと塩の効いた肉は柔らかく、しつこさもないのでペロリと食べられた。
ベッケル爺さんの長男も同席していた。
商売全般をこの長男が引き継いでいるらしい。
後ろ暗い商売を専門に商うガゥネッド商会も含めてである。
金勘定の才能がある人間とは仲良くしておきたい。
多少の恩を着させてやるのも、こういう連中と上手く付き合っていくコツだ。
頼み事をするというのは、こちらからの歩み寄りの証と言ってもいい。
「ギリーという男は信用は出来ないが、使いようによってはそこそこ使える。鎖に繋いでせいぜいこき使ってくれ」
狐との約束もあるので、ハイランダー達との
こう見えても俺は約束を守る男だからな。
「それにしても、ハイランダーの傭兵隊とは中々良い護衛を雇ったな。昨日の護衛はハイランダーではなかったようだが、そこの彼等がウチの別邸にピクニックしに来たという連中かね?」
ソフィアの息子を救出した件だ。
「昨日の二人はブリスクの衛兵だ。辺境伯の息子とその護衛で、今日も誘ったんだが全身がバキバキにされたからって断られたよ。甘やかされて育ったせいか軟弱なんだ。その点コイツらは、死んでも戦いそうなくらい頭がイカれてて良い」
爺さんは何でもないといった顔だが、息子の方は複雑そうだ。
「それはいいな。例の魔女とも会ってみたい。こちらに連れているのだろう?」
「俺の情報はどんな風に伝わってるんだ?」
「フム、『魔女と聖女の力に縋ってイキがる腰抜け』とかなんとか。だったな、ホランド」
急に振られた長男は青い顔をして慌てる。
「ち、父上!いやー、ハハ、あくまで噂ですよ噂。どこからそんな情報が流れてきたんでしょうねー」
「俺が流したんだけどな」
「え?」
「おかげで結構な馬鹿が釣れたぜ?アンタの親父は逃してしまったが、デカイ魚だったなぁ」
「ああ、危ないところだったがな」
「そ、そうだったんですね……ハハ……」
長男はまだ親父ほど肝がでかくないらしい。
「まだしばらくはこの噂のままにしておきたい。よろしく頼むよ」
「そういう事であれば、我がベッケル家の情報網を使って広めておきます」
流石にその内バレるだろうけど、まぁやらないよりは良いだろう。
この時はまだベッケル家の総力を上げた情報操作を俺は舐めていた。
因みに、肝がデカいのかただの馬鹿なだけなのか無駄に尊大だった次男である優男は療養の為に軍籍を離れる事になるそうだ。
話しも弾んでいたが、明日からの準備もある。
辺境伯の息子や魔女も今度連れて来ると言ってお暇する事にした。
武器屋街で買い物でもして帰るからと送りの馬車を断ったのだが、不慣れな俺達を案内させると若い執事が同行する事になった。
「ジャンと申します。以後お見知り置きを」
聞けばベッケル爺さんの妾腹の子だとか。
爺さんには三人の正妻と多数の妾がいるのだとか。
ハーレムヤリチンジジイ恐るべし。
ジャンは現在、家令になる為の修行中らしい。
嫡男が跡を継ぎ妾腹の子がそれを支え、その他の子らもほとんどは、ベッケル家の商売を手伝っているらしい。
出落ち感が凄かったが、武の才があった次男だけが軍人になったらしい。
ベッケル家の息のかかった店に案内され、気に入った武器や防具、ポーション等の消耗品を購入したのだが、その代金は全てベッケル家持ちとなった。
ハイランダー達の装備一式を新調したのにそれを屁とも思っていないジャンも、やはりベッケル家の人間ということなのだろう。
教会に戻る頃には陽が沈もうとしていた。
「連絡要員が必要ならご用意しますが?」
「一日中周りに配置してた奴らの事か?好きに使っていいならありがたく使わせてもらおう」
MAPさんで捕捉していた連中の事だろう。死角や人混みに紛れていたので直接目では確認出来なかったが。
「お気付きになられていたのですか。使徒様もお人が悪い」
少し驚いた様子だったが、すぐに笑って返してきた。
「コレを吹けば姿を見せるよう言ってあります。では、私はこの辺で失礼します」
ジャンは小さな笛を俺に渡して帰っていった。
「遅かったな」
アイリーンの部屋に入ると、朝方の疲れもなさそうで安心した。
「結構面白い爺さんでな」
「あれだけやっておいて、また仲良くなってきたのか?呆れたヤツだ」
「今度は『ご一緒にどうぞ』と言ってたぞ」
「ただでは転ばない人種か。厄介そうな相手だ」
「今の所問題ないだろう。ヤツらは利益にならない争いはしないからな」
「お前を敵に回せば利益など吹き飛ばされるだけだからな」
「俺は、お前の力に縋ってイキがる腰抜けの男なんだ。優しくいい子いい子してくれ」
ベッドに腰掛けるアイリーンの膝に頭を乗せて甘えると、ため息を吐きながらも優しく髪を梳くように撫でてくれる。流石は俺の女神。
「それで?今日はお祝いしようとか言ってなかったか?」
あ!完全に忘れてた!
聖堂に皆んなを集めて使徒っぽい所を見せつけてやる。最近、俺の存在を悪党側だと皆んなに思われている節がある。ここらでちゃんと聖なる使徒であると改めさせよう。
「諸君、私が聖なる使徒である証を見せよう!ありがたく思うがいい!」
何言ってんだコイツみたいな顔をしているが、そんな顔してられるのも今の内だぞ?
「コホン!それでは神の祝福を我が身に!
気合いを入れてポチッとした職業進化Ⅱは75万P。
でもね、俺知ってる。どうせ運営さん、またふざけた職業にしてくる。
光の輪が若干前回より多い気がする。
その光の輪が収束され光が俺を包む。
呆然とするハイランダー達と、拝み涙する教会の者達の熱量差よ。
なんか面白いモノを見れた!程度のハイランダー達の反応にはガッカリだ。
そんな事より結果だ!『まほうつかい改』からの進化はやはり改二か?諦めてるって?嘘だよ?やっぱり気になっちゃうぅ!!
コマンド!ステータス!
職業:まほうつかい カスタム↕︎
「はぁ?」
[職業進化を確認しました。レベルキャップを解放します。次の上限は40です]
カスタムっ何?改と同じじゃないんか!パワーアップしてんのか?つーか、『まほうつかい』に『カスタム』とかどういう組み合わせだよ!センスのカケラもないだろ。マシーンじゃないんだぞ?
(それにしても、この矢印はなんなんだよ)
カスタムの後ろについてある↕︎に軽く触れてみると追加ウィンドが開いた。
『まほうつかい スナイパーカスタム』
『まほうつかい ストライカーカスタム』
『まほうつかい ガードカスタム』
「モビルスー○かよ……そうきたか……」
状況や作戦に応じて能力を変更できると……
ちょっと…いや、かなりカッコイイじゃねぇか!
『まほうつかい』の部分に目を瞑ればな!
「もう解散していいのか?」などと言ってるハイランダー達を無視して、俺は新しい能力に夢中になっていた。
—————————
今回の進化先は『カスタム』でした。
『かすたむ』と悩んだんですが、バージョン選択方式にするともっさりし過ぎたのでコチラになりました。
言いたい事は多々あろうかと思いますが、異論は認めませんw
それでは、引き続きどうぞ宜しくお願いします
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