第131話 中央都市 水を差される死神
兄弟漁師の漁船の歌を熱唱。
ハイランダー達は俺の歌に何かを感じ取ったのだろうか……
ディアミドは目をつぶり腕を組んで仁王立ち。
ワイアットなどは涙を流して聴き入っている。
そうか……鳥羽もイケるのか……
正直、「何やねん!コイツら!」
と、思わなくもないが、とりあえず流しておこう。
俺は、荒れ狂う気持ちをなんとかおさえようと、マリアンヌから紹介してもらった教会で気分転換に演歌を熱唱していた。
アイリーンとハイランダー達は無事に人質であるソフィアの息子を救出してくれた。
俺はと言うと……ベッケルをあれだけ追い詰めておいて仕損じた。
まぁ、正確に言えば殺す寸前で"待った"がかかってしまった。
なんとも中途半端で煮え切らない感じがイライラする。
それも、盟主のタマちゃんだけならいざ知らず、依頼人の辺境伯に言われてしまえば矛を収める他なかった。
そう…それは、大男とウサ耳女を降した俺が、ベッケルに「辞世の句は詠まなくてもいいのか?」と余裕ぶっこいて調子にのっている時だった。
タマちゃんからのチャットが入りそれによると、ベッケルはタカ派と手を切ってこの国の代表であるフロマン議長とやらがいる"中立派"と手を組んだと。
「それがどうした」と言ってやったのだが、どうもその代表とやらが、今後の転移者達の同胞団への支援金・各種協力を武器に圧力をかけてきたらしい。
ベッケル氏への攻撃は控えて欲しいと。
同胞団的には今後の転移者達の、特に「開発・生産系職業の者や能力者達の生活に協商連合国の協力は欠かせない」と。
しかしながら、俺も依頼を受けてる身である。
それに、もう賽は投げられた。
走りだしたら止まらないのは、土曜の夜の天使だけではない。
そうチャットで主張したのだが……
———もう遅くない?既に殺す寸前なんですけど?
———ベッケル氏さえ生かしておいていただけたら、後は特に問題ないかと
———俺にも依頼ってもんがあるんですけど?契約不履行はちょっと勘弁なんだけど?俺のプライドと信用に傷が付いてしまう
———今さっき、姫凛さんを通して辺境伯にはベッケル氏助命の了解を得ました。本当ギリギリでした。間に合って良かったです
———……了解した。そこまで手を回しているのであれば、今回は手を引きます。しかし、これ以降の邪魔立てはご遠慮いただきたいものですな
———それはお約束します。残りは存分に暴れて頂いて結構です
だとよ。
タマちゃん本人が悪いわけではないし、邪魔立てしたわけでもないのは分かってはいるのだが、やはりどうしても気に食わない気持ちをぶつけてしまった。
ベッケルを簡単に殺すのはほんの少しもったいないかなと思ったのは事実だが、外野から邪魔されるのはやはり別である。
ストレスマッハな俺は、さっきから一人でブツブツ言ってる俺を訝しむベッケルに声をかけた。
「今、あんたを殺すなと同胞団から連絡を受けた。命拾いしたな。辺境伯と神に感謝しろ」
ベッケルは安堵の表情を隠さなかった。
色々と手を回していたようだが、一つ忠告をしておく事にした。
俺は応接室にベッケルを残し、指向性散弾でふきとんだ壁の穴から外に出て、包囲していた傭兵達にズタボロになったウサ耳女を見せつけてやった。
驚いた事にウサ耳女はまだ生きていたのだ。
ほとんど死にかけだったが。
「お前ら西の傭兵はまるでゴミだな!何の役にも立たないクズだ!コイツのようになりたくなかったら!とっとと消え失せろ!依頼主を見捨てて!脱兎の如く逃げていいぞ!ウサギだけな!」
傭兵を煽り、罵倒した。
気色ばんだ傭兵達にボロボロになったウサ耳女を放り投げると一斉に襲いかかってきた。
コイツらが大男やウサ耳女程の強さはないのは分かっていた。
数は30人弱
手の平を前方に向け、もう一度"指向性散弾"を発動させた。
範囲内の十数人を穴だらけにし挽肉にした。
内臓を垂れ流し、脳みそはグチャグチャで手足が無いやつまでいる。
やはり、あのウサ耳女の耐久性が異常だっただけだったのだ。
「やっぱり俺って凄いじゃん!」
自画自賛の言葉を口にした。
魔力を感知し、魔法陣を展開する集団に目をやると既に発動寸前だった。
防弾盾を取り出すと、構えると同時に火矢が着弾。
こちらの魔力を装填する間に、間を置かず火槍が飛んできた。
流石の中級魔術に結構な衝撃にその場に釘付けにされた。
発動のタイミングが早い上に魔術士同士の連携も良い。
すかさず近接戦闘組が襲いかかってくるのを土石壁で妨害する。
仲間の被害に怯むと思っていたのだが、中々どうして勇敢な傭兵達だ。
壁を乗り越えてきた二人の頭をバックショットを模したバレットで吹き飛ばす。
頭がまるでスイカのごとく弾け飛んだ。
壁を回り込んできた左右の傭兵に両手を広げて2丁のソードオフショットガンのように交互に撃ちまくってやった。
バックショットは貫通力こそ大した事ないが、近接戦闘での威力はかなりのものだ。
特にマン・ストッピングパワーには目を見張るものがある。同じくらいの装弾数でならの話しだが。
ドイツが塹壕戦でトレンチガンを禁止して欲しいと言っただけのことはある。
雨霰のような散弾の嵐で近接チームを壊滅させると、魔術士チームが俺を土石壁ごと打ち砕かんと魔法を打ち込んできた。
それを土操作の生活魔法で補強するが、壁は削られ反撃もままならない程の火線である。
ついには壁が崩壊。
「やったか!?」
それは、フラグだぞ?誰だ言ったヤツは
「ざまぁみろ!」「クソが!おかげで魔力が枯渇寸前だぜ」
そいつはいい事を教えてくれた。
「バアッ〜!」
地面に穴を掘って防弾盾で蓋をして凌いでた俺が飛び出すと、揃って化け物を見たような顔をしていて笑える。
知ってるか?
「クソったれの化け物め!」
魔術士達の練度は高く、立ち直るのも早かったが、死神の鎌はそれよりも早く正確に容赦なく魔術士達を襲った。
魔術を行使しようと魔力を練る。頭が吹き飛んだ。
魔法陣を展開する。胸に風穴が空いた。
発動させるべく口を開いた瞬間に後頭部に花を咲かせて崩れ落ちた。
顎を殴られ首の骨が捻切るようにはずれた。
喉を掴まれそのまま地面に叩きつけられ、頭がトマトのように潰れてしまった。
仲間の魔術士達が殺される様を見ていた治癒士はそう語った。
少し離れた所で傭兵のリーダーに治癒魔法を施していて助かったと。
外の傭兵を片付ける、とちょっとだけ気分が晴れた。
アイリーン達に渡していた信号弾が上がった。
緑色のそれは、成功の報せだ。
「爺さん、話し合いは明日にしよう。それと、人質は返してもらったぜ」
そう言って、集合場所の教会へと向かった。
モーちゃんとラッドを小脇に抱えて。
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昨日は日曜日だったからか、PVとフォロワーが凄い伸びでした。
やっぱり、嬉しいですね。
読んでくれたかた、いつも応援してくれてる方、本当にありがとうございます。
感謝の気持ちをけつ割り箸で表現したい!
常々そう思っております。
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