第73話 ブリスク②

「私は、お前の後ろにいるとは言ったが、後ろ尻穴の面倒を見るとは言ってないぞ」


そう言いながらも『ケツ割り箸』でダメージを受けた俺のお菊さんにヒール軟膏を塗ってくれるアイリーンには感謝しかない。


「んっ!ぁぁぁっ……ぉふぅ」


「おい、貴様ふざけてるのか?そんなに氷柱アイスニードルを尻穴にぶち込まれたいならそう言え」


昨夜の乱痴気騒ぎで、お上品な一発芸をかましたせいでアイリーンの機嫌がすこぶる悪い。


「そんな怒った顔も嫌いじゃないぜ。待て待て待て!冗談だ!」


危うく氷柱で串刺しにされる所だった。

流石に氷柱で掘られるのは無しだ。




氷柱による貞操の危機を何とか脱した俺は、白光教団の教会に来ていた。

不機嫌アイリーンは用事があるとかで別行動だ。


「お待ちしておりました、使徒様」


「ああ、それで向こうクンニ派の方はどうだ?」


「はい、審問官を始めとする一団が未だ戻らない事を不審には思っているようですが、粛正にはまだ気付いていない様子。コチラに探りを入れに来てたと報告を受けてます」


「それではとっとと"型に嵌め"にいこうか。捕虜の審問官は?まだ生きてるなら一緒に連れて行ってやろう」


昨日より明らかに痛めつけられたご様子の審問官を引きずってブロリー団長が姿を現す。


コイツら結構過激なんだよな


ブロリー団長のガントレットには乾ききっていない血がついたままだ。


「審問官への聴き取りは一通り終わっておりますので、大司教"様"に返しても問題ありません」


片手で審問官の首を掴み上げて無理矢理立たせる。


「良かったな、審問官殿。"仲間"の所に帰れるぞ」

と、先に逝った仲間の元に帰れるぞという意味も込められた小粋な台詞に震える審問官。


「ぁ、ぁぁっ、うぅ……」と、感動で言葉も出ないご様子。


「大人しくしてろ」と頭陀袋に押し込むブロリー団長は、どう見ても聖職者よりヤクザ者といった方が納得できる。

折檻の作法は下手なヤクザ者なんかよりよほど手馴れてる感が伺える。


あーこわいこわい



馬に頭陀袋を乗せて先導している団長が、

「どのように乗り込みますか?」と、聞いてきたので「良きに計らえ」と言うと、そのギョロ目を溢れんばかりに剥き出して喜んだ。


騎乗で神域に足を踏み入れる闖入者俺達に、神官らしき男が制止を求めた瞬間、頭がスッ飛んで首無しの体が崩れ落ちた。


とても金属の塊りの戦棍を片手で振るったとは思えない速さだった。

薄々そうだろうなとは思ってたいが、コイツもアイリーンと同じく"超越せし者"ってやつらしい。



コッチの世界では稀によく居る存在で厳しい修行や訓練・魔物の退治などによって人智を超えた存在になる奴らの事だ。


能力や力の強弱はピンキリらしいが戦闘を生業にする者や神職・魔法使い等に多いとされている。

俺達のレベルのような明確な基準はないが、『神からの祝福』とされている。


魔物を狩るのが手っ取り早いのだが、本人の活躍と努力なしには祝福は訪れないらしい。


アイリーンと『基本情報』による知識だが、異世界人程の効率的ではないが一応コチラの世界の人間にもレベルアップは存在するようだ。



どうやらダイナミック・エントリーと洒落込む様子の団長は「神敵を匿う者も又神敵なり!大司教は何処いずこなりか!」と叫びながらズンズンと聖堂に踏み込んで行った。



————————


「何やら騒がしいですね、ようやくあの男達が戻って来ましたか?」

ドアを開けて入室してきた祭司に問うと、顔を青くしながら震えながらも報告してきた。


「は、白光騎士団が、白光騎士団が暴れてます!聖堂内で!暴れてててて!同志達が!」


「—ッ⁉︎」


よもやの白光騎士団による襲撃に我が耳を疑う。

いくら使徒を横取りしたとしても、聖域に乱入し暴行を働くなど、同じ聖職者・教えを同じくする聖教の徒とは思えない狼藉である。

それに、使徒は未だ自分の手には届いておらぬ……


—まさか、審問官が裏切った?—

ありえない

あの男は根っからの狂信者だ、それも神よりも教皇に対してのだ

教皇が命じたのか?

聖女や私より先んじて確保するように?

神聖教国本国も、あれ程までに御布施を献上し続けている私を無視できるはずない!


教皇より賜りし錫杖を掴むと恐怖で震える司祭を蹴散らし、肥えた体で聖堂本殿に急ぐ。


「やぁ、あんたが大司教か?見事なまでに肥え太った豚だな。友達を返しに来てやったぞ」


見たことも無い男が馴れ馴れしく無礼なことを言ってきたが、目の前に広がる惨状に上手く言葉が出てこない。


身体の一部がひしゃげた死体が散乱していた。

『聖棍』のブロリーが返り血で赤く染まっている。


「き、貴さ「俺が、あんたが審問官に確保させようとしていた"使徒"だよ。ブロリー!お友達を!」


『聖棍』が頭陀袋から人型の物を取り出すと、ソレは原型をとどめていない審問官らしかった。


「罪状は"使徒"誘拐並びに威力業務妨害、背信、利益独占を企図し私的に流用しようとした疑いだ。他にも色々吐いてくれたが俺には関係ないから取り敢えずだ、何か釈明することがあるか?」


"使徒"だと?

コチラの世界に放り出されて然程経っていない今、"力"が無いか非常に弱いのではなかったのか?


「背信?罪状?この世界の異物であるモノ風情が小癪な!あっ?」


男が指を向けてきたと思った瞬間、腹が熱くなった


手で押さえるとベッタリと血が付いているのが分かった。


「面倒だし、判決は"死刑"かな?ブロリー団長どう思う?」


待て、待ってくれ!身体に力が入らない……


「……使徒様の御心のままに」


男はツカツカと近づくと何の関心もない表情で、

「心配するな、仲間達が待ってるぞ。それに、お前のような奴らをこれから随時、追加で送ってやるから、心配するな」


男はニカリと笑うと腰の短刀を抜いた

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