第68話 モブ後編 閑話

「それで?朕の神通力ちからが弱い所為で見つけ出せぬと申すのか?」


「滅相もございません!我々の不徳と致す所でございます!」


 玉座に座る皇帝は深く息を吐くと「下がって良い」とだけ言うと臣下の者達を追い払う。


 "大都に降臨せし使徒の従士あり、此れをたすけよ"


 天より告げられた声に、官民を挙げて従士の捜索を行ったが結果は芳しくない。


 大都は広い。数十万の人間が住むこの都で、たった一人を見つける事が簡単なはずがない。

 捜索に当たる人員にも詳しい話しは出来ない。


 天子たる皇帝である私よりよほど天の御加護を受けし者が降臨しているなどと、おいそれとは言えない。

 全てを知る者は重臣と身の回りの者達だけである。


 後は、大僧正も声を聞いたと参内のおりに報告しに来たな……


 正直面倒だと思ってしまう辺り、私は天子などというモノに向いてないのだと思う。


 私の神通力ちからは然程強くない。

 もっと言うと、ここ何代かの皇帝は緩やかに力が落ちてきていた。原因は分からないが確かである。

 そのせいで使徒様ではなく一段落ちる従士の降臨となったのでは?

 そのせいでお迎えできずにいるのでは?

 言葉にはしないが、そう思う者がいてもおかしくはない。


 その上身体が弱い者が続き、最早呪いであると言われた方が納得いく始末。


 私には腹違いの兄がおり、神通力ちからがなく皇帝位に就けず見ていて気の毒なほどに荒れていった。腹違いの弟の私にも優しくしてくださる方だったが二年前に病に倒れ、呆気なく亡くなった。

 兄が継いでくれていたらと、考えない日はない。


 私は幼い頃から武侠物語が大好きで隠れて愛読しており、大きくなったら大陸のあちこちに飛び回る冒険者になりたかった。

 皇帝位に就かずとも土台叶わぬ夢ではあったが……


「従士か……」せめて使徒様であれば、この身に刻まれた様な呪いの痣も消してくれたりしたのだろうか?


「はぁ……」

 日に日にその痣が広がっていくのを思い出すと溜め息も出ようというもの……


「陛下、御気分が優れないご様子……お休みになられては?」

 第一皇后が声をかけてきた。

「うむ、そうしようか。端姫皇后にも気を遣わせてすまぬな」


 いまだこの授からぬ事に対しても、身体が呪いに蝕まれていく不安も皇后である彼女に申し訳なく思っているのだ。



 ————————


「慶雲老師!只今ちゃん!」

 護身術を教えてくれた坊様に帰還の挨拶をする。


「モブ太さん、無事でなにより。初討伐のお仕事はどうでした?」


「もう、俺ちゃんね、バッサバッサと小鬼を切り捨ててね、見せたかったなぁー!」

 まぁ、相手が弱くて助かった感はある。

 前髪は燃やされたが……依頼は成功だ。


「それは何より」と慈愛の笑顔で労うが、武術の指南は鬼のように厳しい慶雲ちゃん。


「それでさ、俺ちゃん路銀を貯めたいんだけど、も少しだけここに居させてくれないすかね?」

 今日の依頼と魔石の売却で1200銭。宿や飯の相場を鑑みるにおそらく一万二〜一万五千円程度の稼ぎとみた。

 日銭としては毎日働けば何とか生活はできそうだし、レベルアップとコマンドが使えるようになったので徐々に稼ぎは増えるだろうと思ってはいるが、いかんせん今のレベルは2だ。

 ブラ珍さんみたいに素で鬼強い奴ならいざ知らず、俺ちゃんそこら辺普通だし。


 職業ジョブ義賊ぎぞく』だし……

 何なん?義賊って!所詮賊なんだよね?

 ブラ珍さんに言ったら嬉々として狩りに来そう……


 神様せめて『忍者』とかにしてくんねーすかね?


「モブ太さんは同門であり教えを同じくする同志です。巡礼の旅をされる程の信心深き者を助けるのは我らの誇りであり義務でもあります。天子様の下、我々は共に兄弟なのです。少しと言わずに十分な支度ができるまで此処に居なさい」

 と慶雲ちゃんが言ったくれたので、お言葉に甘えまくる事にした。


 巡礼者の装束だと外に出る度に"お接待"のような喜捨をされるので何とかならない?と相談すると、武僧の衣装を貸してくれた。

 そこはかとなく少林寺っぽいが、頭を丸めたりはしなくていいらしく超安心。夜もグッスリである。


 ひたすらレベルアップと路銀稼ぎに精を出した。

 途中数人ではあるが、他の仲間達とも連絡が取れるようになったのは嬉しかった。


 ある日、寺院に戻るといつもの雰囲気とは違っていた。見たことない坊さん達が何人もいた。


「モブ太さんお帰りなさい!ちょうど良かった!今、この寺院に大僧正様がお見えになっているのです!」いつになく興奮気味の慶雲ちゃんによると、偉い坊様が来てるから一目見とけという事らしい。


 同門の者なので遠慮なく近くまで行って声をかけてもらいなさいとグイグイ背中を押される俺ちゃん。


 別に騙してる訳ではないが、教えとやらに然程興味はないし偉い坊様にも興味がない。


 神様に拉致られた身としては信仰するのも複雑だ。


「大僧正様!こちらは巡礼者であり同門のモブ太殿です!是非お言葉を……」

 慶雲ちゃんが言い終わる前に大僧正ちゃんが俺ちゃんを見て拝み出す。


「まさか、こんな所においでになっていたとは……拙僧の不徳のせいで長らくお待たせしてしまい、何卒お赦し下さいますよう!平に平に!」

 平謝りの大僧正ちゃん、呆然とする慶雲ちゃんに

 困惑の俺ちゃん。


「うぇ!いやいやいやいやっ!そんな、頭上げてちょ!俺ちゃんコマッチングだから!マチコ先生だから!アレ?あれってマイッチングだっけ?」

 一気にカオスな寺院になっちゃった!


「取り敢えず中へ、ね?モブ太さん?」

 ナイスフォロー慶雲ちゃん!


「ソッス、ソッスネー!とりま中入ろ!」

 二人で大僧正ちゃんを抱えるようにして建物の中に入る。

 慶雲ちゃんにお茶を淹れてもらい、何とか落ち着いた大僧正ちゃんよると、俺ちゃん達が天より降臨(神様による拉致・誘拐)された事は知っていたと言う。

 ついでにこの大都の都に従士の俺ちゃんが飛ばされた事も。

 帝の勅令で俺ちゃんの捜索命令まで出てたんだと。


「ほへぇー。そっか、なんかゴメリンコ!そうとは知らず路銀稼ぎに精をだしまくってたわ!www」


「そんな滅相もありません!只々私達の"神通力ちから"不足故の失態でございます!」


 謝罪の応酬なんか面倒なのでもういい?


「とりま仲間と合流が目標なんすけど、どしたらいいと思う?」


「従士殿を援けるは我らが天命にごさいますれば、何卒、天子である我らのみかどにお会い頂けたらと……」


「ハワワワワ!帝って超偉い人じゃん!俺ちゃんなんかが会って大丈夫なの?無礼者とかで打首とかメンゴなんですけど!」


 大僧正はそんな事は絶対ないから是非是非と煩く言うので帝ちゃんに会いに行く事になった。

 モチ慶雲ちゃんも道連れにしたけどwww

 大僧正を前に慶雲ちゃんに拒否権などなかったw


 ————————


「陛下、従士モブ太殿をお連れ致しました」

 大僧正ちゃんは顔色が病的に蒼白い青年に跪くと頭を下げた。


「大僧正 慶順殿、誠に大義でした。此度のお迎えに朕の神通力ちから及ばずそなたにも苦労させてしまいましたね」


 帝ちゃんは玉座から立ち上がり俺ちゃんの下に来ると手を握り締めて離さなかった。


「従士殿にも苦労をおかけして申し訳ない。これより我が国は従士モブ太殿を全力でお助け致します」

 そう言って微笑むと身体を俺ちゃんに預けるように気を失った。

「おそらく気が緩まれたのでしょう」

 とんでもない美人ちゃんがそう言ってきた。


 普通気が緩んだだけで気絶する?

 帝ちゃんの着衣が乱れ胸元から痣のようなタトゥーみたいなモノが見えた。

 もちろんドタキャン・ロシア娘二人組ではないやつね。


 帝ちゃんにタトゥーって似合わないよね?

 普通、帝ってタトゥー入れる?普通の帝なんて知らないけど。


 それに帝ちゃん、超苦しそうだし……

 なんかマジヤバくない?これ。

 イヤな予感がする。こういう時の俺ちゃんの勘は大体当たって縞馬なんよねー


 皇后だというとんでも美人ちゃんは、バツの悪い顔で俺ちゃんが身体の異変に気づいた事に押し黙る。


「帝ちゃん、コレ呪いじゃね?」


「「「!!!!?」」」

 周りが驚き凍りつく。


「俺ちゃん何かやっちゃいました?」

 違うな、コレじゃない感あるわ。


 しかし、やってもうた感ハンパないのでついでに言っとこうと思う。


「そこの皇后様って本当に人間かな?w自分の旦那ちゃんに呪いをかけるなんて普通やる?www」

 義賊のスキルに真贋判定なるモノがあったが、皇后ちゃんだけ真っ黒くろすけなんよねーwww

 黒のスケスケパンティーなら大好きなんだけどねー


 とりま人物にも有効なスキルで助かるわーwww

 神様スキルマジ有能www


「失礼いたす!我が身、後で如何様にもしてもらっても結構!」

 いち早く再起動した大僧正ちゃんが印を結び言葉を紡ぐ。

 コッチの世界で何度か見た。法術だ。

 西は魔術や魔法が盛んらしいがこの国では法術が殆どらしい。

『コマンド』の基本情報にそう書いてたから!

 まぁ、魔力を使う所は同じらしいが。


 大僧正が法術を使うとブラック皇后ちゃんが苦しみ出すや否や姿に変化があった。


「ふぇ?ケモミミ!?尻尾まで!」


 ブラック皇后ちゃんの頭に狐の耳とお尻から尻尾が生えているではないか!

 ケモミミ成分あったんだ!この世界!!最高かよ!


 慶雲ちゃんもようやく立ち直り大僧正ちゃんに加勢すると、一層苦しむケモミミ皇后ちゃん。



「わ、妾のな、長年のけ、計画をよくも、よぐもぉぉおおあああぁぁ!!!」

 歯を剥き出し吠えるように叫ぶと皇后は唯のキツネの死骸となった。


 息も絶え絶えのダブル坊主に「流石!チーム坊's!」と声をかけ帝ちゃんの様子を見る。


 首までタトゥーが広がり苦しみが酷い。


「誰か!何とか出来ねーのかよ!見殺しかよ!」

 自分の不甲斐なさを周りに八つ当たってみるが、誰も何も言えないようだった。


「俺じゃ無理なんだよ!何でこんな時に使徒じゃないんだよ!」

 こんなさ、若い帝ちゃんが苦しんでるのに、頑張って来たのに!

 大僧正が帝ちゃんについて色々教えてくれたのだ。

「大変なご苦労をされております」涙を堪えながら教えてくれたのだ。


 使徒だったら?あの人に頼むしかねーか……

 帝ちゃんの命には変えらんねーっしょ!


 ————————

 黒井さん頼みがある!かなり強力な呪いをかけられてるのを解除したい。

 俺の渡せる物なら、命以外ならアンタに全部渡す。

 助けてくれ!

 ————————

   フーン……

   少しだけ待ってろ

 ————————


 そう言ってチャットを切られた。

 本当に助けてくれるだろうか?待ってろと言われたが気が気じゃない


 チロリンとコマンドに反応があり確認すると、メールが届いていた。開くと中に『解呪の聖水EX』と、如何にもなアイテムが入っていた。 


 何なのこんな時までふざけてんの?EXとかいる?


 アイテムボックスから『解呪の聖水EX』を取り出して見てみる。

 まぁ、効果はさておき本物ではある。


「帝ちゃんコレ飲んで!お願いだから!解呪の聖水…ex(ボソッ)だよ!」

 苦しむ帝ちゃんは何とか飲み干してくれた。


 身体中の痣が消えて帝ちゃんの顔に色が差すのを見てチーム坊'sや臣下どもと泣きながら喜んだ。


 後日、あの薬の出処を聞かれた俺ちゃんは「ウチの使徒に頼んで送ってもらった」と説明した。


 あの後「向こう5年間、お前が手に入れた魔石は俺の物な!」とメールがきていた。


 まぁ、それくらいで済んだと言っていいだろう。


「使徒様は何と?何かお礼が出来れば何でも言って欲しい!!」

 元気になった帝ちゃんはかなり強引だった。


「あぁ、ええっと、何か今回ので魔石が足りないからお前の魔石は俺の物だ!って言ってた気がするかなぁ……」


「なるほど!よくわかりませんが魔石ですね!国中から用意させましょう!」


「イヤイヤ!帝ちゃん、国中からは受け取れないよ!あの人の要求は、俺ちゃんの向こう5年分だから!国家単位の魔石はもらえない。もし帝ちゃんが個人的な物として持ってたら別だけど」


「私個人の、ですか……」


 寂しそうな顔の帝ちゃんには悪いけど……

 帝ちゃんに個人という概念はない。

 知ってて言ったのだ、ゴメリンコね。


「俺ちゃんはさ、帝ちゃんと友達になれただけでね、元は取れてるから。仲間と合流したらさ、また会いに来ていいよね?変な人ばっかりだけどさ、皆んなに合わせたいんだよね!」


「友達ですか……私に友達……!是非来て下さい!絶対ですよ?」


「任せてちょんまげ!絶対来るから!早く出て行けって言いたくなるかもだけどwww」


 二人で笑って別れ際に互いに抱擁した。

 国家事業の海路と陸路を使った貿易商隊に同行させたもらえる事になったのだ。



 砂漠を超えた西の国々に想いを馳せる。

 仲間達との再会の目処がたった安堵と喜びと共に。


 俺ちゃん全然活躍してなくね?




 ————————

 思ったより長くなってしまったモブ太編

 いかがでしたか?

 結構頑張ったんですよ?これでも。


 毎日は無理でも何とか書いてます!

 皆様の応援のおかげですぅ!

 

 閑話でも楽しめた方は是非⭐︎評価、応援お願いします。

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