望まぬ政略結婚⑪
ガイル視点
城の廊下を歩きながらエリスの言葉を思い返す。
―――今まで俺は、自分の気持ちを押し殺してきた。
―――これは姫様に抱くものではないと思ったから。
自分の気持ちを偽るのは楽なことではなかった。 エリスの前で平然として見せるのもかなり無理してやっていた。
―――それはエリス姫から俺に気持ちを打ち明けてきたとしてもそうだ。
―――・・・姫様と専属の騎士が、恋仲になってはいけない。
ガイルは真っすぐに廊下を歩いていく。 時折すれ違う兵士の姿も目に入らない。
―――姫様と騎士が恋仲になるなんて、何の利益にもならないから。
―――・・・でもあれだけの想いを告げられれば、俺も男として腹をくくらないといけないな。
エリスは真剣そのもので、かなり思い詰めた様子をしていた。 これ以上の拒否はエリスにとってもガイルにとってもいいことにならない気がした。
当然ではあるが、ガイルにとって大切なのはエリスであってクローネではない。 昔のよしみで仲はいいが、それだけだ。
「クローネ王子」
「ガイル!?」
ガイルはクローネの部屋の前へとやってきていた。
「ちょっと待って!」
名を呼ぶと中からドタドタと物音が聞こえてきた。 慌てた様子でクローネは顔を出す。 その様子を見て少し笑ってしまった。
「そんなに慌てなくても」
「ガイル! エリスは大丈夫?」
当然クローネにもエリスの身に危険が迫っていたことは知らされていたのだろう。
「エリスが狙われていると聞いて、居ても立っても居られなかったんだ。 僕もエリスを迎えに行こうとしたけど『危険だから』って、外出の許可を出してくれなかった」
国の王子であるからいくら実力があっても自由に動けない時があるのは自然なことだ。
―――・・・俺はクローネ王子が根からいい人だということを知っている。
―――俺の知っている限り、クローネ王子に欠点なんてないくらいだ。
―――・・・そんな存在だからこそ、もう隠しておきたくない。
―――俺にはその罪が重過ぎる。
「それが正解だ。 外には危険な連中がいるから城の中にいた方がいい」
「そうかもしれないけど・・・」
「エリス姫も無事だ」
「ッ、本当かい!? よかったぁ・・・」
心底安心したのかクローネは床に座り込んだ。 それ程エリスのことを大切に想っているのだと思い少し申し訳なく思ってしまう。 そこでうっかり聞いてしまった。
「クローネ王子はやっぱり、エリス姫のことを・・・」
「うん? 何だい?」
「・・・いや。 何でも」
聞くまでもなく、ガイルはクローネの心は分かっている。 付き合いがなまじ長いだけに、他人から見れば分からないことも分かってしまう。
「・・・クローネ王子に話したいことがあります」
そう言うと敬語であることやいつもと雰囲気が違うことから何かを感じたようだ。
「分かった。 入ってくれ」
クローネの表情も真剣なものになった。 そのまま部屋へ招き入れてくれた。
「何か飲む?」
「いえ、気持ちだけ受け取っておきます。 お話を終えましたらすぐに出ますので」
「そう・・・」
それを聞きクローネは向かいのソファに座った。 ガイルはクローネが聡明で頭が切れることも分かっている。 おそらくはガイルの雰囲気や時間などを考え、何を言わんとしているか予想していたのだろう。
「ガイルも座って」
「失礼します」
ガイルが腰を下ろしたことを確認すると早速本題へ入った。
「・・・話って、エリスのことかい?」
「はい。 突然のことで申し訳ありません。 エリス姫を僕にください」
「・・・」
その言葉を聞いてクローネはジッとガイルを見つめた。 まるで視線だけで人を射抜くような、鷹の目だった。
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