ヨルの駅で運悪く見つけてしまった同級生に俺は脅迫紛いの逢引を取り付けられる。そして彼女の患った苦しみを知った、ただそれだけの、夢の中の内緒の話。
三弐肆羽鳩
序章
目を覚ますと、そこは見慣れたファミレスの一角。同じ席には俺以外に、
各々スマホを見たり、寝たり、ただ茫然ととしていたりと、その行動は各々が異なるが、一様に浮かない顔をしているということだけは共通していた。そして、恐らく俺もそんな顔をしている。
「起きた?」
今までスマホを見ていた飴ノ崎が俺に声を掛ける。
「うん。……甘奈の手術が始まってから何時間経った?」
「四時間。まだ先輩たちからの連絡は入ってない。……ただ、やっぱり難航しているんだろうな」
抑揚のない声で語るのは悠生。病院から連絡が来ないとはそれすなわち、安否が不明であるということである。
「……大丈夫だよ、手術しているのはあの煌銘先輩なんだし、絶対に甘奈は助かるって」
消沈する俺を何とか励まそうと、続けて飴ノ崎は言葉を掛けてくれる。しかし、その声にもどこか沈んだ影があった。
甘奈……明主寺甘奈は俺の彼女である。いや、彼女なんて簡単なものじゃなく、もっと他の関係で言い表すのがふさわしいかもしれない。ただ、俺はそれを言い表す言葉を知らなかった。
アイツは今、自身の患っている死病との最終戦の真っただ中にいる。しかも、たった一人で。
俺にできることは、ただアイツの勝利と帰還を祈ることだけだった。
「……どうだ、ちょっとは寝て落ち着いたか」
呆然としながらも、高夜船は話す。
「……ああ、ほんの少しだけ」
しかし、今の俺はそう答えることで精いっぱいだった。
再び流れる沈黙。だけど、その状況を辟易するものはこの中にはいない。
気付けのつもりで、俺は一口コーヒーの入ったカップを口に運ぶ。当然ながらそれは、とっくに冷め切っていた。
俺は寝ている間、どんな夢を見ただろうか。
……いや、夢では無かったのかもしれない。甘奈と初めて出会ってから起きた出来事を、断片的に思い出していた。よくは覚えていないが、何故かそんな気がするのだ。
「……今思えば、とんでもない出会い方をしたよな」
消え入りそうな声で俺は呟く。その声に誰が耳を傾けているのか、それは俺の知るところではない。
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