夜の陽炎

夜に見ていたのは

陽炎みたいにゆらゆらと揺れる

憧れだったのかも


子どもの時、

夜は踏み込んではならない

未知の領域だった


昼間とはまるでちがう

暗くて

静かで

冷たくて

息を潜ませるような

雰囲気に

心を奪われた


大人になって

昼も夜も自由に出入りできるようになって

憧れは薄れた


夜に見ていた

あの高揚感は

たぶん、なんでもないもの


昼間に受けた傷を

夜で癒やすように


夜に知った痛みを

昼間は忘れるように


夜に見ていた憧れは

いまはもう、ただの幻想

いまはもう、ただの陽炎

いまはもう、ただの夢のこと――

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