その人は、副ギルドマスターの狂戦士に気に入られたようだ。

「なあ、いったい、なにをどうやったら、になるんだ?」


 サバンさんが、検分からもどってきて、あきれ顔で、わたしたちにいった。

 サバンさんについていった冒険者たちの顔も、こころなしかひきつっている。

 ジーナは、いつものジーナで、わりと平気な顔だ。タフだ。


 「なにかの魔法なんだろうが……あんな効果を出す魔法は、俺も知らないぞ」

 「歴戦の強者ウォー・ベテランのサバンさんでも、しらない魔法なんてあるんですか……」


 アリシアさんが驚いたように言い、


 「それで、現場はどうなってたんですか?」


 サバンさんは、指であごをかきながら


 「たしかに、あいつらは、よ。

  十人と聞いていたが、念のため、森の奥の方まで手分けして調べてみたら、全部で二十四人も倒れていたぞ。

  それが全員虫の息だ。

  あれでは、動けるはずはない。

  尋問のために、起こそうとしたら、体じゅうの骨がくだけて、ぐずぐずになっていた……」


  サバンさんは、そういって、ユウをみつめた。

  ユウが、(やりすぎたか)と言う顔で、目を逸らした。


 「まあ、自業自得だけどな。何人か、手配で見覚えのある顔があった。

  あいつらは、最近この辺りを荒らしていた『牙』という名前の凶悪な盗賊団だ。

  強盗、殺人、人を攫っての身代金強奪や人身売買、なんでもやる連中だからな。

  やつらが死んでも、悲しむ人間はだれもいない。

  むしろ、俺は、よくやってくれたと言いたい!」


 サバンさんはニヤリと笑い、ユウの肩を、ばんと叩いた。

 かなりの力だったようで、ユウは顔をしかめた。


 「ユウっていったな。ジーナから少し、いきさつをきいたぞ。お前、なんだかよくわからない、へんなヤツにしか見えないが、心根は、俺たちの側にたつ人間のようだ。それがいちばん大事なんだよ。

  ……まだ冒険者登録していないなら、うちのギルドですませておくのはどうだ?

  俺たちがいろいろ相談に乗る。登録しておいて損はないぞ?」

 「あの……サバンさん」


 アリシアさんが横から言った。


 「なんだ?」

 「ユウさんだったら、さっき、ぶじ登録していただきました!!

  もう、立派な当ギルドメンバーです!」

 「なんだそうなのか! それはよかった。おれは、副ギルドマスターとして、うれしい限りだ!」


 そういって、サバンさんは豪快に笑ったのだ。

 ジーナが期待していた盗賊の報奨金については、明日支払われるとのことだった。


 「ちぇっ」


 ジーナはかなりがっかりしている。

 それでも、薬草集めクエストのわずかばかりの報酬を手に、わたしたちがギルドの建物を出ようとすると、サバンさんが、


 「そうだ……これは言っておかないとな」


 そういって、厳しい顔でわたしたちを呼び止めた。


 「『牙』の連中のことだが……」

 「はい」

 「ひょっとしたら、あれで全員ではないかもしれない……何人か、あの場から逃れた可能性がある」

 「!」


 ユウが驚いた顔をした。


 「手配されているが、あの中にいない顔があるんだ」

 「えーっ?」


 わたしとジーナが声を上げる。


 「『牙』の副官に、オルゾという男がいるんだ。

  そいつの属性は『暗殺者アサシン』で、そうとうに腕が立つ。性格も陰湿、かなりやっかいなやつだ。

  頬に大きな傷痕があるんだが、あそこに倒れている中には見つからなかった。

  まあ、たとえ属性が『暗殺者』であろうと、恐ろしい魔法の有効範囲内にいて逃げられるとは、とうてい思えないからな……何かの理由でもっと離れた場所にいたか、そもそもあの場にはいなかったのか……いずれにせよ、油断はしないほうがよさそうだ。お前たちも、このことは頭に入れておいてくれ」

 「はいっ!」


 サバンさんの言葉に、ジーナは、わかっているのかいないのか、元気よく返事をした。


 「……わかりました。気をつけます」


 ユウも静かに答えたが、胸の奥、わけもなくなにか不吉な予感のようなものを感じずにはいられないわたしだった。

 そして、その予感はやがて、現実のものとなるのだった。

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