我ら神殿の子どもたち
サカモト
第1話 生まれて来た意味が書き換えられてしまう、ゲーム
破壊に似ていた。
《神殿》と銘打たれたそのスマーフォン向けアプリは、世の放れるとすぐに犯罪の範疇にあるのではないかという騒ぎなった。だが、同時にその騒ぎにより、世に無差別的に名が売れ、膨大なユーザを獲得した。参加方法があまりにもかんたん過ぎることが、多くのユーザを獲得した要因だと考える者いた。いずれにしても、アプリ《神殿は》は、世界中から参加者が集った。
それはクジ引きだった。仕組みはシンプルで、多くに説明がいらない。コインを投じて、今日の当選者が出るのを待つ、それだけだった。
一回、課金すること一回、クジを引くことできる。課金額は一回およそ、日本円にして百円前後に留められている。当たりは一日にひとつしか存在しない。世界中から参加者がいるが、たったひとりだった。毎日。日本時間の午後六時頃になると、その日に当選結果がアプリ内で知らされる。
そして、当たった者は、その日、参加者が課金した金額を総取りとなる。
すなわち、賭け事だった。
とにかく。参加金額が少量で参加しやすく、複雑なルールはない。クジをひくだけであり、ひと指、ボタンを押下するだけである。ひとり一日一回、というより、ひとりのログインユーザ、日に一度しか参加できない設定になっている。むろん、その程度は緩い制限でしかなく、たったひとりの人間が、日にいくども課金して、クジをひくこともできたが、アプリをリリースする側から、強い規制がかけられることもなかった。
単純な仕組みのため、言語の壁もやすやすと越えて、説明もしやすい。賭けをするものは、世界中にどこにでも存在するし、あくまでも一度に投じるのは少額のため、どこか、健康的な遊びだと錯覚するのもたやすいとされていた。
アプリ《神殿》はリリースされて、一か月ほどで、世界中から人々が参加するようになり、やがて世界中で流行した。
このアプリが世界中で爆ぜるように流行ったきっかけは諸説ある。きけば、そのどれもがそれらしい理由だったが、真相は不明だった。だが、真相よりも現実に起こっている方が遥かに強い情報として、人々の間にひり待っていた。世界中から参加するため、当然その日の課金された総額は巨大な数字であり、それが、指で画面のボタンをひとつ押すだけで、とクジが引ける。たったそれだけで、巨大な金額が手に入る可能性を得る。
そして、当たった者は、ほとんどそれまでの人生が消滅する。一瞬で、先進国の中産階級の人生なら、ニ十回は過ごせる。そして、その当選者についてのレポートは、昨今の報道で頻繁に繰り返されている。当選を誇示する者もいるが、無論、隠している者もいる。
たとえば昨日まで一介の中小企業の社員だった者が、当選した途端「うぇーい」と、かんたんに狂う様は、いまでは見慣れた光景と化していた。人は途方もない金額をクジだけ手に入れると、これまでの人格では持ちこたえられない。その証明にみえる。
無論、クジ引きアプリ《神殿》は、多くの国々で問題となっていた。当初は賭博関連の法や、送金を部位を代表として金融関連の国際法にひっかかると見られた。
だが、人類史上最大のクジ引き《神殿》をつぶすことは容易ではなかった。すでに利用者の数は途方もなく、取り締まることは困難を要し、アプリの運営の仕組みもまた、たくみに法の規制を回避している。
つくった者はよほど頭がいいと見られていた。しかも、誰がつくったのかは公表もされておらず、誰からも暴露されていなかった。
運営システムもまた、じつに器用に設計されていた。アプリのメンテナンスをふくめ、ほぼ無人化されていた。実際は、ただのクジ引き機能というシンプルな設計もシステムのセルフメンテナンスを可能とさせている大きな要因であり、運営に人間を介在させないとによって、追跡することを技術的に困難とされていた。
しかも、《神殿》は売上など、おそらく存在しないといわれていた。どこを探しても、利益が生産される仕組みになっておらず、アプリをつくり、世に放った者との繋がりをみつけられない。いわば、放し飼いだった。
《神殿》は人間がつくったシステムではない。そんな伝説まで囁かれ、そして、囁いた者は、その日もクジを引く。
当たってしまえば、たちまち、生まれて来た意味が書き換えられてしまう。
予測不能な人生を手にするため、参加者は日々画面へタッチし続けていた。
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