赤の景色
健杜
一章 赤髪の少女
第1話 紅の少女
雪が降る中少女は歩く。
ふらつきながらも確実に一歩ずつ、雪の積もった地面を踏みしめて歩く。
だが限界が来たのか倒れてしまう。
倒れた少女に雪は無情にも降り注ぎ、積もっていく。
そんな時、誰かが少女へと近づいて来た。
「生きてますか?」
そう一言、自信なさげに呟いた。
少女は薄れゆく意識の中、誰かの問いかけに答える。
「お願い……します。何でもします。だから、お願いします。私に普通を教えてください。私に感情を教えてください。私に……幸せを教えてください」
最後の力を振り絞ってそう答えて少女の意識は、深い暗闇に沈んで行く。
だが、意識を失うその直前に声が聞こえた。
「――――」
その言葉に少女は安心して眠った。
※※※※※※
腕を振る。
ただそれだけの行為で容易く命を奪う。
目の前で鮮血が飛び散り、少女の顔を赤く染める。
だが当の少女は顔に血が付いたことなどまるで意に介さず、次の標的に意識を定める。
「このくそ女がぁ!!」
怒りも。
「お願いだ許してくれ! 俺が悪かった!」」
悔恨も。
「嫌だ! 死にたくない!」
悲しみも。
「もう好きにしてくれ。俺は疲れた」
諦めも。
それら全てを少女は等しく殺す。
紅の長い髪に、赤眼の少女は今日も人を殺す。
これまでも、これからも永遠に。
それが少女の運命であるかのように。
少女は生まれた瞬間に役目を与えられた。
それは、人を殺すこと。
組織に育てられた少女は、普通の子供が玩具で遊ぶころには人を殺していた。
少女の所属する組織はいわゆる殺し屋というやつで、幼少のころから少女に人を殺す技術を教えてきた。
ゆえに少女に存在するのは、人を殺す技術のみ。
これが少女にとっての存在理由であり、存在価値なのだ。
「
組織のボスにいつものように少女は人を殺す命令をされる。
少女はそれを当然のように受け入れる。
少女に名前はなく、コードネームの
「了解しました」
短く返答して。すぐさま行動に移る。
なぜ殺すのか、理由は考えない。
少女にはそれを知ろうとする興味も、知ってどうこうする気概も持ち合わせていなかった。
なによりも悲しいことに、そんなことを考える時間が少女にはなかった。
少女にあるのは最低限の睡眠の時間だけで、残りは全て任務に費やしている。
幼いころから数多くの任務をこなしてきたが、少女は一度も任務を失敗したことがなかった。
なぜなら少女は普通の人間ではなく、組織によって作られた特殊な人間だったからだ。
少女が
今回の任務もその能力があれば問題はなかった。
少女はドア越しに様子をうかがうと、多くの人間が部屋の中にいることが分かった。
少女は人数の差を気にすることなく、鍵のかかっていなかったドアを開き突撃する。
「お前ら、紅が来たぞ! 打て! 殺せ!」
リーダーらしき男の命令によって、周囲にいた仲間たちが一斉に少女へ銃を乱射する。
少女の持っているものはナイフのみで、周囲に遮蔽物は一切ない。
次の瞬間には穴の開いた人形になってしまう姿が容易に想像できた。
だが、少女に銃弾が着弾する寸前に、周囲一帯鮮やかな赤で染まった。
その景色は少女によって作られたもので、腕から放たれたのはすべてを焼く尽くす煉獄の炎。
目の前の人間を焼き尽くす。
「ぐぁぁぁぁあぁあ!!!」
「熱い熱い熱い熱い熱い!」
聞こえるのは断末魔の叫びのみ。
だがそれもすぐに収まり、周囲を静寂が支配する。
残ったのは焼き焦げた肉の塊、少女ともう一人いた。
「くそっ! なんであんな化け物に狙われなきゃならないんだ!」
仲間を盾にすることで幸運にも生き残り、自分一人しか生き残っていない現状に愚痴る標的だった。
標的は少女の存在を認識してはいたが、自分が狙われるとは思わず対策をほとんどしていなかった。
所詮そこらにいる異能力者と考え、護衛として同じ異能力者を用意しただけだった。
その結果がこの惨状だ。
自分は護衛の異能力者によって守られたが、他の仲間は全て焼き尽くされて死んでしまった。
標的は数十人はいた仲間が一瞬で死んだ惨状を目の当たりにして、情けなくも腰を抜かして動けなくなっていた。
その幸運も二度はない。
少女が標的を逃すことなど絶対にありえないのだから。
ナイフを構えた少女が、腰が抜けて動けなくなった標的へ迫る。
「頼む! 見逃してくれ! もう運び屋はやめる。いい仕事に就く。だから命だけは見逃してくれ!」
大人の男が少女一人に情けなく命乞いをする。
だがその行為に意味はなく、一歩、また一歩と少女は無言で距離を詰める。
そして少女と男の距離が一メートルを切った時、男は隠し持っていた小銃で少女に発砲する。
「油断したな、馬鹿が。この距離なら外さない」
パンッと乾いた音が周囲に響き渡るのと同時に、男の首から鮮血が飛び散った。
「化け物が」
銃弾を躱した少女に首を掻っ切られた男は、そう言い残して死んだ。
体と頭が分かたれた、無残な死体が残る。
少女は一切動揺することなく、標的へ近づき死んだことを確認して、その男へ一言呟いた。
「知らなかったの?」
組織の人間から日常のように言われるその言葉は、少女にとっては当たり前でむしろ知らなかったことへの驚きがあった。
だがそんな驚きもすぐに消え、死体を全て焼き尽くし後処理を行う。
すべての死体を灰にした後、組織へと帰っていく。
少女は次の任務が来るまでの短い時間、眠りについた。
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