最後の神がまもる国
はくぼく
0 序文
それは、昔々と語られる時代。
神と国とがひとつにつながるこの世界に、神々が溢れていた時代。
己の国を胸に抱き、神の似姿としてそこに生まれた子どもたちを、ただ愛おしむ。そんな幸福な神の姿が、当たり前で、珍しくもなかった時代。
ふたつとない貴石のように慈しんできたはずのものが、どうしようもなく曇り、濁っていくことに、神々が耐えられなくなる、少しだけ前の時代。
そんな時代の最後に、その神は生まれた。
イレイネシア。
今ではもう、その名で呼ばれることもなくなった幼い女神。
大神が大国を抱くように、豊穣の神が豊かな国を抱くように、生まれたばかりの小さな神は、生まれたての小さな国を、そっとその胸に抱いた。
その国を、プリシピアと名づけたのは彼女の子どもたちだ。
ひとつ、またひとつと失望に染まって、ついには抱いた国ごと終わりを迎えることを望んだ神々を、見送り続けた彼女は、とうとう最後の一柱となった。
ひとりぼっちで世界に取り残された彼女は、いずれ来たる運命を悟りながらも、己の国と、そこで生きる子どもたちをまもり続けた。
いずれ国は滅ぶのだろう。けれどそれは、今日ではない。
一方、多くの国が辿った結末を知る子どもたちは、己が神と国の名を、悲嘆と諦念をこめて、いつしかこう呼ぶようになった。
最後の神。そして、最後の国と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます