最後の神がまもる国

はくぼく

0 序文

 それは、昔々と語られる時代。


 神と国とがひとつにつながるこの世界に、神々が溢れていた時代。


 己の国を胸に抱き、神の似姿としてそこに生まれた子どもたちを、ただ愛おしむ。そんな幸福な神の姿が、当たり前で、珍しくもなかった時代。


 ふたつとない貴石のように慈しんできたはずのものが、どうしようもなく曇り、濁っていくことに、神々が耐えられなくなる、少しだけ前の時代。


 そんな時代の最後に、その神は生まれた。


 イレイネシア。


 今ではもう、その名で呼ばれることもなくなった幼い女神。


 大神が大国を抱くように、豊穣の神が豊かな国を抱くように、生まれたばかりの小さな神は、生まれたての小さな国を、そっとその胸に抱いた。


 その国を、プリシピアと名づけたのは彼女の子どもたちだ。


 ひとつ、またひとつと失望に染まって、ついには抱いた国ごと終わりを迎えることを望んだ神々を、見送り続けた彼女は、とうとう最後の一柱となった。


 ひとりぼっちで世界に取り残された彼女は、いずれ来たる運命を悟りながらも、己の国と、そこで生きる子どもたちをまもり続けた。


 いずれ国は滅ぶのだろう。けれどそれは、今日ではない。


 一方、多くの国が辿った結末を知る子どもたちは、己が神と国の名を、悲嘆と諦念をこめて、いつしかこう呼ぶようになった。


 最後の神。そして、最後の国と。

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