第10話 メンヘラ

朝起きて、熱を測る


微熱と身体の痛みがあり、毎度のことだ、と諦める


朝ごはんを食べ、薬を飲み、布団に入り、休む


すると痛みが強くなり、眠れない


スマホで検索すると、子宮外妊娠の可能性がある、と出てきた


人間は驚きすぎると逆に笑うというのは本当のようで、私は近くのドラッグストアで検査薬を購入した


私はピルを飲んでいる為、月経周期は安定しているはずなのに、不正出血や予定通りの月経ではないことから、おかしさは感じていた


しかし、生理開始日から1週間経っていないため使えない


やきもきしても仕方がない、と食べるものを食べて、寝ることにした


寝ている間に夢を見た。片想いの夢


中学の時に私のことを助けてくれていた恩人のような先輩のことを


奈良先輩(仮名)はアルトサックス、私の一つ上


眼鏡で身長も高く、運動神経も良く頭も良い


性格は私にしか分からない優しさがあると感じていた


奈良先輩は、私のことを決して名前や名字で呼ばず、「君」や「ねえ」と呼んでいた


そんな先輩が、ある日突然右手に怪我をしていた


「どうしたんですか!?アンコン(※1)前に…先輩、手動かせます??手伝いますよ!!」


「いや、大丈夫。野口ちゃん」


私はその時にパート直属の先輩から何があったのか聞いた


「あいつ、授業中に急にキレて、窓ぶち割ったんだよ…。理由は教えてくれねえけど…。で、右手から大量出血ってわけ…」


(※1:アンコンとはアンサンブルコンテストの略で、大体冬に行われる。文化祭の後、代替わりしてからパートの割り振りなどが行われる。)


私はパートの直属の先輩と、サックスパートの先輩2人とのグループで、四重奏だった。


なによりも、私のことを名前で呼ぶことなど一切しない奈良先輩が、私のことを呼んだことに、おかしさを感じて、不安になった。


当時の私は、クラス・学年・部活の同期からいじめを受けていた


奈良先輩含め、みんなが知っていることで、先輩方はできる限りの守りをしてくれていた


特に奈良先輩は、家が1番近いため、50m程2人きりになる時がある


私は2人きりの信号待ちで怪我について聞いた


「ねえ、先輩、怪我大丈夫ですか?」


「気にすることない、大丈夫。」


そう言って私の頭をぽんぽんとしてくれた


その時私は理解した


奈良先輩がキレるような私に対する何かを耳にしたのだ、と


後から他の先輩に理由を聞いたら、やはりそうだったようで


奈良先輩は、私のために怒って怪我をしたのだ、そう思うと涙が止まらなかった


涙を見られるのが嫌で、歩こうとすると、手を握られた


「おわっ!!」


女とは思えない声を出して、先輩に寄り掛かった


「野口ちゃん、信号、赤。」


「ご、ごめんなさい!!」


私の顔は真っ赤で、信号が変わるまでの数秒は先輩の手は私の手を包んでくれていた


その日は珍しく、家の前まで送ってくれた


このエピソードが夢に出てきたため、私はメンヘラによりをかけたメンヘラになってしまった


精神安定剤を通常より多く飲み、この文章を書いている


奈良先輩、元気にしてますか?


私はドラム続けてます


奈良先輩、会いたいです


そう思いながら私は、身体の痛みと子宮外妊娠に怯えて生きている




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