『レントゲン・アイ』

やましん(テンパー)

『レントゲン・アイ』 上 (全3回)

 『これは、フィクションです。』



       ☠️



 ぼくの視線からは、いわゆる、X線が放射される。


 なんで?  


 なんて言われてもわからない。


 まあ、怪獣映画みたいなものだと、思ってください。


 人間に、急性被爆によるがんの発生を引き起こす放射線の線量は、50~100ミリシーベルトと言われるんだとか。


 1シーベルト以上で、全身被爆すると、急性放射線障害が発生するという。


 4シーベルトになると、60日以内に、半数は死亡するが、分割された被爆なら別である。


 8シーベルト以上を、全身被爆したら、100パーセント死亡するという。



 ぼくの視線は、相手の体の局所に集中することもできるし、少し離れれば、全身を視野に納めることも可能だ。


 怒りに任せてしまうと、8シーベルトを遥かに越えて、相手を被爆させてしまう力がある。

 


 子供時代のことは、あまり、良く覚えていないことが多い。


 でも、なぜだか、ぼくを、いじめたりした子供が、急に病気になったということは、あった。


 亡くなった子もいたらしい。


 科学者だった母が、ぼくの力を見つけ、特別なレンズの眼鏡を作り出し、ぼくにかけさせた。


 人前では、絶対に外してはならないと言われた。


 しかし、それは、ぼくに対する悪質ないじめを、助長させた。


 母とぼくは、いわゆる、母子家庭である。



 で、やがて、ぼくは、勝手に、自分の力を見いだした。


 でも、大好きな母が生きている間は、さすがに自重していたのである。


 就職して、変わり者とはいわれながら、病院の事務員として、働いた。


 けれども、母が、謎の死を遂げて以来、ぼくは、その真相を探ってきた。


 子供時代は別として、自分の力を、あえて使ったことはない。


 実験は、しかし、行った。


 ただし、断っておくが、人間は、使っていない。


 検知器しか、使っていないのだ。


 それで、十分だろう。



 なんで、自分が被爆しないのかは、わからない。


 やはり、怪獣が、火を吹くのに、火傷しないらしいのと、同じことかもしれない。


 ぼくの勤務先は、母が研究の仕事をしていた大学の法人が運営していた。


 できの悪い、ミスばかりのぼくが、なぜ、3年も、勤め続けていられるのか、あまり、考えたことはなかったが。


 当時の、いまは、退職している母の同僚などを、調べているうちに、どうやら、ぼくが生まれた背景には、法人の理事長が絡まっているらしいと、分かってきたのだ。



  ・・・・・・・・・・・・・・・



 で、そうしたある日、ぼくは、理事長に呼ばれた。


 ぼくごときが、理事長に直に呼ばれるなんて、まず、あり得ない。


 しかしながら、これは、真実を尋ねる、絶好のチャンスである。とも、思えた。


 理事長は、誰も入れずに、二人だけで、話し始めた。


 『きみは、自分の、出生に関して、疑問を持っている。最近になって、いろいろ、我が法人に、探りも入れた。そうだね?』

 

 『はい。』


 『素直だな。母君から、何かしら、聞いていたかね。自分について。だが。』


 『いいえ。母は、何も教えてはくれませんでした。ただ、ひとつだけ。』


 『ほう? なにを、聞いた?』


 『もし、人生が、どうにもならなくなったら、他に、生きる手がなくなったら、最後の手段として、理事長に相談しなさい。ただし、生きるか死ぬかの瀬戸際になった場合だけ。と。』


 『なるほど、今は、瀬戸際ではないかな。』


 『どうでしょうか。なかり、追い詰まってはいますが。心理的には。』


 『ほう。で、わたしに、相談したいかね?』


 『今ならば、相談ではなくて、尋ねたいです。ぼくは、何なのか? なぜ、母は亡くなったのか。』


 『ふむ。』


 理事長は、体を乗り出すようにして、言った。


 『君が、わたしの役に立つ、わたしに、君の力を使って、全面的に協力すると、約束するならば、話してあげよう。いやなら、これで、おしまい。』


 『おしまいなら、どう、なさるのですか?』


 『さて。ここでは、どうにも、できないな。』


 『話して頂かないと、協力するもしないも、言いようがありません。』


 『強気だね。』


 『あなたは、いま、跡目争いに、忙しい。それは、公然の秘密です。あなたは、息子さんに譲りたいが、理事会は、遥かに優秀な、弟さんに肩入れしている。』


 『あいつは、もうけ主義だからな。理事たちは、そこに、惹かれている。ばかどもだ。』


 『あなたは、弟さんを、消そうとしていますか? ぼくを使って。』


 『いいかね、じゃ、ちょっと、譲ってあげよう。君は、ぼくが造り出した、大切な切り札なんだ。分かるかな? 君の、運命だ。もちろん、運命の対価は安くはない。わかるかね。』


 『あなたは、とても、危険な相手を目の前にしているのに?』


 『ばかな。わたしが、対策もなしに、君と話しをすると思うかね?』


 『対策?』


 『君の力は、ここでは、発揮できない。君の能力は、ここでは、封じられている。ただし、わたしが解除したら別。やってみるかね?』


 『実験したいです。』


 『よかろう。』


 理事長は、あらかじめ、用意していたボードを、巨大な机の向こうから取り出した。


 『こいつは、放射線に感応する。やってみるが良い。』


 ぼくは、眼鏡を外した。



   ・・・・・・・・・・・・


 

 

参考書

 『核爆発災害』高田純さま著

     

     ……中公新書 2007年  


 

 


 



 


 

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