朱の救世主〜ゲーム知識を使って異世界を攻略する〜
空色凪
プロローグ 異世界への招待状
第1話 ゲームクリア
僕は今VRMMORPG『オリジナル・オンライン』通称オリオンのラスボスである万象の樹と一人戦っていた。
万象の樹はこのゲーム唯一の神級ダンジョンである『虚空の塔』の屋上に根を張り、その幹に生える無数の目でこちらを見てくる。
『万象の風』
万象の樹のスキルが発動した。僕はすぐさま距離をとる。さっきまで自分が立っていた場所を黒い風が襲った。スキルが収まるのを確認し、再び近づいてこちらも魔法を準備する。
「メテオ」
三秒ほどの詠唱時間を経てメテオが放たれる。メテオは中距離の魔法であり、僕の持つ魔法の中では最大火力を誇る。単発だとホーリーの方が強いが、メテオは多段ヒットなのだ。上手く攻撃範囲を敵に合わせられれば、合計で五つ落ちてくる隕石が全て当たる。
今回もメテオを完璧な位置で発動して、再び敵から離れる。ヒットアンドアウェイ戦法だ。予想通り空に召喚された五つの隕石が万象の樹に当たり、かなりのダメージを与えた。
僕はショートカットしている魔力回復薬・大を消費して、今度はホーリーを準備する。ホーリーは超遠距離の魔法スキルでホーミング機能があるが、万象の樹は円形の塔の屋上の中心から動かないためどこから放っても必ず当たる。
僕は万象の樹の攻撃を避けながらひたすらホーリーとメテオを放っていく。
万象の樹の体力はラスボスだけにかなり多かったが、三つある天級ダンジョンのうちの一つ『朱雀の巣』のボスである朱雀の卵程ではない。あれは頭がおかしかったな。確かボス戦一つで三時間とかやってたからなぁ。そのクリア報酬でメテオを習得したのは良い思い出だ。
そんなことを考えながら戦っていると、万象の樹の体力がゼロになりその巨体が光となって消えていく。戦闘時間は三十分程だった。
闇に覆われていた空は徐々に晴れ渡り、塔の縁に行くと下界の景色を臨むことができた。クリアした感がある。
屋上の中央には宝箱が一つ置いてあった。宝箱は木製、銀製、金製、クリスタル製の四種類があるが、やはり目の前にある宝箱は最上級の白く輝くクリスタル製の宝箱だった。
新しい魔法を習得できる魔導書かな? それとも破格の効果を持つアクセサリーか? 最後のダンジョンのクリア報酬はなんだろうと期待に胸が膨らむ。
僕がゆっくりと宝箱を開けると、そこには一枚の紙が入ってあった。手にとってインベントリに入れて説明を読む。
『異世界への招待状』
虚空の塔を初めてクリアした者にのみ与えられる招待状。使用した者はこのゲームの元となった世界【オリジナル】に転移する。ただしインベントリやステータスは初期化される。
「なんだこれ」
思わず声に出してしまう。なになに。元になった世界? そういう設定ということなのかな。このゲーム『オリオン』は神の与えた試練=ダンジョンをクリアしていくことが一つの目標だ。世界設定的には神の試練を乗り越えた者が救世主となるとか。確かそんなことを語っていたNPCがいたはず。
インベントリとステータスが初期状態に戻るってことはやり直しってことかな。でもそれならサブキャラ作れば良いだけの話なんだけどな。取り敢えず保留しよう。
僕は地上へ戻るため転移陣を探した。ダンジョンをクリアすると青白く光る転移陣が現れ、その上に乗るとダンジョンの入り口に戻されるのだ。だが、いくら探してもその転移陣が見つからない。
「なんかのバグかな?」
僕は塔の屋上に一人閉じ込められてしまった。うーん。一回ログアウトしてみるか。メニューを開いてログアウトボタンを押す。
『イベント中のためログアウトできません』
なんでログアウトできないんだろう。イベントって言ってもなんのことかさっぱり分からない。
うーん。先程入手した『異世界への招待状』を使えと催促されているような気がしてならない。なら使ってみるか。どうせこのゲームをクリアしたんだし、他にやることも無くはないけど、一から始めてみるのも悪くない。
インベントリから『異世界への招待状』を取り出す。
『使用しますか?はい/いいえ』
僕はまた少し考え、まぁ面白そうだからいっかと『はい』を押した。
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