第26話 聖典の力

 ダークドラゴンは背を向けて飛び去った。

 小竜を全滅させた 飛刃の大群ブーメランホードは本体には効かなかったが、俺が覚えた未知のスキルに恐れをなしたのである。


「あ! 逃げた!!」


 向かった先はハジマール城だった。


『クソッ!! ならば王都の核だけでも潰してやるわ!!』


 そういうことか!

 んなことさせっかよ!!


 俺は 回転飛行ブーメランサルトで追いかけた。






〜〜ケンゼランド視点〜〜



 クソがぁあ!!

 どうしてマワルがダークドラゴンと戦っているんだぁあああ!?

 しかも優勢じゃないかぁ!!


 槍を守護武器とした男、ヤーリーが泣きそうな声を出す。


「おいケンゼランド! ダークドラゴンがこっちに来やがるぜ! どうしたらいい!?」


 そんなこと決まっているだろうが!


「聖典を使え! 開けば力が作動する!!」


 本当にギリギリだった。

 ダークドラゴンの漆黒の炎がハジマール城を包む。



ボワァアアアアアアアアアアッ!!



 しかし、聖典の力で跳ね除けた。



パシューーーーーーーーン!!



 ふぅ……。間に合ったな。

 こ、これはチャンスかもしれんぞ。


「近くに来たなら聞こえるはずだ! おいヤーリー、封印の呪文を読むんだ!!」


「よしきた! 任せておけ!!」


 ヤーリーが聖典を読むと、暗雲が立ち込めた。

 それは雷を落としダークドラゴンを縛る。



『グォオオオオオオオオオオッ!!』



 ブハッ! めちゃくちゃ効いているぞ!

 このままここに封印してしまえ!!



『なんてな』



 へ?

 ダークドラゴンは軽く鼻息を吐いた。


『フン』


 それには小石が混ざっていた。

 そのままヤーリーの手首に命中する。



「痛ぁあああッ!!」



 聖典は床に落ちた。


「ほ、骨が折れだぁああ!!」


 ヤーリーの手首は小石の威力でひん曲がっていた。


 そんなことより聖典なんだよ!

 痛みくらい我慢しろぉおお!!


「バカ! なにやってんだ早く拾え!!」


「痛でぇえええええええ!!」


 くそ! 私が拾って渡すしかない!!


 そう思って聖典に手を伸ばすも、聖典にはいくつもの小石が命中する。




ボスボスボスッ!!




 それはダークドラゴンが鼻息で飛ばした小石。

 もう聖典の形は成しておらず、ただの紙屑である。



「そんなぁああああああああああああああああ!!」


『ガハハ!! 我は300年も封印されていたんだぞ! 先の読める攻撃など我に通じるか! 聖典の対処法は心得ているわ!!』


 

 や、奴は聖典に触ることができないはず……。

 そうか! だから小石を飛ばしたんだぁああああ!!


『馬鹿な奴らよのぅ。封印を解いてくれた温情で命だけは助けてやったというのに』


 なにぃいいいいいいいいいいい!?

 せ、聖典を恐れていた訳ではなかったのかぁああああああ!?


「ケ、ケンゼランドォオオ!! これってどういうことだよぉおおお!?」


 つ、つまり……。あの時。ダークドラゴンを復活させた時……。




「逃げていれば良かったぁああああああああああああああああ!!」




 自分達だけでも遠くに逃げていれば助かったんだぁああ!

 王都を奪うことなんて考えなければ良かったぁああああああ!!




『 死 ね 』



 ダークドラゴンは大きな口を開けた。

 漆黒の炎が発射される。



 し、死ぬ!

 みんな死ぬぅううう!!


 燃やされるぅううううううううう!!







「あきぃやあああああああああああああああああああッ!!」






 私の叫び声は城内に響いた。

 絶叫というより奇声に近い。



 終わった。

 もう、何もかも終わったんだ。






 真っ暗闇。





 ダークドラゴンの炎に焼かれて暗い闇の世界に落とされた……。





 ……いや。




 目を瞑っていただけだ。




 恐怖のあまり目を閉じただけ。





 い、生きている。



 生きているぞ!




 ハハハ!




 私はまだ生きている!!








回転防御スピンディフェンス!!」






 


 こ、この声は!?




 私が目を恐る恐る開けると、そこには見覚えのある背中が見えた。



 マ、





「マワル・ヤイバーーーーン!?」





 奴はブーメランで気流を作り、その力でドラゴンの炎を消滅させていた。





「みんな大丈夫か!? ってあれ?? ケンゼランドにヤーリー。なんでお前達がこんな所にいるんだ??」



「く……。き、貴様ぁあ……」



 ブーメランでダークドラゴンの炎を消しやがった!!

 こ、こいつの実力は本物だ!!



「じょ、女王様が縛られてる!? お、おい! ケンゼランド、ヤーリー! これはどういうこったよ!?」


 

 女王は笑った。


「ブーメラン使いよ。よくぞ助けてくれた! 大臣よ、この2人をひっ捕らえよ!!」


「はっ! ただちに!! 衛兵!!」


 ヤバい!!


「に、逃げるんだヤーリー、ぐぉッ!!」


 私達はあっという間に捕まった。

 マワルは状況が理解できずに口を開ける。


「ど、どうなってんだぁ??」


「ふ……。ブーメラン使いよ。そなたのおかげでこの国が救われたのだ」


「え? なにやったんだお前ら??」


 私は目を逸らすだけ。


 ク、クソがぁあああ!!


「ブーメラン使いの若者よ。詳しい事情は後で説明しよう。あのドラゴンとはそなたしか戦えないようだ。この国の未来を、そなたに託しても良いか?」


 ダークドラゴンの始末を、女王直々に託されやがった。

 こんなことは前代未聞だ。並の冒険者ならプレッシャーに耐えきれず震えて動けなくなってしまうだろう。


 それなのに……。


 マワルは眩しいくらいの笑顔で答えた。






「ええ! 任しといてくださいよ!!」







 ああああああ……。


 私達は対照的。


 国を奪おうとした極悪犯罪者!


 極刑だぁああああ!!

 死刑確定!!


 私とヤーリーの人生はここで終わったぁああああああああああ!!










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