第15話 アイアの昇級テスト

 アイアはゴブリンを目の前にして震えていた。

 試験官のチェックさんは呆れたように笑う。


「フッ……。今年は無理だろうなぁ……」


 むむ! なんだかカチンとくる言い方だな。


「そんなのやってみなくちゃわからないですよ」


「ハハハ。経験でわかるんだよ。あの震え方じゃ無理だ」


 くぅ〜〜! そんなのやってみなくちゃわかんないっつーーの!

 クソォ。声を出せないのが歯痒いなぁ。


 俺は心の中で叫んだ。


 アイア頑張れぇーー! 



「うう……。マワルさんが応援してくる。ぜ、絶対に合格しなくちゃ」


『ギギ!』


 1体のゴブリンは丸太を振りかぶった。


 アイア危ない!


 と思うや否や、彼女は空高く飛び上がっていた。


「はっ!」


 スピードは相当早いぞ!


 アイアは距離を取り、腰に装着していたピンク色の鉄球を取り出した。

 それを右手に持つと顔の横に持っていき深い投球フォームへと入った。


 グググ。と筋肉のしなる音が聞こえる。

 力を溜めたアイアはゴブリンに向けて鉄球を空へと放った。


「アイアの鉄球をお食らいなさぁあいッ!!」


 よぉし、いいぞ! 

 いっけぇえええッ!!



ボスン……!



 鉄球はゴブリンの5メートル手前に落ちた。


 ああああ……。


「オワタ! アイア終了のお知らせぇーーーー!」


 まだだ! アイア、諦めるんじゃねぇ! お前ならやれる!!


「ア……」イア頑張れ!

 と言いかけて口を抑える。

 チェックさんはギロリと俺を睨んだ。


「へへへ……。お、応援してませんよ俺」


「やれやれ。お前の気迫が俺にまで伝わってくるぞ」


 アイアはチラリと俺を見ると滲み出る涙を抑えた。


「うう。マ、マワルさんが応援してくれてる……。が、頑張らなくちゃ! わ、私だってやれるんだ!」


 そうだ! いいぞアイア!!


 アイアは立ち上がるとゴブリンの丸太攻撃を素早く避けて鉄球を拾い上げた。


 よし! 動きは速い! 

 これならゴブリンの攻撃は余裕で当たらないぞ。


 再び鉄球を投げる。


 しかし……。



ボスン……!



 鉄球はゴブリンの6メートル手前で落ちた。


 チェックさんは吹き出す。


「プフゥッ!」


 俺はギロリと睨んだ。


「試験官が笑ってもいいんですか!?」


「コホン……! お、俺は笑ってないぞ」


 たく! 

 アイアを馬鹿にしてんなぁ!

 彼女はクレイジーボアを鉄球で倒す攻撃力を持ってるんだぞ。だから、必ずゴブリンを倒せる!


 アイアは息を荒くしながらもゴブリンの攻撃を避け鉄球を拾った。


 そうだ。何回もトライすれば良い!


 しかし、3度、4度と投げても一向に当たらない。その度に攻撃を避けて回収をしに行く。


 クレイジーボアの時は 回転遅延スピンスロウで動きを遅くしていたからな。弱体化してないゴブリンは動きが速いぞ。


 アイアは肩で息をするようになってしまった。


「もう止めた方がいいかもしれんな」


 チェックさんはそんな彼女を心配して目を細めた。


「待ってくださいよ! ギブアップは彼女の宣言が必要でしょ? アイアはまだ諦めてませんよ!」


「しかしだなぁ。あのゴブリンの丸太が彼女の華奢な体に当たれば骨は粉砕。最悪、死に至るぞ」


「うーーん」確かに……。

 アイアは汗だく。肩で息をしている。


 もしもアイアに何かあれば彼女の親御さんに顔向けできないぞ。

 や、やっぱりギブアップした方が良いのかなぁ……。


「もう止めさせるぞ。いいな?」


 俺は同意するよう項垂れた。


 残念だけど、仕方ないか。

 またチャレンジすればいいんだ……。


 チェックさんはアイアの目の前に立った。


「アイア・ボールガルド。もう止めにしよう。お前の体力は限界だ」


「ハァ……ハァ……。ま、まだやれます!」


「し、しかしだなぁ。お前は女だ。無理することもないさ」


「冒険者に性別は関係ないはずです! わ、私は……ハァハァ……。まだやれます!!」


「お、お前……。そんな体力で……」


「どいてください。あまり強い冒険者だとゴブリンが逃げてしまいます」


 アイアは再び鉄球を投げた。しかし、無情にも的は外れる。

 ゴブリンは当たらない攻撃に嬉々として彼女に攻撃をするのだった。


 疲労した動きは鈍くなり、ついにはゴブリンの丸太攻撃を受けてしまう。


ガンッ!!


「うぐぅうッ!!」


 それは彼女を細い腕を一撃でへし折った。

 チェックさんは走り出した。


「ダメだ! あの折れ方は回復魔法のライフじゃ治せない!!」


 俺は大声を張り上げた。


「 待ってくれ!! 」


「マワル! 仲間が心配じゃないのか!?」


「チェックさん。あなたは試験官でしょ!?」


「だから助けに行くんだよ!!」


「だったらよく見てくれ! 彼女の腕をさぁ!!」


 アイアの腕は元に戻っていた。


「何、どうして!? へし折れたはずでは?」


「アイアはライフで自分の腕を即座に治したんです!」


「いや、ライフは初歩の回復魔法だ。あんな骨折は治せないはず!?」


「彼女は攻撃を受ける瞬間、その部位にライフをかけていましたよ」


「何!? 回復魔法をかけながら攻撃を受けたのか!?」


 試験官ならそこ見といてくれよ。


「だからライフを2回かけてます」


「うーーむ。回復魔法を折れる瞬間の腕に付与して負傷後の回復力を増したんだ。こんな応用、上級者しかできんぞ……」


 よぉし。後は攻撃を当てるだけだ!!


 アイアは汗を滝のように流しながら鉄球を構えた。

 その時、俺のブーメランがブルブルと振動する。



「わわっ! なんだよ急に!?」


『主!  魔力感知センシングだ! モンスターが近づいて来ている!!』


 こんな時にぃ!?


 チェックさんは眉を寄せる。どうやらモンスターに気がついたようだ。


「どんでもない奴が近づいて来てる。アイアを応援したいのは山々だが中止せざるお得んな」


「そんなぁ! チャックさんはC級の冒険者じゃないですか!? モンスターなんて追っ払ってくださいよ!」


「……とてもできそうにない」


 チェックさんは額から汗を垂れ流した。


『主。この冒険者の言うとおりだぞ。モンスターの魔力量が半端ではない!』


 遠くに見えるモンスターの影はゆっくりとこちらに近づいて来た。

 やがて姿が見えると、チェックさんは震えた。


「くっ! ゴブリンキングだ!! どうしてこんな所にこいつがいるんだ!?」


 そいつは体長5メートルを超えるゴブリン。真っ赤な皮膚に鋭い牙を生やしていた。

 軽々と片手で持った大きな斧は3メートルを超える。


 あんな斧で攻撃されたら、俺達は一撃で終わるな。


 そんなゴブリンキングは体長2メートルのゴブリンを連れていた。


「ゴブリンリーダーを3体も連れているぞ。キング率いるリーダーのチームだ。厄介すぎる!」


「見るからにヤバそうですね」


「バカ! 何を呑気な! ゴブリンキングはB級。ゴブリンリーダーはD級のモンスターだ! リーダーならまだしも、キングなんて勝てる相手ではない!!」


 アイアはそんなことには気付きもせず、目の前のゴブリンに必死だった。

 鉄球を構えて力を貯める。


「マワル。残念だがこのテストは中止だ。みんなで逃げるぞ」


 逃げるだって!? 


「アイアは戦っているんです。俺は彼女を応援したい!」


「バカ! んなこと言っている場合か!? 相手はB級モンスター! 試験官の俺達でさえ敵わないんだぞ!?」


 俺はブーメランを構えた。

 小さく呟く。



「アイアがんばれよ。俺がついてるからな!」



 俺だって戦ってやる!!





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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】

*今回変化なしです。



名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:E級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:6。


取得スキル:

戻るリターン

双刃ダブルブーメラン

回転遅延スピンスロウ

絶対命中ストライクヒット

魔力感知センシング


アイテム:薬草。図鑑。


昇級テスト必須アイテム:

白い角。黒い牙。緑の甲羅。



所持金:4万5千エーン。



仲間:僧侶アイア・ボールガルド。

オバケ袋のブクブク。

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