第7話 剣と槍とブーメラン 【ざまぁ】

 

ーー青のギルドーー


 俺は受付嬢からE級の冒険者バッジをもらった。

 その姿にギルドは騒つく。


「おい、あのブーメランのガキ。早速昇級してるぞ!」

「は、早すぎないか?」

「え? あの子つい3日前に冒険者登録したんでしょ?? も、もうE級なの?? 凄くない??」


 それが凄くないんだよな。

 俺の目標は剣聖ブレイズニュートなんだからさ。

 ブーメランだから剣聖にはなれないけどよ。それくらいの位置には昇り詰めてやるんだ。

 

  

 早速、クエストの掲示板に行く。


「よぉし。近場でできるクエストを優先しよう」


 難度より、早さだ。

 挑戦場所が近ければそれだけ時間が早く済む。


 俺はE級クエストの依頼書を受付嬢に渡した。


「え!? 早速、挑戦するんですか!? もう夕方ですよ??」


「受付だけ済ましとくよ。早く昇級したいしな」


 D級の昇級テストを受ける条件はE級モンスターの素材を5つ集めることだった。

 つまり、沢山クエストに挑戦してモンスターと遭遇しなければならない。


 待てよ。俺が把握しているモンスターはせいぜいF級くらいだ。

 遭遇したモンスターの等級がわからないんじゃ素材を採取する手間になるなぁ。


「モンスターの等級ってどうやってわかるかな?」


「みなさん、主に図鑑で照合されてますね。ギルドで売っていますが買いますか?」


「お、丁度いいや。買うよ」


 図鑑は1万エーンだった。

 少々高いが、無駄な手間を省く為には必要アイテムだろう。

 

 その図鑑にはF級からS級モンスターまでのモンスターを網羅してあった。


「へへへ。こういうの買っちゃうと、一番強いモンスターを見ちゃうんだよな」


 最後のページは真っ黒い竜のモンスターだった。


「ダークドラゴンかぁ……。ふふふ。こいつは剣聖ブレイズニュートが大賢者と協力して封印したモンスターだ。こいつを倒せば大陸最強だな」


「どのモンスターに殺されるのか、品定めか?」


 嫌味たっぷりの言葉を放ったのは剣士のケンゼランドである。

 俺はぷいっと目線を逸らして無視をした。

 ケンゼランドは俺のバッジを睨んで歯噛む。


「ブ、ブーメランの癖に良い気になるなよマワルゥ!」


「あれ? 俺のバッジ。ケンゼランドと同じ等級になってんなぁ。気がつかなかったや」


「きょ、虚言癖の嘘つき野郎がぁ……」


「はいはい。言ってろ言ってろ。俺は嘘なんかついちゃいねぇよ。なんなら試験官に聞いてみろよ。ちゃんとゴブリンを倒してんだからさ」


 すると酒場から試験官の声が響く。


「あの守護武器がブーメランの冒険者。マワル・ヤイバーンは凄かったぞ!! 5体のゴブリンをあっという間にブーメランで仕留めたんだ!!」


 ケンゼランドはドンと大きな音を立てて壁を叩いた。


「おもちゃのブーメランがぁあああ!! ぐ、偶然が続いたにすぎん!!」


 俺は図鑑をペラペラとめくって独り言を言う。


「よぉし。E級のモンスターを倒して最速で昇級しよーーっと!」


「クソがぁああ!! クソブーメランがぁああああ!!」


 そう言って去って行った。


 ぷぷぷ。なんだよクソブーメランって。

 もうあんまり腹が立たないな。


 俺が笑っていると、槍を背負った眼帯の男がやってきた。


「よぉマワル。最近調子いいじゃねぇか」


 こいつは槍使いのヤーリー。酒場で俺を、雑用係なら仲間にする、と言ってバカにした奴だ。


「マワルも俺と同じE級かぁ」


「はぁ……だから?」


「うん! 仲間にするなら申し分ない資格だな!」


「は……?」


「どうだ。俺と一緒に冒険しないか?」


「はぁ!?」


「ははは。スカウトだよ。どうだ、悪い話じゃないだろ?」


「あんたは俺を、雑用係なら仲間にする、って言ってたよな?」


「は……ははは。そうだったかな? も、勿論、今は正式な仲間の誘いだぞ。お前のブーメランは十分、戦力になりそうだからな!」


「辞めとくよ」


「は? な、なんだと!? 単独より仲間は必要だぞ!!」


「仲間と言ってもセンスの悪い奴と組んだらこっちが面倒になる」


「だ、誰がセンスが悪いって!?」


「お前だよ。実力よりも守護武器でしか人を判断しない。これをセンスが悪いと言わずしてなんと言おう」


「くぅう!!」


「ほら見ろよ! ギルドには立派な守護武器の人間がたんまりいるぞ! 剣も斧も強そうだ。あっちに声を掛けろよ。その方がお前に都合がいいだろう」


「お、覚えてろよ!! この借りは返す!! 絶対後悔させてやるからな!!」


「ははは。もう忘れたわ。お前のことなんか覚えてられっかよ」


「くぅううううッ!!」


 ヤーリーは去って行った。


 ふぅーー。なんかスッとしたな。

 さて、日も暮れてるし、ぼちぼち帰りますか。



◇◇◇◇



ーー王都 ハジマールーー



 中央広場。


 俺はソフトクリームを舐めながら歩いた。


「へへへ。気分が良いと、甘い物が食べたくなるんだよなぁ」


 ハジマール牛のミルクで作ったハジマールソフトは名産である。


「2個も買っちゃたぜ。一気に2個食いをしちゃうのが俺流なのさ」


 1つはバニラだけ。もう1つはチョコとバニラのやつ。

 まずはバニラを食べて、最後にこの2種類のやつを食うのが良いんだよな。ふふふ。

 このバニラはミルクが濃厚で、メープルシロップがたっぷり入っている。鼻腔に広がるシロップとバニラビーンズの風味が格別に良い。まるで互いに握手をして同盟を組んでいるようだ。一舐めする毎に甘くて冷たい感覚が舌を襲う。鼻、口が美味しさのパラダイス。至福の連続である。


 そんなソフトクリームがもう一つ控えているのだ。贅沢極まりない。

 このチョコが中々の曲者で、苦味と甘味が絶妙なんだ。もう語り出したら止まらないぞ。ふふふ。このバニラを食べ終えてから、このチョコの魅力を堪能するとしようか。


 バニラ味をペロペロと舐めながら歩くと、剣聖ブレイズニュートの石像が見えた。

 夕日に照らされるその姿は凛々しい。


 一時は見ることが辛かったけど、今はこうやって眺めることができるな。


「ふふふ。やっぱり剣聖はカッコいいや」


 そういえば、ブーメランって最上位の称号はなんなんだろうな??

 ブーメラン聖ってのもカッコ悪いし。


「なぁヴァンスレイブ。ブーメランの最上位の称号ってなんだかわかるか?」


飛刃聖ひじんせいと言うのだがな。これは太古の俗称で、今の時代では誰も知らないかもしれぬ』


「へぇーー!  飛刃聖ひじんせいか! めちゃくちゃカッコいいな!!」


 俺が喜んでいると、悲痛の鳴き声が聞こえてきた。



「オワタ〜〜。人生オワタ〜〜!!」



 それは女の子。


 俺と同じくらいの歳。

 スレンダーで色白。胸は大きく、新品の衣装からは溢れそうなほどだった。


 あのミニスカートの衣装……。たぶん僧侶だよな?


 顔は涙でくしゃくしゃ。でも、おそらく、美少女……と言っていいだろう。

 床に座り込んで号泣している。


 その横にはピンク色の鉄球が置いてあった。

 トゲトゲが付いてあり、片手で持てるほどの大きさ。おそらく武器だろう。


 僧侶といえば杖だけど……。見当たらないな。

 あの鉄球……。まさか武器じゃないよな?



「オワターー! 人生詰んだぁああああああああああ!!」



 女の子は俺の手に持った物をチラリと見つめて叫んだ。



「ああ! ソフトクリーム食べたいーーーーーーーー!!」



 ……やれやれ。なんなんだよまったく。


「ああ! 人生オワターーーー!! 完全に詰んだぁああ!! ソフトクリーム食べたいぃいいい!!」


「あーー。そのぅ……。なんだ……。よ、良かったら食うか?」


「…………………………………」


 女の子は泣き止む。


「それ……。あなたの分じゃないんですか?」


「あーー。なんていうかその……。1個間違えて余分に買っちゃたからよ。捨てようかと思ってたんだ」


「捨てるなんて勿体ないです」


「だろ? だからさ。貰ってくれたら助かるんだ」


「……私。もう16歳なんです。立派な成人なんです。知らない人からお菓子なんか貰ったらダメなんですよ」


「あーー。そうか……。そうだよなーー。うん、まぁ、しょうがないか。このソフトクリームは捨てるとしよう」


「あーーーー! そんなの勿体ないです。食べ物は粗末にしちゃいけないんですよ。それに、それ、チョコとバニラの美味しいやつじゃないですか!」


「そうか。だよなぁ……。うーーん困ったな」


「……じゃ、じゃあ。わ、私が貰ってあげましょうか?」


「お、そうしてくれる? 助かるよ」


「えへへ。し、仕方なしですよ!」


「おう。助かるわ」


 俺たちはベンチに座ってソフトクリームを食べることにした。

 女の子はルンルンである。

 その横にはピンク色の鉄球が置いてあった。


 やっぱり持って来てるな。


 俺の視線に女の子は気がついた。



「ははは……。変ですよね。こんな鉄球……」


「あ……。いや。そんなことないけどさ……」


「これ……。私の守護武器なんです」



 涙の理由。

 なんとなく察した。







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現在の状況【読み飛ばしてもストーリーに影響はありません】





名前:マワル・ヤイバーン。


冒険者等級:E級。


守護武器:ブーメラン。


武器名:ヴァンスレイブ。


レベル:4。


取得スキル:

戻るリターン

双刃ダブルブーメラン

回転遅延スピンスロウ


アイテム:薬草。図鑑。NEW


所持金:3万2千エーン。NEW

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