78 伏魔殿
気づくとネイビスはまたしてもツァーネと共有したような世界にいた。ここはどこだ?どこに向かえばいい?とネイビスはもがくが、景色は変わらない。
「門を見て、そして……。そうだ」
ネイビスは思い出した。ネイビスはルナとレナを探す。
「ルナさん!レナさん!」
ネイビスがいくら叫べども返答はない。
それから時間が無為に経つ。ネイビスは何もできないので、イリスとビエラのことを考えていた。すると向こうからネイビスと同じ姿のネイビスが現れた。
「お前は?」
「俺はネイビスだよ。昔のね」
「昔の?」
「ああ。別にお前を呪いに来たわけじゃない。ただ、最期に一つ言いたかった。俺の分まで生きてくれ」
そう言うとネイビスの姿をした者は消えた。そしてネイビスの意識は戻る。
「ネイビス、大丈夫?」
「あ、ああ。それよりここは?」
「伝承にある
「そして、この道の先に魔王がいる、と思うわ」
3人の目の前には、灰色と黒と赤の世界が広がっていた。道の先には巨大で歪なオブジェがある。
『久しぶりだね、ルナ、レナ』
声が響いた。
「この声は、レオ!レオなの?」
『そういう名前もあったね。でも、もうあの頃の私ではないんだ』
「レオ、どこにいるの?」
『道を進みなさい』
道の両脇にはあらゆる景色が広がっていた。
「これって、まるで神代の戦争じゃない」
天使が矛を振るうと地は裂け、山は消し飛ぶ。そんな斬撃が、血飛沫が、時を止めたかのように辺りに広がっていた。
『私はね、この世から争いを止めたかったんだ。だから魔と契約した。だが、そうか。もう時が来たのか』
レオ。魔王はそう言うと、3人の目の前に立ちはだかる円状のゲートを開く。その先には血の海に浮かぶ玉座があった。そこに座すはネイビスもよく知る魔王レオだった。
『よくここまで来たね』
「ねぇ、レオ。レオはもう私達のこと、愛してないの?」
「どうして魔王なんかに……」
『仕方なかったのだ。こうするしか。それに戦争のない世の中を作るためには、魔王という人類の宿敵の存在は必要不可欠なんだ。誰かがこの役割を担わなければならない』
「だからって!」
『二人には済まないと思っている。今から私の過去の話をしよう。そうすれば少しは解ってもらえるかもしれない』
◆
魔王レオはもともと勇者だった。神代では十の理達が世界の行く末について争い、その戦いに人々も巻き込まれた。
勢力は3つあった。
闇と光と中立と。
魔王は闇の総大将で、光の理が光側の総大将だった。そして記憶と時の理だけがいつも不干渉だったという。
レオは戦争を終わらせるために強くなろうとした。だが、力だけではどうにもならないと知る。
魔王。敵側の王たる存在に会って話せば何か解決策がわかるかもしれない。レオはそう思っていた。だが、魔王の望みは世界を終わらせることだった。レオは魔王と戦い、そして勝つ。
だが、今度はレオが魔王となってしまう。闇の理は受け継がれるのだった。レオは世界の真理の片鱗に触れ、世界を終わらせたいという衝動に駆られてしまう。それを必死に理性で抑えた。だが、それも時間の問題だった。それ故にレオは光陣営の空間の理に頼み、自身を彼岸と此岸の狭間にある無界に閉じ込めさせた。
その際に彼は理たちや3人の王と契りを結んだ。戦争のない世の中を作ると。そしてレオは伏魔殿に封印され、今に至るという。
◆
「それならあなたを殺せば俺も魔王になるのですか?」
ネイビスが尋ねる。
『そうだ。だからこそ、一つお前に頼みがある』
「なんですか?」
『私の恋人たちが認めた男だ。君にならできるかもしれない』
「それだとわからないですよ。もっとわかりやすく話してください」
『私を殺してくれないか。そろそろ限界なのでな』
ネイビスは悟る。闇の理は世界を終わらせる衝動に駆られるとレオは言っていた。今、レオは必死にその衝動に耐えているのではないか?
「待って!殺さないで!」
「そうよ!レオも一緒にここから出ればいい!」
ルナとレナが必死に主張するが、レオは首を振る。
『ここに来た時点でもう元の世界には戻れないよ。ルナ、レナ。どうか、私と一緒に死んでくれないか?』
魔王は泣いていた。ネイビスはもう戻れないという言葉に驚いていたが、ルナとレナは死を覚悟した目をしていた。
「あなたが望むなら」
「私も一緒に」
『君の名前は?』
最後に魔王レオがネイビスに訊いた。
「俺はネイビスです」
『そうか。ネイビス。あとは頼むよ。ここは暑くてね。できれば最後は涼しいのがいい』
「わかりました」
ルナとレナは魔王のもとへと向かう。玉座の左右に座り込み、そしてレオと手を繋ぎながら目を瞑る。
ネイビスは思わず涙した。
「恨まないでくださいよ」
ネイビスはそう独り言ちると、朱雀の指輪を外して、代わりに蒼天の指輪を嵌める。そして唱える。
「『フリーズ』」
三人は優しい冷気に包まれていく。「ありがとう」という音を微かに聴きながら、ネイビスは唱える。
「『デス』」
今なら確実に死ぬのだろうとネイビスは悟っていて、実際にそうなった。ルナとレナとレオの三人は、伏魔殿の玉座にて氷の結晶となる。その様はまるでクリスタルでできた彫刻のようだった。彼らは3人とも幸せそうに微笑んでいた。
「後は次の挑戦者が来るのを待つだけか……」
ネイビスが諦めの気持ちでそう言うと「そんなことないよ!」と聞き覚えのある声が聞こえた。
「アリエルさん?」
「そう。君はこっちの世界にまだ戻れるよ」
「でも、どうやって?」
「簡単だよ。眠ればいい。そうすれば戻れるよ」
ネイビスはアリエルの声の言うとおりにした。寝るのに苦労したが、知らぬ間に眠れていて、目が覚めると知らない荘厳な天井が目に入った。
「神が……。神が目覚めたぞ!」
男の声が聞こえた。ネイビスは神って何だよと考えながら起き上がる。目に入ったのは、一人の神父と麗しいシスター達だった。
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