65 ダンジョンクリア

 白銀のドラゴンであるツァーネが去った後、イリスとビエラはネイビスの元まで歩み寄って尋ねた。


「ネイビスくん。今のは何だったの?」

「説明してよね」


 二人に説明を求められたネイビスは語り始める。


「あのドラゴンは、俺も詳しくはわからないんだが、名前はツァーネと言って、どうやら時を司るらしい」

「時を司る、ね……」

「信じるのは難しいかもしれないが、俺はあいつと一度戦って、確かに死んだ。だが、気づいたらこうして生き返った。というより、時が戻ったんだと思う」

「時が戻るなんて話、聞いたこともないよ」

「ビエラの言うとおりね。でも、ほら。見てみて」


 そう言ってイリスは自身のステータスを表示してネイビスとビエラに見せた。


 名前:イリス(『時の加護』)

 年齢:17

 性別:女

 職業:剣士Lv.55

 HP:786/636+150

 MP:468/468

 STR:368

 VIT:312+50

 INT:156

 RES:156

 AGI:212

 DEX:156

 LUK:156

 スキル:『スラッシュ』『二連切り』『蟲斬り』『剣士見習いの本気』『一刀両断』『三連切り』『魔獣斬り』

 アクセサリー:『シルバーバングル』『ゴールドバングル』


「名前のところに『時の加護』ってあるね……。あ、私のステータスにもある!」

「俺もだ。これは何だ?」


 ビエラとネイビスも自身のステータスを確認して、名前のところに『時の加護』という言葉が増えていることを確認した。


「時の加護って何よ?」

「分からん。記憶がどうのこうのって言ってたが……。うーん」


 三人は考えに考えた。円陣を組んで考えた。ツァーネの残した抽象的で意味のわからない言葉を思い返そうとしてみたり、時の加護という名前からその効果を考えたりした。だが、結局のところ、どれだけ議論しても答えは出ず仕舞いだった。


「やめだやめだ。いずれ分かる時がくるだろ!」


 ネイビスが開き直ると、イリスがため息を吐いた。


「本当に前向きね。だけど、いつまでも考え込んでいても何も生まれないものね」

「うん、そうだね。じゃあ、ダンジョン攻略再開?」

「そうするか!」


 ネイビスのポジティブ思考により、三人は時の加護のことは諦めてダンジョン攻略を再開することにした。


「あれ、さっきまでこんな道あったかしら?」


 イリスが地面を指さして二人に尋ねた。


「地面に道があるね!」

「そうだな。雪が溶けたのか?」


 二人の言うように、地面には石畳のような道が続いていて、その道の先には青白く輝くゲートがあった。


「ゲート!」

「そうみたいだな」


 ビエラが喜々とした声でゲートを指さし、ネイビスが同意を示す。


「恐らく、ツァーネの仕業だろうが、まぁ、行くか」

「そうね。行きましょう」


 三人は休憩を入れることなく、第七階層へと続くゲートを潜るのだった。






 青白い炎で周りを縁取られた薄暗いドーム状の空間。そこに三人の影があった。


「案外楽勝だったわね。これなら不死のペンダントも要らなかったわ」

「まぁな。だが、保険として精神的には役に立ったよ」


 今、ネイビス達三人はダンジョンの最終階層の第十階層にて、ボスである黒竜との戦闘を終えたところだった。第七階層では氷竜が二体で出てきて、第八階層、第九階層は風竜が出てきたが、三人にはかなり余裕があった。ドラゴンとの戦闘にすっかり慣れた三人は、死のブレスを使う黒竜でさえ、臆することなく完封した。


「これでクリア?」

「そうなるな。お疲れ様」


 ビエラがネイビスに訊くと、ネイビスはビエラの頭に右手を載せて、優しく撫でた。「えへへ」とビエラはくすぐったいような声を漏らす。一方イリスは黒竜をインベントリにしまってから、二人のところにやってきて、疲れ気味に言う。


「二人とも、さっさと帰りましょう。流石に疲れたわ」

「それもそうだな。帰るか」


 三人は足並みを揃えてゲートへ向かって歩く。


「でも、結局あれからレベル上がらなかったね」

「だな。いかにダンジョン周回が大事か再確認できるな。じゃあ潜るぞー」


 帰還ゲートを潜る際、ネイビスはまたダンジョン攻略のことが噂になるんだろうなと辟易し、だが同時に少なからずの達成感も感じていた。案外、有名になることは心地の良いことだとネイビスは思う。


 このときにはもう既に、時の加護のことを三人はすっかりと忘れていた。何故時を司るというツァーネがわざわざこのタイミングで現れたのか。そのことに気づいていたら、三人の運命は少しは変わったのかもしれない。

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