61 ドラゴンの巣 その3

 ネイビス達はまたしても、第二階層から第三階層へと繋がるゲートの前で作戦会議兼休憩をしていた。


「いよいよ第三階層ね」

「ああ。次は白竜が三体で出てくるはずだ。一体は俺の『プチメテオ』で倒すとして、さっきも試したけど、二発目を当てるのは至難の技だろう」

「そうね。『プチメテオ』は不意打ちで使うのがいいと思うわ」


 第二階層での戦闘で、ネイビスは試しに二体とも白竜を『プチメテオ』で倒そうと試みたが、一発目を放った後は、残ったもう一体に警戒され、二発目は避けられてしまったのだった。ネイビスはイリスの発言に同意を示すように頷いた。


「同意見だ。残る二体をどう倒すかが問題だな」


 ネイビスとイリスは黙り込んで策を考える。策など考えなくともなんとかはなりそうな気はしていたが、『破壊神』の訃報があったため、ネイビスはあくまでも慎重に、油断はせずに行こうと決めていた。だが、イリスは違ったようだ。


「もう、成り行きでよくないかしら?私達今のところノーダメージだし、一体増えたところで余裕よね?」

「そうか?うーん。しかしなぁ……」


 ネイビスがイリスの案に難色を示すと、しばらく黙って二人の作戦会議を聞いていただけだったビエラが口を開いた。


「二人とも。私、一つ案があるんだけど」

「本当か、ビエラ。是非聞かせてくれ!」


 ネイビスは食い付くようにビエラを見て、ビエラが思いついたというその案を知りたがった。


「う、うん。大したことじゃないんだけどね」


 ビエラはそう謙遜してから続きを話した。


「私も戦闘に参加できないかなって思って。ほら!攻撃魔法の『プチホーリー』だって使えるし、不死のペンダントを蒼天の指輪に変えれば『プチフリーズ』も使えるよ?」

「そうだな……」


 ビエラの提案を受けて、ネイビスは思案する。ネイビスもイリスもビエラの存在意義に関しては既に何度か伝えていたが、それでもビエラは一人だけ戦闘に参加していないことに引け目を感じていた。ネイビスもこのことに薄々勘づいてはいたものの、回復役のビエラにはやはり安地に居てほしいと思っていたので、このことに関しては先延ばしにしていた。


「ビエラも戦いたいってことだよなぁ」

「うん……だめかな?」


 ネイビスが改めてビエラに確認すると、ビエラは首を傾げてネイビスに戦ってはだめか訊いた。


「いいんじゃないかしら」


 ネイビスではなくイリスがビエラの質問に答えた。ネイビスはイリスの方を見て呟く。


「でもなぁ」


 イリスの発言を受けてなお、ネイビスは判断しかねていた。そんな様子のネイビスを見て、イリスはため息を吐いた。


「あなたねぇ。ビエラのことをもっと信頼してあげてもいいんじゃないかしら?ステータスだって、そこらの冒険者の比じゃないわけだし、なにより私たち三人で一つのパーティーでしょう?」


 イリスの言葉を受けてネイビスは考えて、考えて、その末に己の未熟さを恥じた。ネイビスは怖かったのだ。失うことが怖くて、そして変化を恐れた。ネイビスとイリスが戦い、ビエラが後ろで待機する。その型に安住することを良しとして来たネイビスは、この時、そろそろ前に進むときだと思い直した。


「二人とも、最強の防御って何か分かるか?」


 ネイビスの出した突然の問いにイリスもビエラもあっけらかんとした。二人は思案したが、答えは出ない。そこで、ネイビスはほくそ笑んで答える。


「攻撃こそ最強の防御だ」






「行くぞ、ビエラ、イリス!」

「うん!」

「先頭は任せなさい」


 イリスを先頭にして、霧の中を三人は駆ける。三人の目前には三体の白竜がいて、六つの瞳が近づく三人を捉えた。


「ビエラ、今だ!」

「うん!『プチフリーズ』!」


 白竜が迫る中、ビエラが魔法を唱えた。辺りの霧の水分は凝固して雪の結晶となり、次第に空気が凍てつき始める。


「よし、イリスこっちだ。『マジックウォール』×3!」


 ビエラが『プチフリーズ』を放つ間にネイビスはビエラを中心として、白竜たちとは反対の場所に構え、防御魔法『マジックウォール』を三つ張った。イリスはネイビスの後ろに下がり、その時を待つ。


「ビエラ!」


 一体の白竜がビエラを襲おうとして、前足を上げた。それを見てネイビスは咄嗟に声を出し、マジックウォールから出ようとした。だが、その前足がビエラに届くことはなかった。


 白銀世界。地面は氷で張り巡らされ、その氷たちは三体の白竜の四肢に纏わりつく。世界は純粋なまでに真っ白だった。


 ネイビスはその光景にはっとした。そう。ただただ美しかったのだ。その病的にまで美しい白はビエラの優しい心が描いたものなのだろうと、ネイビスは思った。


「よし、後は俺たちの出番だな」

「そうね」


 イリスは雷鳴剣を構え、ネイビスは毒牙を構えて身動きの取れなくなった白竜のもとへと駆け出す。二人が一歩を踏ん張る度にパリパリと氷の割れる音が響き、凍てつく寒ささえ、三人は楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る