37 蟻塚ダンジョン

 ロッカを朝に出発した飛空艇は夕方にイカルに着いた。次の目的地である大陸北東の町サイス行きの飛空艇の出発時刻を確認してから三人はCランクダンジョンの『蟻塚』へと足を運んでいた。この時イリスとビエラは52レベル、ネイビスは63レベルになっていた。冒険者ギルドでマギカードを更新すると騒ぎになることは分かっていたので三人は冒険者ギルドには寄らずにダンジョンへと直行したのだ。


「次の方」


 三人がダンジョン入り口の列に並んで数分で三人の番になった。


「マギカードかギルドカードを出してください」


 三人は受付の女性にマギカードを渡す。


「剣士レベル47、僧侶レベル47、魔法使いレベル55ですね。その若さでこのレベルは凄いですね。これなら余裕でしょう。今日はまだダンジョンを攻略していないようなので大丈夫です。では行ってらっしゃい」


 三人が最後にマギカードを更新したのはロッカの町に旅立つ前日だったので、その時のレベルが反映されている。三人は受付の女性に見送られながらダンジョンへと繋がるゲートを潜った。

 ダンジョンの中は薄暗い洞窟だった。


「なんだか最近洞窟ばっかね」


 イリスが不平不満を漏らす。大雪山の隠しエリアといい、Dランクダンジョンの『ゴブリンの巣窟』といい、ドラゴンズボルケーノの隠しエリアといい、ここ最近洞窟が続いていた。


「そうだな。まぁこればかりは仕方ないだろ。それにここは洞窟じゃなくてアリの巣だけどな」

「どっちも同じよ!」

「まぁまぁ」


 ビエラがイリスを宥める。


「だがイリス。敵がアリってことはどう言うことかわかるか?」

「うーん。数が多いとか?」

「違う。お前のスキルにあるだろ」

「ああ!『蟲斬り』ね!」

「そうだ。ここはお前の独壇場だぞ」


 ネイビスの言葉は正しかった。イリスは出てくる巨大アリを次から次へと『蟲斬り』で即死させていった。『蟲斬り』の消費MPは10。イリスのMPは459。HPとMPの自然回復は毎分最大値の3パーセント回復するので、イリスのMPは毎分13回復する。つまり一分待てば一回『蟲斬り』を放つことができた。

 ちなみに回復薬やポーションのない『ランダム勇者』では、宿屋に泊まるかテントを建てて休むかで時間をスキップすることでHPとMPを回復していた。テントが一番便利だが、ゲームの中だとダンジョンや洞窟の中では使えないようになっていたので、その時は仕方なくエリアの隅で待機していたのをネイビスは思い出す。

 一階層から三階層は巨大クロアリが、四階層と五階層は攻撃力に秀でた巨大赤アリが、六階層と七階層は防御力に秀でた巨大青アリが、八階層と九階層は魔法防御力に秀でた巨大緑アリがそれぞれ出てきたが、どれもイリスの『蟲斬り』で一撃だった。


「次がラスボスね」


 三人は十階層へと続くゲートの前で休憩兼作戦会議をしていた。


「女王アリだな」

「イリスちゃんの『蟲斬り』で一瞬だね!」

「待てビエラ。ここは俺にやらせてくれ」

「何かする気?」


 イリスの問いにネイビスは誇張気味に大きく頷いた。


「俺に『プチメテオ』をキメさせてくれ!」

「なんだ。そんなことね。いいわよ別に」

「私『プチメテオ』見てみたい!」


 こうして女王アリはネイビスの『プチメテオ』の犠牲者となることが確定した。


「じゃあ行くか!」

「うん!」


 三人はネイビスを先頭にしてゲートを潜る。ゲートの先には開けた空間があり、そこに女王アリとその周りに各色一匹ずつの計四匹の巨大アリがスタンバイしていた。三人が現れるとギシギシと音を立ててアリ達は警戒しだした。ネイビスはそんなことはお構いなしに『プチメテオ』を発動する。


「『プチメテオ』!」


 ネイビスが『プチメテオ』を唱えると、半径二メートルはある巨大な火球が女王アリの上空に形成され、そして落下した。女王アリを中心にして衝撃波と熱波が辺りを襲う。残されたのは半径四メートル程のクレーターだけだった。


「これヤバすぎないか?」


 ゲーム『ランダム勇者』ではINTによって魔法の威力が増減するが、エフェクトはどれも同じだったし、地形破壊なんてものは起こらなかった。しかし現実となったこの世界では地形破壊は起こるし、魔法の大きさや威力などがもろにINTの影響を受ける。ネイビスの桁外れのINTによって、ただでさえ強力な『プチメテオ』が災害級の威力を持ってしまった。


「確かに凄かったわね」

「うんうん!」

「確かに強いが、敵が塵になるのが惜しいな」

「アイテム回収できないもんね」

「『プチフリーズ』と一緒で使い所が限られてくるな」


 ゲームでは何も気にせずにひたすら強力な魔法を打てたが、現実では地形破壊やフレンドリーファイア、自爆にアイテムロストなど様々な要因が重なってそう簡単には行かない。この事実を改めてネイビスは実感するのだった。

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