第一章
1.私は偽貴族令嬢
姿の見えない小鳥が小さく鳴き、私は目を覚ました。
長い姿見には、いつも見ている私の姿。ピンクブロンドのくるくるとしたロングヘアに、サファイアブルーの瞳をした、十人中八人ほどは美少女というような姿の少女。
私はこの母譲りの容姿を自慢に思っているし、自他ともに認める才能の持ち主なので、完璧と言って差し支えないだろう。
よいしょとベットの上から降り、ネグリジェから簡単なひざ丈のワンピースに着替えると、ノックの音が聞こえた。
「ステラ様~!お食事のお時間です。」
「エミリー。入ってちょうだい。」
部屋に入ってきた、モノクロのメイド服を着こんだ私より一回りほど小さいエミリーに、私は慣れないお嬢様語で告げる。エミリーのロングスカートから覘く私より小さな足に、微笑ましさを覚えながらも私はエミリーの運んできたワゴンを一瞥した。
「本日のメニューは、エッグにオニオンのスープ、クロワッサンにお紅茶です。お砂糖はこちらに。」
「ありがとう、エミリー。いただきますわ。」
そう言って、白いレースのテーブルクロスの引かれたミニテーブルのそばにある椅子に座り、手を合わせ「いただきます」と言ってからエミリーがお盆とともに乗せてくれた朝食を食べる。
角砂糖を四つも入れ、ティースプーンでかき混ぜながら、少し違和感を覚えた。
———あれ、「いただきます」って、なんで私そんなこと言ったんだろう。
エミリーのほうを見ると、私の不可解な行動に少し目を丸くしている。
無意識にやったのかな。でも図書館にもこんな行動は乗ってなかったし、本に影響されてっていうわけではない?
考えあぐねていると、エミリーに「お紅茶をかき混ぜすぎですよ」と叱られた。すっかり気泡が浮かんできている甘い紅茶を、一気に半分ほどあおる。
————ッた。
「痛……」
「ステラ様、どうされたのですか?」
急に傷んだ後頭部に、思わず声を漏らすと、エミリーに心配そうに声をかけられた。
そうしている間にどんどんと頭痛は酷くなっていく。
急に頭を抱えてうずくまった私に、エミリーがメイド頭を呼ぶ声が聞こえ、だんだん意識が遠ざかり———
私は真っ暗闇に落ちていった。
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