第5話 金色の瞳



 その森は、誰も入った者がいない。森には美しく大きな赤い花が咲いており、特に自然が豊かな場所とも言える。然し、その森の中に生き物はいない。いや、いないと思われているだけで、誰も真実はわからない。その美しく大きな赤い花の花粉は毒を含んでいて、その花粉に命を奪われることもあるのだから。その花粉という目に見えない粒子が、一度肌に触れると小さな穴を開け、そこから一筋の鮮血が流れ出す。


 怒りの時、と人々は言う。ごく稀に赤い花の咲く森から風が吹く時がある。この風にはたくさんの赤い花の花粉が含まれており。この風に当たれば全身に小さな穴が開き、全身から血が流れ出す。目を開けているものは目から、耳の穴に入ったものは耳から、呼吸して吸い込んだものは口から喀血する。


 それでも彼らは、その森を神の住む場所と定め、焼き払うこともせずに崇めている。そこには金色の瞳を持つ者が住んでいると言われており、その瞳を手に入れたものはあらゆる傷や病から、今を生きる苦しみや悲しみから救われると言われているから。

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