第65話 王都復興(3)


『わっふん、わふわふ♪』「キュイ!」


『わっふん、わふわふ♪』「キュイ!」


 俺の目の前で、クタルとディオネが仲良く体操をする。

 なんだかんだで、結局やってくれるらしい。


「次はお尻を突き出して、尻尾を振る運動!」「キュー」


 実際は――お尻を振る――というよりも、左右の足に対して、交互に体重を乗せるだけの運動だ。


 なので『振る』というよりは、『揺れる』と表現した方が近い。

 クタルの尻尾がゆらゆらと左右に揺れた。


「クー姉、上手!」


 とディオネ。


(それはそうだろう、本物の尻尾を振っているのだ……)


 そんな彼女の言葉を鵜呑みにして、


「えへへ♥ そうかな?」「キュー」


 クタルは照れた様子で後頭部をく。


「二人共、上手だったぞ」


 と俺は両手でクタルのあごの下に触れる。

 そして、両端を揉むように軽く《な》でた。


「わふー♥」


 とクタル。

 それ、気持ちいいの?――とディオネが不思議そうに首をかしげる。


「相手による!」


 わふん!――とクタル。試しに、ディオネのあごの下に触れると、


くすぐったいよ!」


 そう言って、彼女は逃げ出すと、クタルの後ろに隠れてしまった。

 キューイもして欲しそうにしていたが、そっちはディオネに任せよう。


かく、二人のお陰で、改善点も見付かった」


 ありがとう――と俺はお礼を言う。

 この国には、怪我人けがにん身体からだの不自由な者も多い。


 椅子イスに座ったまま出来るパターンも考える必要がある。

 まずは子供達の間で流行はやらせるのがいいだろう。


 それなら、クタルも抵抗がないはずだ。

 俺は焼き菓子の残りを出してやる。


「ありがとう! お兄ちゃん♥」


 とクタルはお礼を言った。紅茶もいいが、牛乳ミルクも用意してやる。

 魔術で氷を作れるため、冷えた物を常備していた。


「キュキュ♥」


 勿論もちろん、キューイの分も準備する。

 ディオネにで回してもらったためか、すっかり上機嫌だ。


「それにしても【守護者】ガーディアンか……」


 クタルが俺をけていた理由を話してくれたので、再び考える。

 特別な魂を守る存在――と仮定すればいいのだろうか?


 この星を【魔力マナ】は循環じゅんかんする。

 人々の意思や想いも一緒に――


(しかし、それは本当に人間だけなのだろうか?)


 植物、動物、精霊――人間ほど、ハッキリはしていないだろう。

 だが、微弱ながら、意思を持っているはずだ。


 ならば、それはこの星の意思なのかも知れない。

 この星で生まれた超常ちょうじょうの存在であるクタル。


 【守護者】ガーディアンとは、彼女を守るために――この星が用意した存在――と考える事が出来る。


「本当にお兄ちゃんじゃないの?」


 とクタル。どうやら、まだうたがっているようだ。

 いや、残念そうにも見える。


 俺であって欲しいが、欲しくはない――そんなところだろう。

 むずかしいなやみのようだ。


生憎あいにく、俺はクタルの嫌がる事も平気で出来る」


 その証拠に先程、クタルをくすぐり倒してやった。

 嫌がるクタルを思う存分、くすぐったのだ。


「もう一度、試すか?」


 俺の質問に――ブンブン――とクタルは慌てて首を左右に振る。


「ならしばらく、肉は禁止にしよう」


 そんな俺の言葉に、


「やめて! 信じるからっ……」


 とクタルは長机テーブルに――バンッ――と手を突いて立ち上がった。

 その表情はいたって真剣だ。


(必死過ぎる……)


「冗談だ」


 と俺は苦笑する。

 クタルは――ホッ――と胸をで下ろすと、再び椅子イスに座った。


 キューイは出してやったお菓子を食べるのに夢中な様子だ。

 そんなキューイをディオネは嬉しそうに見ている。


なにが面白いのだろうか?) 


「でも、じゃあ誰なんだろ?」


 そう言って腕を組み、悩むクタル。


「別に人とは限らないだろう」


 と俺。その言葉に――ん?――と彼女は首をかしげた。そして、


「あっ! 山の神達かな……」


 とクタル。確かに、アレはクタルの言う事なら従うだろう。

 俺個人の結論としては、フランが【守護者】ガーディアンである可能性が高い。


なにせ、双子だ……)


 彼女が居たからこそ――クタルが無事であった――とも言える。

 また、クタルが能力の一部を渡した事が原因だろう。


 【守護者】ガーディアンとしての機能に――異常事態イレギュラーが発生している――と考える事も出来た。

 ただ、この推測については、クタルに言うつもりはない。


「うん、なんだ! そっかそっか」


 とクタルは一人で納得していた。俺にとっては、それがすべてだ。

 クタルがクタルで居られるのなら、平気でうそける。


 この推測を伝えたのなら、フランとの関係が変わる可能性もあった。

 それは俺にとっても、クタルにとっても、けるべき事態だ。


「お兄ちゃん!」


 とクタル。どうやら、お菓子を食べ終わったようだ。

 キューイも素早く、クタルの肩へと乗る。


「どうした?」


 俺の問いに、


「うんん――魔王様っ!」


 彼女は首を横に振ると、そう言い直した。そして、


「いつでも、私をさらっていいからね♥」


 軽く目配せウインクをすると、部屋の窓から外へ出て行った。


(やれやれ、一体、何処どこまで知っているのやら……)


 俺は肩をすくめる。

 ディオネはそんな俺を不思議そうにながめていた。


 彼女には要らない気をつかわせてしまったかも知れない。

 俺はそんなディオネの頭をでると、


「頼りになる弟子も居る事だし、少し、真面目にるか」


 そう言って、再び仕事に戻る。

 ディオネは嬉しそうに、俺を手伝うのだった。


 青く晴れ渡った空でも、月は見える事がある。

 今は、一時的な安寧あんねいたもっているに過ぎない。


 再び、クタルを闇がおおうその日までに、やらなければいけない事がある。

 まずは、彼女をさらうためにも、急いでこの国を復興させよう。


 いずれ来る、旅立ちの時までに――

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