第52話 ご、ゴメンなさい! お断りします!


「おめでとうございます。クタル――貴女あなたは我々と共に旅をする権利を得ました」


 そう言って、フーラが手を差し伸べてきたけど、


「あ、あのっ!」


 突然の事に理解が追いつかず、私は咄嗟とっさに声を上げた。

 心の何処どこかに――遠くへ行きたい!――という気持ちがあるのも確かだ。


なんです?」


 フーラは首をかしげる。


(どうしよう? 考えがまとまらないよ……)


 ――あっ、そうだ!


「その前に、私がここに来た目的なんだけどね……」


 私は――パンッ――と両手を合わせ、笑顔を振りまく。すると、


「そうでしたね……確か、契約の更新――ちょっと、待ってください!」


 フーラは途中でなにか、異変を感じ取ったようだ。

 この国にける【魔力マナ】の流れが正しくない事を察知したのだろう。


 なにやら虚空こくうを見詰める。

 まるで、此処ここには意識がないようだ。しばらくして、


「なるほど、【石碑せきひ】がいくつか破壊され、【魔力マナ】の流れが可笑おかしな事になっていますね」


 こういう事を考えるのは、【不死】ノスフェラトゥですか――とフーラ。

 なんだか、怒っているようだ。


「分かりました。ワタシの担当分の【石碑せきひ】は修復して置きます」


「そんなに簡単なの?」


 こちらとしては――願ったり叶ったり――なのだけれど、対応が早い。


「はい、原因は【不死】ノスフェラトゥでしょうからね――彼らは直接【石碑せきひ】には手を出せません! なので――」


 人間達を利用して、物理的に【石碑せきひ】を破壊したと推測出来ます――とフーラ。

 なんでもお見通しのようだ。


まで、修復出来るのは――ワタシの担当分だけ――ですけどね」


 彼女は苦笑すると、


「では、先程のお返事の方を!」


 ズズイ――と近づいて来た。

 なんだか、個人的にも彼女に気に入られてしまったようだ。


「私、早く戻らないと……」


 そう言って、つい視線をらしてしまう。


「修復には少し時間が掛かりますので、もう少し、ここに居る必要があります」


 ニコリ――とフーラ。


(そういうモノなの?)


 考えても分からないので、否定のしようがない。


「さぁ、ワタシ達と共に――」


 フーラの目が、キラキラと輝いている。

 余程、同胞とやらが来た事が嬉しいらしい。だけど、


「ご、ゴメンなさい! お断りします!」


 私はそう言って、いきおい良く頭を下げた。


(それって、もう……)


 ――こっちの世界には、戻って来られないって事だよね!


 考える間もなく、反射的に拒否してしまった。

 フーラに――叱責しっせきされる――と思い、覚悟して待っていると、


「分かりました」


 と、やけにあっさりとした反応が返ってきたので、


「分かってくれたの⁉」


 私は逆におどろいてしまう。しかし、彼女は平然とした態度で、


「ええ、強制ではありませんから……」


 そう言いつつも、少しさびしそうな顔をした。


「私が行かないとどうなるの?」


 気になったので聞いてみると、


「ワタシとしては、次の同胞が出現するまで待つだけです……」


 ただ――とフーラは付け加える。


【不死】ノスフェラトゥに目を付けられているのなら、気を付けてください」


 彼らは遊戯ゲームをしているのです――フーラが忠告してくれる。


遊戯ゲーム?」


 私は思わず聞き返す。

 はい、困ったモノです――彼女は肩をすくめた。


「そうですね――魂の奪い合い――と考えてくれれば、分かりやすいでしょうか?」


「魂の奪い合い?」


 これまた、面倒そうな単語が出て来た。


「我々、【地獄ヘルズ】は魂を選別し、循環じゅんかんさせています」


「えっと、待ってね……」


 私は考える。この手の話は兄から散々聞かされていた。


「つまり、死んだ人間の魂を【魔力マナ】の流れに乗せて――この星をめぐらせている――って事でいいのかな?」


 フーラは――はい――と答える。何故なぜか嬉しそうだ。


(お兄ちゃんと気が合うかも知れない……)


【楽園】アヴァロンの方は――気分屋でマイペースな者が多い――という認識でしたが、改めた方が良さそうですね」


 と語る。なんだか、だましているようで心苦しい。


「え、えっと……」


「はい、なんでしょう?」


 フーラは嬉しそうに反応する。少し話題を変えよう。


【楽園】アヴァロンって何?」


 私の問いに――そういえば、説明していませんでしたね――とフーラ。

 失礼しました――と謝ると、彼女は続けて、


「分かるように言うと、『妖精』ですね――そちらに近い特徴を持つ者達です」


 と教えてくれる。


 ――なるほど!


(今までは、自分の事を獣人だと思っていたけれど、そっちなのね……)


 私は納得する。


 ――そんなに獣臭くないもんね!


ちなみに【楽園】アヴァロンの事を『妖精郷』と呼ぶ者もいますね」


 とフーラが補足する。


「じゃあ、【地獄ヘルズ】は?」


「そうですね――悪魔が近いでしょうか?」


 とあごに手を当て、考えた後――まぁ、契約や規則にうるさいだけのやからです――フーラはそう言って笑った。


「可愛いのに、怖いのね」


 私の台詞に、


「ワタシはこう見えても、変身をするたびにパワーが増します」


 その変身を後二回も残していますよ――と彼女は自身満々に言った。


「そ、そうなんだ……」


 意味は良く分からなかったが――凄いのね!――と感心する。


「じゃあ、【不死】ノスフェラトゥについても教えてもらっていいかな?」


 ちょっと、調子に乗って聞き過ぎたかな?――とも思わなくもないが、フーラに気にした様子はない。むしろ、会話を楽しんでいるふしがある。


「不死身の肉体を持つ者達ですね。非常に厄介な連中ですが、弱点も多いですよ」


 ――弱点! それだ!


「フーラ!」


 私は彼女の手を取ると、


「それだよ! 目的の他に、弱点も詳しく教えて!」


 と顔を近づけた。彼女は一瞬、目を見開きおどろいた様子だったが、


「はい、そのつもりです」


 そう言って、笑顔で答えるのだった。

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