第48話 私って役に立たない……


 さて、問題は――ディオネをどうやって孤児院まで送り届けるのか――だよね!

 そういう訳で、アーリにお願いしようと思ったのだけれど、


「大丈夫だよ! イストルも待ってるし、馬車で帰るよ!」


 私の言動を先回りして、ディオネはそう答える。

 どうやら、彼女は私と違って、後先を考えて行動しているようだ。


 ――わふっ!


(でも、子供だけだと心配だよ……)


 そんな私の心を読んだのか、


「今日はお祭りだから、人目も多いしね」


 と付け加える。


(しっかりしている……)


 ――流石さすが、お兄ちゃんの弟子ね!


 でも――それでも、私は彼女を抱きめた。


「気を付けて帰ってね……」


「うん、お姉ちゃんもね! あと――」


 ディオネは私から離れると、フランへと向きなおる。そして、


「姫様――うんん、フランお姉ちゃん、クー姉をよろしくお願いします」


 ペコリ――と頭を下げた。フランは感動しているのか、口元に手を当てると、


「お姉ちゃん……いいひびきです! お姉様、やはり――」


 この娘にはこのまま、ここで働いてもらいましょう!――などと言い出す。

 私はフランに手刀チョップをして暴走を止める。


 そして、やはり心配なので、アーリにお願いした。

 彼女を――イストルが待っている――という場所まで送ってもらう事にする。



 †   †   †



(当初の予定では、フランに変装して忍び込むはずだったのだけれど……)


 ――結局、力技になってしまうとは……。


 フランの方は、斬り合いを覚悟しているようだ。

 動きやすいようにズボンを穿いている。


 防具は動きやすい皮鎧を装備しており、準備万端ばんたんだ。

 今はその上から――聖職者用の外套ローブかぶる――という変装をしていた。


 アーリも同様に、外套ローブに身を包んでいる。


(私もフラン同様、動きやすい恰好の方が良かったのだけれど……)


 尻尾があるため、今は修道女シスターの恰好をしていた。

 正直、教会に良い印象を持っていないため、この恰好には抵抗がある。


(せめて、お兄ちゃんが居てくれたら、張り合いがあるのに……)


 お洒落しゃれをする気力は半減である。

 今日は祭りという事もあり、教会の人の出入りも多い。


はずなんだけど……?)


 流石さすがは王都の教会だ。確かに、正面の入口には人が列をなしていた。

 しかし、裏に回った途端、


ほとんどいないよ?」


 にぎわっていた正面とは違い、見張りどころか、神官の姿すらなかった。


「罠でしょうか?」


 とフラン。すっかり、疑い深くなっている。


「単純に誘拐事件で――高位の神官達が城に召喚されているだけ――かも知れないがな……」


 とはアーリだ。どちらも、可能性としてはある。しかし、


「まぁ、悩んでいても仕方ないよね」


(本当は高位神官を捕まえて、色々と聞き出す事も考えていたのだけれど……)


 私は裏口まで駆け出した。

 そして、頭巾ウィンプルをずらし、聞き耳を立てる。


(気配がない?)


 どうやら、中には誰もいないようだ。フランとアーリに問題ないむねの合図を送る。

 二人が駆けって来たので、アーリと目配せをした。


 そして、タイミングを合わせると、裏口の扉をコッソリと開ける。

 刹那せつな――素早く侵入した。中は薄暗く、しんと静まり返っている。


「本当に誰も居ない……?」


 ハッキリ言って拍子抜けだ。警戒けいかいして、損した気分になる。


「どうしたのでしょうか?」


 首をかしげるフランに、


「考えても仕方がない――ついて来い」


 とアーリ。内部構造については、彼がくわしいのだろう。

 私とフランは互いに顔を見合わせうなずくと、アーリの後に続いた。


「てっきり、祭壇の裏に隠し通路があると思っていたのだけれど……」


 そんな私の台詞に、


「確か、鍵盤楽器パイプオルガンで決まった旋律を奏でると、階段が現れるんですよね」


 楽しそうにフランが返した。


「お前達……」


 本の読み過ぎだ――とアーリはつぶやくも、とある部屋の前で静止をうながす。

 そして、私を見た。どうやら、私の耳で中の様子を確認して欲しいようだ。


 私は素早く近づくと、聞き耳を立てる。

 先程と同様に、しんと静まり返っている。


「大丈夫みたい」


 私の言葉を信用したのか、アーリは一度、私達に下がるよう合図した。

 そして、魔術で扉の鍵を凍らせ、破壊する。


 バリンッ!――と音を立て、鍵が砕け散ったかと思うと、一人で部屋に潜入した。


 無音むおん――しばらくして、アーリが出てくると、首を左右に振った。

 やはり、誰も居ないらしい。


 私とフランは一緒に部屋に入る。薄暗い部屋だ。

 その中では、緑色の淡い光が室内を煌々こうこうと照らしている。


 また、部屋の中央には、地下へと続く階段が鎮座ちんざしていた。

 明りの正体は【精霊石せいれいせき】と呼ばれる【魔力マナ】に反応する石だ。


 松明たいまつの代わりに、壁に等間隔で設置されている。


「大丈夫そうね」


 私の言葉に、緊張がけたのだろう。フランは――ホッ――とした様子でうなずく。

 アーリは【精霊石せいれいせき】の一つを外すと砕いて、ランプに入れた。


 これで、ランプに【魔力マナ】を込める事で、それぞれの持つ属性の色に光るようになる。フランは白、アーリは水色、私の場合は黒く光った。


(わふん? 私って役に立たない……)


 アーリを先頭に――私、フランの順で地下への階段を下りる。

 しばらく下ると、やがて広い空間へと出た。


 そこで一旦、階段は終わりのようだけれど、平坦な道がまだ続くようだ。

 アーリは一旦まると、口元に指を立て――静かに――と合図をする。


 私とフランはうなずいた。どうやら、思った以上に【石碑せきひ】は巨大なようだ。

 思わず、声を上げそうになった。だが、私もフランも慌てて口を押える。


 地下空間で信者など来ないはずなのに、まるで神殿のような造りだった。

 床の一部は青や緑、白などの光を放っている。


 【精霊石せいれいせき】はここから掘り出したのだろう。

 中央には巨大な【石碑せきひ】が存在している。


 私達は下へ降りる道を探し、【石碑せきひ】へと向かうのだった。

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