第46話 えへへ♥ 似合ってるよ ♪


「お姉ちゃん、大丈夫⁉」


(誰かの声が聞こえる……)


「クー姉……起きて!」


 ――ん? 私をそう呼ぶのは……ディオネね!


(はいはい、ちょっと待っててね……)


 ――今起きるから!


「ふぁあー……」


 私は盛大な欠伸あくびをする。

 なんだか、頭が――ボーッ――とするけど、どうしてだろう?


「やっと起きた……」


 そう言って安堵あんどの溜息をいたのは、やっぱりディオネだ。

 いつの間に、孤児院に帰って来たのだろうか?


(でも、なんだかいつもと違う気が……)


 ――そっか、メイド服ね!


 ディオネはお城の侍女の恰好をしている。


「えへへ♥ 似合ってるよ♪」


「ありがと……」


 めたのに、どういう訳か、心底どうでもいい顔をされてしまった。

 心外である。


「今、起きました――まだ寝惚ねぼけてますけど……」


 そう言って、ディオネは誰かを呼んだ。


(はて? 随分ずいぶんとリアルな夢ね……)


「あのね――」「はいはい、動かないでね……」


 そう言って、私の言葉をさえぎると彼女は私に付いていた鳥の羽を取ってくれる。


 ――くすぐったいよ!


(それにしても……どうして、そんなモノが私の身体に?)


「お姉様!」


 フランが慌てた様子で部屋に飛び込んで来る。お姫様の恰好だ。

 『白百合の騎士ホワイトリリィ』はもういいのだろうか?


怪我けがは無いのですね?」


 と心配そうに聞いてくる。

 そこでようやく、私は自分の置かれた状況を思い出す。


(そうだった……)


 ――薬で眠らされたのだ!


 どうやら、夢ではないらしい。

 二人には、心配を掛けてしまったようだ。


「ゴメンね」


 と謝っておく。


「無事ならいいのです」


 とフラン。すがるように私に抱きついてきたので、私はその頭をでる。

 一方で――まったく、もうっ!――と腰に手を当て、ご立腹りっぷくのディオネ。


「お城が大変な事になってるんだからね!」


 と注意されてしまった。やはり、アレが原因だろう。

 私は確かに眠らされた。だが――その前に動物達を呼び寄せたのだ。


 そこら中に羽が落ちているのは、その名残なごりだろう。


「掃除が大変だよね?」


「そういう問題じゃないけどね……」


 ディオネは溜息をくと、


「いい? 良ぉく聞いてね」


 と念を押す。うなずくしかない私。彼女の話によると、鳥は勿論もちろんの事、猫や犬、そして馬、更には蛇や虫までもが一斉に集まって来たようだ。


(敵の狙いは私――ではなく、フランだろうか?)


 フランをさらおうと狙った連中は全員返り討ちにったらしい。


(お気の毒様です……)


「『眠りの香』による被害もひどかったみたいだよ」


 どうやら、下の階で『眠りの香』をいていたようだが、鷹狩たかがり用の鷹がいたらしく、そのお香を奪い、上空から派手にまき散らしたらしい。


 実行したのは教会の暗部だったらしく、事が事であるだけに、国の内部は今、混乱状態だという。


 また、実行犯は城の番犬に噛まれ、馬に蹴られて、更に鶏の襲撃を受け、虫の息らしく、詳しい事情を聞こうにも難しいそうだ。


(鶏って、結構強いのね……)


 私は――というと小鳥達に守られるように眠っていたらしく、


「あたし達も近づけないから、大変だったんだからね!」


 とディオネに怒られてしまった。どうやら、本当に心配してくれたようだ。


 ――申し訳ない。


なんでも、遣り過ぎは良くないよね……)


 わふんっ――と反省する。


「まぁまぁ、ディオネさん――お姉様も無事だったのですから……」


 フランがディオネをなだめる。

 は止めてください――とディオネ。続けて、


「ひ、姫様がそうおっしゃるのでしたら――」


 としおらしい態度をとる。

 ちょいちょい――と私はディオネをつつくと、


「私も、お姫様だよ」


 わふんっ!――と胸を張る。


「はいはい、そうですね」


 そう言って――パシッ――と私の手を払った。


あつかいが違うんですけど……)


「もっと、甘やかしてもいいのよ?」


 私の言葉に、


「リオル兄が心配してたよ」


 とディオネ。


 ――えっ⁉ お兄ちゃんが!


 ピンッ――と耳が立ち、尻尾が――パタパタ――と動く。

 キョロキョロと私は辺りを見回すが、兄の姿は何処どこにも無いようだ。


「いや、来てはいないけどね……」


 申し訳なさそうなディオネの言葉に、私の耳はれ、尻尾が動かなくなる。

 そんな私のあからさまな態度に、再びディオネは溜息をいた。


 しかし、同時に冷静になる事が出来たため、一つの疑問がく。


「ところで、どうしてディオネがここに居るの?」


 口から出た質問に、


今更いまさらだね……」


 ディオネはあきれている。

 もっと早くに聞いて欲しい――といった態度だ。


「ゴメンなさい」


 一応、謝っておく。


「まぁ、無事だったからいいけど……」


 とディオネ。彼女なりに心配はしていたようだが、再会の喜びよりも、情報が多いため、混乱しているのだろう。


「あたしは伝言役だよ――」


 彼女の話によると、待ち合わせの場所に『白百合の騎士ホワイトリリィ』が登場したようだ。


(どうやら、フランは遊びではなく、本気の変装だったらしい……)


 ――後でもう少し、常識というモノを教えた方が良さそうね!


「リオル兄が言うには、【淀み】を暴走させるための装置は教会にはないらしいよ」


 確か、人々の負の感情を集めるためにも、人々が常に祈りを捧げる教会の【石碑せきひ】が最適だと言っていた気がするけど?


「リオル兄が言うには、負の感情を集めるのに、もっと最適な物……いいえ、人物がいると言っていたよ」


(はて? 誰だろう……)


 首をかしげる私に対し、


「お父様――いいえ、国王ですね……」


 フランはふるえながらも、覚悟を決めたように断言した。

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