第45話 私も罪人ね……


「まぁ! そんな事があったのですか⁉」


 おどろくフラン。

 あったのです!――とふざけた返しをしたいところだけど、今は我慢する。


 彼女へ変装用の外套ローブを渡して、私達は入れ替わった。

 銀色の髪と金色の瞳。耳は髪型で、尻尾はリボンでまとめて誤魔化す。


 今の私は、何処どこからどう見ても『ブランシュ姫』だ。

 フランの方も変装を楽しんでいるようで、少しワクワクしている様子だった。


 正直、『グリムニル』という少年の事も気になる。


(でも、気にし過ぎも良くないよね……)


 ――不安な態度を見せるよりはいいはずだ!


 気が気でないのはアーリの方だろう。

 後でキチンと説明しなければならない。


 貴族達の挨拶も済み、午後に行われるパレードの確認をしなければならない。

 移動を兼ねて、城内の散策を行う。


 城門の辺りでは、用意された花束が馬車に積まれている最中だった。


(数も多いし、何回なんかいかに分けて、運ばれているのね……)


 流石さすがに、今回の祭の開催が急だったためだろう。

 本来なら、フランもこっそりと手伝うらしいのだけれど――


(残念ながら、今日は確認だけになってしまったわね……)


 先頭を護衛の騎士が歩き、その後ろを私がついて行く。

 更に変装したフランと騎士の正装をしたアーリ。


 更にその後ろを従者達がついて来る。私が姿を現すと、


「姫様だ」「姫様!」「わーい、姫様」


 と老若男女問わず、花束の積み込み作業を行っていた人達が声を掛けてきた。

 恐らく、毎年の事なので、いつも手伝いに来てくれている人達なのだろう。


 勝手に動くと兵士に迷惑が掛かるため、私は廊下から、笑顔で手を振った。

 中庭で育てられた花々は、祭りで着る衣装の飾りになるのだろうか?


 それとも、十四年前に亡くなった人々の墓へと供えるのだろうか?

 馬車の荷台に積まれ、街の広場へと運ばれて行く。


「今年も皆さん、喜んでくれていますよ」


 と神官の一人が話し掛けてきた。

 どうやら、教会が主導で手伝ってくれているらしい。


 私はしおらしく、


「少しでも、皆さんの心の支えになればいいのですが……」


 と言ってみる。フランっぽく出来ているだろうか?

 それを聞いた神官は、


「大丈夫ですよ。手伝いの者達も、こんなに喜んでいるじゃないですか!」


 と両手を広げ、状況を説明する。

 確かに、手伝いに来てくれている人々の姿は皆、笑顔だ。


「そうですね」


 私も笑顔を浮かべる。


(どうやら、この人は普通の神官みたいね……)


 グリムニルの所為せいで、変に警戒をしてしまった。

 そもそも、教会の在り方は、自然との共存だ。


 花を育て、いつくしむ事は、その教えから外れてはいない。

 彼らはただ、【石碑せきひ】にいのりをささげ、日々をつつましやかに生きている。


 本当の意味で、悪人とは呼べない。


(ただ――知らない――というだけ……)


 十四年前の真実を知る側からすれば、それは十分に罪である。

 でも、なにをどうすれば良かったのか、それは誰にも分からないだろう。


(そういった意味では、私も罪人ね……)


 ――人は、考える事を止めてはいけない。


 よりく生きるために、私達は考え続ける必要がある。


(そのためにも、今日の計画を無事に成功させないとね!)


御石おいし様のご加護がありますように――」


 私の言葉に対し、神官も同様の言葉を返すのだった。



 †   †   †



 部屋に戻ると、早々に着替えて楽な姿になる。

 そして――バサッ!――そのままベッドに倒れ込んだ。


「わふーっ」


れない事はするモノじゃないよね……)


 思っていたよりも、疲れていたのだろう。私は盛大に溜息をいた。

 ベッドの上で少し休憩――と思っていたのだけれど……。


 ――このまま寝てしまうのも悪くない!


(動くのは今日の夜だから、仮眠を取るのも手だよね……)


 パレードまで引き受けたのは失敗だったようだ。


(ニコニコして、手を振っていればいいだけ――と思っていたのだけれど……)


 思った以上に、フランは人気があるようだ。

 名前を呼ばれる度に、終始笑顔で手を振っていたため、顔の筋肉が痛い。


 それに馬車で周ったとはいえ、結構な時間、座っていたような気がする。


(この国も結構、広いのね……)


 次からは――このベッドに寝たままパレードを行う――というのはどうだろうか?


 ――いや、ダメに決まっている。


 護衛であったアーリは疲れたのか――しばらく休む――と言って、姿を消してしまった。


(ずっと気を張っていたようだし、無理もないよね……)


 そう言えばパレードの最中、小耳に――いや、獣耳にはさんだ話によると、ちまたで『白百合の騎士ホワイトリリィ』が出たらしい。


 迷子の子供を助けたり、困っている老人の荷物を持って上げたり、落とし物を届けたりしたそうだ。


(フランもなにをやっているのやら……)


 ――いいえ、流石さすがは私の妹といったところね!


 きっと、これを機に――『ブランシュ姫』と『白百合の騎士ホワイトリリィ』は別人だ――と印象操作する気なのだろう。


 例え似ている事を指摘されても、『ブランシュ姫』はパレードに参加中だったのだから――同一人物であるのは可笑おかしい――となるはずだ。


 ――フラン、なんて恐ろしい子!


 そんなバカな事を考えていた所為せいだろうか?

 本当に眠くなって来た。うつらうつら――とする。


 ――いや、違う!


(これは『眠りの香』だ……)


 今日は色々な場所へ行ったため、鼻も疲れていたらしい。

 気付くのが遅れてしまった。


 誰かがこの部屋に近づいている。知らない足音だ。


 ――不味まずい、逃げなくちゃ!


(でも、身体が言う事を聞かない……)


 私の意識は完全に消失フェードアウトする。

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