第42話 計画通りですね ♪


「なるほど――」


 とアーリ。私の説明に納得してくれる。


(私が――この国の姫――というのも、あるのだろうけど……)


 ――どうにも、それだけじゃない気がするのよね?


「ただ、オレはそんな子供、見た事はないが……」


 記憶を手繰たぐるアーリの言葉に、


「あら? わたくしは、何度なんどか見掛けました」


 流石さすがに顔を見た事はありませんでしたが――とフラン。その言葉に対し、


「待て⁉ それはみょうな話だ……」


 いぶかしむアーリ。彼の任務を考えると、フランから目を離す事はほとんどないはずだ。

 それなのに、フランだけが知っていて――アーリが知らない。


(確かにみょうな話ね……)


「少し調べてみるか……」


 口元からあごに掛け、手を当ててアーリはつぶやく。

 それに対し――お願いね――とフランは微笑ほほえんだ。


 彼はフランに視線を移す。

 だが、ニコニコとした表情の彼女を見て――簡単に頼むなよ――と肩をすくめた。


(どうやら、やってくれるようね……)


 少年の対応について、話がまとまったタイミングで――ピコピコ――私の耳が動く。


なにやら、外がさわがしいけど……)


「どうやら、ベガートが帰ってきたみたいだな」


 丁度いい――とアーリ。少年について、報告するのだろう。

 一方、外では――山の神から天啓てんけいを受けた――そんな話が聞こえてくる。


 建国祭の話のようだ。ベガートが帰ってきた――というのは本当のようだ。

 城の空気が引き締まった気がする。


 山での印象やフランの話から、優しい人だと思ったが、このお城では違うらしい。

 急いで建国祭の準備を行う――と言っている。


(明日は前夜祭になるのね……)


 ――いそがしくなりそう……わふん!


「どうしました? お姉様……」


 不思議そうに私を見詰めるフラン。その言葉に、


「神様からの天啓てんけいを受けたから、建国祭をするそうよ」


 と返す。どうやら、耳と鼻は私の方がいいみたいだ。


「計画通りですね♪」


 両手を合わせ、何故なぜか楽しそうなフラン。

 なんだか、ワクワクしているようだ。私は、


「でも、こんなに急で大丈夫なの?」


 思い付いた疑問をただ言葉にする。それに対し、


「問題ないだろう」


 と答えたのはアーリだ。彼の話によると、本来、祭は満月の夜に行うモノらしい。

 ただ、その理由は『契約の儀式』を行うためである。


 今迄いままでは、その必要がないため、今回のように急に始める事もあったようだ。

 また、天候にも左右されるため――開催日をずらす事もある――という。


(結構、いい加減アバウトなのね……)


 私のそんな考えを見抜いたのか、


「かつては、きちんと日時を決めていたはずだ。」


 風の魔術師に頼み、天候を操作した事もあるらしい――と彼は補足する。そして、


「十四年前の事件が原因だろう……」


 と告げる。建国祭、私達の出産、【石碑せきひ】の調査、教会との対立。

 色々な事が重なって、事件は起こってしまった。


「今となっては、賓客ひんきゃくまねく訳でもなく、国内だけの祭りになってしまった……」


 警護の仕事が楽で助かる――とアーリ。


(そ、そういうモノなの?)


 ――いえ、彼なりに気を遣ったのね。


 やはり、少し不器用なようだ。続けて、


「今回はベガートが一人で急に決めたから、教会の連中はあたふたしているかもな」


 そう言った彼は、少し楽しそうだ。


「教会の事……嫌いなの?」


 首をかしげる私に対し、アーリは――まぁな――とだけ答えた。

 詳しく聞きたいところだけど、それは私ではなく、フランに任せよう。


(そうそう、父の事も聞かなくてはいけなかった……)


「あのね、フラン……」


 改まって、私が口を開くと、


なんでしょう? お姉様……」


 もしかして、私が部屋に居る事が嬉しいのだろうか?

 何処どこか落ち着かず、ソワソワした様子だ。


(ううっ、なんだか聞きづらい……)


 ――でも、ここで躊躇ちゅうちょしても仕方ないよね!


「えっとね、王様――お父さんの事――なんだけど……」


 私の言葉に、フランは見る見る元気を失くす。


(言うんじゃなかった……)


 失敗したかな?――と少し後悔する。でも、


「やはり、先程の部屋の様子をのぞかれていたのですね?」


 とフラン。私は――ゴメンね――と謝る。


「いえ……いいんです!」


 フランは首を横に振った。


「でも、どうしてあんな姿に……」


 父のせこけた姿に対し、質問する。


「分かりません」


 とフラン。普通に考えると――毒を盛られた――と考えるのが妥当だろう。

 でも、山での話からさっするに――


「きっと、体内に【石碑せきひ】の欠片を埋め込まれたのね……」


 私は憶測を述べる。

 以前、見た事があるのは、魔術師が自らの身体に欠片を突き刺す場面だった。


 結局は力を制御出来ず、その魔術師は【魔力マナ】を暴走させて、自滅してしまった。


「そんな事があったのですね……」


 お姉様が無事で良かった――とフラン。

 その時は兄と一緒だったので、然程さほど、気にしてはいなかった。


 だけど、改めて言われと、そうなのかも知れない。

 ただ、父からはあの時のような禍々まがまがしい【魔力マナ】は感じなかった。


 もう、長くはないのでしょう――とフラン。

 普段は眠っているように茫然ぼうぜんとしている事が多いそうだ。


 しかし、時折、なにかを思い出したかのように暴れ出す。

 そういう時は、フランかベガートが声を掛けると大人しくなるようだ。


 そのため、今日みたいに呼ばれる事があるらしい。


「本当は、あのような父の姿を、お姉様にお見せしたくはなかったのですが……」


 フランは落ち込む。

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