第25話 無邪気なモノね!


なにそれ、カッコイイ!」


 ――わふん!


 興奮する私に、


「どうです? 完璧な変装です!」


 まさか一国の姫がこのような恰好をしているとは、誰も思わないでしょう?――とフラン。得意げに胸を張る。


「うん、完璧だよ! 私はぐに気付いたけどね!」


「まぁ、流石さすがはお姉様です♥」


 とフランは笑顔になる。

 私達は両手の平同士を合わせ――ギュッ――とにぎる。


 そんな私達に対して、


「アホが……」


 とフランの護衛の青年。

 年齢は私とそう変わらないようだが、少し生意気な感じがする。


(男の子って、皆そうなのかな?)


 ――でも、お兄ちゃんは違うし?


 戸惑とまどっている私の様子に気が付いたのか――悪い――と青年は謝った。

 そして、


「一緒に居る、こっちがずかしい」


 とつぶやく。それを聞いて――ひどいっ!――とフラン。

 シクシク――と泣いたフリを始める。


「ハイハイ、オレが悪かったよ……ほら、謝るから」


 機嫌を直してくれ――と青年。その言葉に、


うそです――泣いてません☆」


 とフラン。青年は、


「知ってるよ……」


 でも、なんか腹立つ――と悪態あくたいいた。


「すみません、お姉様――アーリがご迷惑をお掛けして……」


 フランの言葉に――オレが悪いのか?――と青年。

 そんな彼に向かい、


「ゴメンね、アーリ君――妹がお世話になってます」


 私は頭を下げる。それに対し、


「気にするな――後、『くん』はらない」


 とアーリは返した。フランは、


「そうです! お世話しているのはわたくしです!」


 そう言って胸を張る。アーリは面倒そうな表情で、


「いちいち反応するなよ……社交辞令だろ?」


 と返す。その言葉に――ムーッ!――とふくれるフラン。


(微笑ましい……)


 ――大体、二人の関係は分かった!


「えっと、私はクタル! お兄ちゃんのリオルに――こっちがキューイ!」


「キュイ?」


 私は簡単に自己紹介を済ませる。


「まぁ、可愛いです☆」


 フランの言葉に反応してか、キューイは彼女の肩に飛び乗る。

 そして――キュイキュイ――と頬を擦り付けた。


「えへへ、くすぐったいです……」


 彼女はそう言って、キューイののどを指でさすった。

 その様子に対し、


「ふふん♪ これから山に登るというのに、無邪気なモノね!」


 と私。


 ――ねっ! お兄ちゃん!


 後方の兄に私はウインクを送った。兄はアーリに向かって近づくと、


「妹が迷惑を掛けてすまない」


 何故なぜか謝った。


「それはお互い様だ」


 気にするな――とアーリは返す。


なんだかこの二人、通じ合ってない?)


「うちの姫さんから、大体の事情はいている」


 山に向かうのなら、早く行こう――というアーリの言葉に、


「えっ⁉ ここで食べていかないの!」


 と私。フランは――まぁ、それは素敵です!――と反応して手を叩く。


「すまないな」


 お兄ちゃんが謝ると、


「大丈夫だ……れている」


 とアーリが返す。初対面のはずなのに、この二人は随分ずいぶんと気が合うようだ。



 †   †   †



 シートを広げ、早めの昼食を取った。

 少し多めに買ってしまったが、結果的には良かったと言える。


 パンにソーセージ、千切った野菜レタスはさむ。

 デザートに果物も用意してある。


 食べ過ぎるなよ――と兄は忠告してくれた。


「大丈夫だよ☆」


 私はそう言って、自分の分を千切るとキューイにも分けてあげた。

 キュイ――と鳴いた後、キューイはモシャモシャと食べ始める。


(やっぱり雑食みたい――問題なさそうね……)


 調味料もあるので、フランと自分のモノに味付けをする。


(うん、美味しい☆)


 フランは初めて口にしたのだろうか――あらっ!――とおどろいていた。


「景色がいいと、また美味しいよね!」


 私の言葉に、


「そうですわね☆」


 フランが相槌あいづちを打つ。兄はそんな私達の様子を見て微笑むと、なにやら地図を見て、アーリと相談していた。


「なるほど、『神のまう山』というだけあって、正規のルートもあるのか……」


 感心するお兄ちゃん。

 十四年前の出来事もあり、山のほこらを直したらしい。


 巡礼じゅんれいに来る人間が増えたようだ。


「ああ……だが、安全な分、見付かりやすい」


 アーリが言うには平坦な道だが、距離的には遠回りになるらしい。

 馬も通れるため、追手おってが来ると面倒だという。


「【建国祭】も近い――個人的な理由で来ている場合もあるな……」


 どうやら、収穫した野菜などをお供えするために、登って来る人が居るみたいだ。


「それはあまり心配しなくていいだろう――こちらも巡礼じゅんれいだ――という態度を取ればいい」


 アーリのその言葉に、兄が私達へと視線を向けた。


「この二人を連れてか?」


「確かに……」


 兄の言葉に、アーリはなやむ。


「となると――少しけわしいが、非正規のルートか……」


 そう言って、兄は地図を指でなぞった。

 小男達がキューイを捕まえるために、利用してた登山ルートだろう。


 この子を山に返す必要がある。

 そのルートの方が、都合が良さそうだ。


「問題ないだろう……フラン――姫はああ見えて、普通の人間よりも動ける」


 とアーリ。どうやら、私と一緒で妹は身体能力が高いらしい。


「そういう事なら、少し急だが――こうか?」


「そうなるな……そのルートで登ろう」


 兄の提案に、アーリが同意する。

 どうやら、登山ルートが決まったようだ。

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