第13話 スクラップ
「ふむふむ。これはいい」
ギュリオンは携帯端末を見て呟く。
端末はガラスの板のような形をしており、先程レオンが倒し、回収した円盤が映っていた。
「形式はありふれたものですが、装甲がなんとオリハルコンの魔動鎧です! オリハルコンはA級の魔動鎧にも使われる高級な魔吸材。彼ら、やり手の略奪者だったようですな」
「鎧、なんですね」
「ええ。大異形軍は多様な魔物の集団。当然、我らと体型が違いますから、鎧もその魔物の形に応じたものになります。ゴブリンやオークなら、人型になりますがね」
「なるほど。ちなみに、どんな魔物が乗っていたんでしょう?」
レオンが訊ねると、ギュリオンは「それは」と言葉に詰まる。
だが、ベルが答えた。
「多分、私の仲間ですよ。私がヴェルシアにいた限りは、あんな緑色のスライム見たことなかったですけど」
確かにスライムは円盤のような形をしている。
剣で切断した時、円盤から緑色の液体が漏れ出ていた。
その後、エリドゥでベルが少し静かだったこともレオンは思い出す。
「ベル……すまないことをした」
「レオン様が謝ることではありません。そもそも同種だからなんだって話ですし。それよりも、ギュリオンさん。なーんでこんなに人間と魔物は仲が悪いんです? 大異形軍、でしたっけ?」
その問いかけに、ギュリオンは難しそうな顔をする。
「今から話すことは、ヴェルシアのレオン様たちには理解に苦しむことだと思います……かつて、メディウス帝国の帝星メデルブルグにも、ヴェルシアと同じように魔王がいました」
「それを、初代皇帝メディウスが仲間と共に倒し、建国したのがメディウス帝国でしたね」
レオンも帝国に行く前に、簡単な帝国史は学んでいた。
メディウス帝国はかつて、ヴェルシアと同じように魔物を率いる魔王に悩まされていた。それを倒す勇者や賢者がいたところも共通する。
ギュリオンは頷く。
「そうです。だが、それは表向きの歴史です。賢者メディウスは実際にはほとんど戦わず、魔王を倒し手負いとなった勇者や仲間を裏切ったのです」
「自分が皇帝になるために、ということですか?」
「そうです。そして、自分を頂点する国家を打ち立てた。先程のヒュルカニア公の娘ルアーナ様を見て、レオン様は何か気付かれませんでした?」
レオンは艦橋で、きつい言葉を浴びせてきた女の子のことを思い出す。
「そういえば……結構な魔力を纏っていました。鎧の操縦にも自信があるようなことを言ってましたし」
「ええ。彼女は魔力に恵まれています。この国の階級は、当初扱える魔力量によって決められておりました。賢者メディウスは魔力だけは人一倍多く扱えたので」
「魔力で人を測るのは、自分にとって都合が良かったというわけですね」
扱える魔力の量は遺伝する。
ヴェルシアでもそれは知られていた。
だから、賢者リゼルの末裔であるレオンが異常な魔力量を持っていても、ヴェルシアの者は当然だと考えていたのだ。
「そうです。だが、人以外の扱いは違った。メディウスは敵だった魔物だけでなく、味方だった魔物さえも奴隷階級と定めた。それ以降、魔物は過酷な労働と不当な扱いを強いられてきたのです」
魔王亡き後人間と魔物が仲良くしてきたヴェルシア人からすれば、確かに理解に苦しむ話だ。
だが、レオンはもともと地球人。
メディウスのような強欲な歴史上の人物はいくらでも知っている。
──しかし、魔物を奴隷にするか。
ヴェルシアが占領される際、ヴェルシアの魔物も奴隷階級になってしまった。
だが、実態は今までと同じように生活をしている。
ヴェルシアの全ての魔物は、アルバードが主人だからだ。
あの皇女エレナが、混乱を避けるためにそうしてくれたのだろうか?
いずれせよ、ヴェルシアは救われた。
「なるほど。ですが、そんなことをしたら、魔物の反乱が起きるのでは?」
「もちろん、なんども反乱は起きました。しかし、人間には魔動鎧を作る技術があった。魔物も真似しましたが、技術力の差は歴然でした。だから、魔物の一部は宇宙進出の後、遠くの星に逃げることにしたのです」
「その魔物たちの末裔が、大異形軍になったと」
「ええ。それまでいくつか大きな事件はありましたが、これがきっかけです」
ギュリオンの話を聞いたベルが呟く。
「なるほど~。そりゃ、こんな戦争にもなりますね……さっきの子たちもどっちも、本当に気持ち悪そうに私を見てましたし」
「同じ帝国人として、不快な思いをさせたのは謝ります。緊急事態でなければ、艦橋には行かせませんでした」
「いやいや、なんというかちょっとゾクゾク……いや、ギュリオンさんが謝ることじゃありませんよ。というか、むしろいい予行練習になりました。帝都に行ったら、行動には気を付けます」
レオンもベルの言葉に頷く。
「私もある意味勉強になりました。士官学校では、あまり目立たないほうが良さそうですね」
「先ほどの救難信号の前は、まさにそれをお話ししようとしてたのです。レオン様の魔力を見れば、帝国貴族は絶対に妬むでしょうから」
「さっきのルアーナのような子がたくさんいる、ということですね」
「はい。士官学校に入学した下級貴族の子が少しでも上級貴族を上回るような魔力を見せれば、瞬く間にいじめの対象になるでしょう。現に退学に追い込まれた話も聞きます」
「上級貴族の機嫌を損ねてはいけないと……肝に銘じておきます」
ギュリオンは頷く。
「だから、本当にいい場所ではない。今からでも、商船学校に入りませんかな?」
「そう言ってギュリオンさん、レオン様を自分の商会に勧誘するつもりでしょう?」
ベルの言葉に、ギュリオンは「図星です」と即答する。
「残念ですが駄目ですよー。レオン様はフェリア様ラブなんですから」
「べ、ベル! 俺はただ」
恥ずかしそうにするレオンに、ギュリオンが笑う。
「冗談ですよ。レオン様は我が商会に収まるような器ではない。なにせ、クールタイムなしのワープを繰り返すは、訓練もなしに大異形軍の鎧を撃墜してしまうは、どんな仕事にも就けるでしょうから」
そういうと、ギュリオンは携帯端末に目を移して続ける。
「ともかく、先程の鎧の部品を売るだけで、当面帝都で暮らせます。なんなら、オリハルコンは武器にしてもいいぐらいです。買うよりも、材料を提供して作ってもらったほうがいい武器を作れますし、帝都の武器職人を紹介しましょうか?」
「本当ですか? 欲しい装備があるんですが、作ってくれますかね?」
「腕利きの者を知っています。あとで希望を聞かせてください。先に発注だけしておきます」
「お願いします!」
それから三日後。
レオンを乗せたギュリオン商会の船は、ついに帝都周辺宙域に入るのだった。
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