第14話 帝都
ヴェルシアを出て、十一日が経った。
レオンを乗せたギュリオンの船は、ついに帝星メデルブルグの周辺宙域に到着した。
「おおっ! こんなにたくさん船が!!」
ベルは艦橋の外を見て、声を上げた。
小さなコンテナを積んだ船、巨大な主砲を備えた戦艦──
艦橋の外では形も大きさも様々な船が飛び交っていた。
広い宇宙だというのに、ここでは宇宙の黒色のほうが少なく見える。とてもカラフルな光景だ。
ギュリオンが船の正面をまっすぐ指さして言う。
「あれが見えますかな? あれが帝星メデルブルグ。メディウス帝国の都フレティアのある星です」
「おお……」
地球と同じ青と緑に覆われた星だ。
もちろん地球を外から眺めたことはないが、ここに来る前にヴェルシアは目にしているから、レオンにはあまり驚きもない。
だが、ヴェルシアや地球と違うのは、星の表面のいくつかの場所から細長い塔が伸びていることか。
──軌道エレベーターってやつだっけ。地上と宇宙を行き来できるやつ。
塔の頂上にあたる宇宙側には丸い構造物がある。
あれが宇宙港で間違いない。
ギュリオンの船がそこに向かっている。
「現在、帝都宇宙港に入港許可を申請しているところです。あとは保安検査を済ませれば、晴れて帝都に入れます──うん?」
ギュリオンは外で船の何隻かが慌ただしく動いていることに気が付く。
同時に、サイレンのような音が船内に響く。
「犯罪者を追跡中! 周辺艦船は停船せよ!!」
ギュリオンの船ではなく、別の船からの通信らしい。
船員たちは急ぎ、船を停止させた。
「ギュリオン殿、これは?」
「……帝星防衛艦隊の通信ですな。窃盗犯かなんかを追っているのでしょう」
しばらくすると、ギュリオンの船の横をボロボロの魔動鎧が飛んでいった。
その鎧を追うように、小さな軍艦一隻と複数の綺麗な鎧が追っていく。
彼らが遠ざかると、サイレンも次第に小さくなっていた。
レオンは、隣でふうとため息を吐くギュリオンに気が付く。
「ギュリオン殿?」
「え? ああ、こういったことは珍しくありませんよ。帝星周辺は特に、鎧や船を持つ窃盗グループが多い」
「そんなに治安が悪いんですか?」
「ええ。この周辺の労働の大部分は、魔物、そして人間に近い亜人によって担われています。彼らは経済力も弱いため、非行に走ることも多い。あとは……やはり今の帝国を快く思わぬ者もいますからな」
「なるほど」
「とはいえ、レオン様はそこまで心配される必要はありません。士官学校周辺は貴族街や宮殿地区ですし、とても治安がいい。普通の学生として過ごされるなら、危険とは無縁でしょう。お、入港許可が下りましたな」
ギュリオンがそう言い終わると、船は宇宙港に進んでいく。
球体の港には大きな穴が開いており、その中には魔動船がずらりと並んでいた。
ギュリオンの船も、そこに停泊する。
それからレオンはギュリオンと共に、船を降りた。
短い廊下を渡ると、空港のロビーのような場所が見えてくる。
「レオン様、本当にお疲れさまでした。あとは、エレベーターを下れば、そこがもう帝都フレティアです。鎧や荷物はひとまず、我が商会の倉庫に下ろさせていただきます」
「ありがとうございます、ギュリオン殿。渡航費はこちらで支払うかたちでよろしいでしょうか? 金貨になりますが」
レオンはコートのポケットから、じゃらじゃらと金貨の入った麻袋を渡す。
「いえいえ、お代は結構ですよ」
「え? まさか、アルバード様がすでにお支払いを?」
「アルバード様も出航前に私に金貨を渡そうとしましたな。ですが、こういった仕事は成功してから初めて報酬をいただくもの。お断りしました」
「なら、私が──」
「いいえ。レオン様には今回、船の魔力を供給していただきました。そのおかげで、三日も早く帝星に到着できた。それに、あのエリドゥの救難信号……レオン様がいなければ、我らは今頃、宇宙の塵になっていたでしょう」
たしかにレオンがいなければ、ギュリオンの船はエリドゥを守るための捨て駒になるしかなかった。
ただし、レオンがワープをしなければそもそもあの宙域にあの時間、いなかったとも言える。
しかしとそれを説明しようとするレオンに、ギュリオンは諭すように言う。
「レオン様は私たちの命の恩人なのです。あの時、船員たちが死ねば、彼らの家族が悲しんでいた。大切な人と離れ離れになるのは辛いことです。レオン様もそう思われませんか?」
レオンは気が付く。
自分とフェリアに思うところがあって、ギュリオンは親切にしてくれているのだと。
ギュリオンはレオンの差し出す手を、その胸に押し出した。
「この帝都ではありとあらゆることに、本当にお金がかかります。これは貯めておくとよろしいでしょう」
「ギュリオン殿……」
「頼まれていた鎧の装備も発注と支払いを済ませてあります。オリハルコンは今から運びますから、明日には完成するでしょう。これで、士官学校にはまず確実に入学できるはずです」
「ありがとうございます……ギュリオン殿」
レオンは素直にギュリオンの厚意に甘えることにした。
ギュリオンに深く頭を下げる。
だが、そんなレオンを見て周囲が少しざわつきだす。
ギュリオンが慌てて言う。
「レオン様、人前で貴族が庶民に頭を下げては駄目です。魔力の多寡が分かる者は、すぐにあなたが貴族だと分かりますから」
「な、なるほど。気を付けます」
日本ではもちろん、厳格な階級社会でないヴェルシアでは咎められなかったことだ。
「いえいえ、私が言い忘れたことです。帝国貴族のマナーについても、少し学ばれたほうがよろしいですな……ともかく、今日のところはもう遅いですし、私の家にお越しください。娘に料理を作ってもらっています」
「ありがとうございます、お邪魔します」
その後、レオンはギュリオンと共に、軌道エレベーターに乗り込んだ。
レオンはついに帝都に到着するのだった。
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