第86話 幸福な結末

「どうしようアメリア、とても信じられないよ、僕のサンドラが、そんな……っ」


 しがみついて泣きじゃくるアルバートを、アメリアは優しく抱擁した。


「ええ、私もとても信じられませんわ。アレクサンドラさまが護衛騎士と……だなんて。だけどあの髪の色を見てしまっては、どうしても……」

「言わないでくれアメリア、頼むから、言わないで……」

「アルバートさま。大丈夫ですわ。私がおります。貴方をけして一人にしません。大丈夫です」

「ああアメリア、アメリア」


 慟哭する背中を撫でながら、アメリアは恍惚に打ち震えていた。

 アメリアの胸に顔をうずめるアルバートのなんと可愛らしいことか。


(やっと帰って来てくれた)


 今回はいつもより少しだけ長引いたけど、ちゃんと帰って来てくれた。

 分かっていた。アルバートは最後には必ず自分のもとに帰ってくると。

 分かっていたから今までずっと待っていた。


 アルバートの慟哭がようやく収まりかけたころ、アメリアは特別な秘密を打ち明けるようにささやいた。


「アルバートさま、私から大切なご報告がありますの。実は私のお腹に、アルバートさまのお子が宿っております」


 アメリアの言葉に、アルバートはゆるゆると面を上げた。そして涙にぬれた顔のまま、「……本当か?」と問いかけた。


「はい、先ほど侍医に確認したら間違いないそうです。きっとアルバートさまそっくりの金髪で青い瞳の子供が生まれますわ」

「アメリア……」


 呆けたようなアルバートに対し、アメリアは優しく微笑みかけた。


「だから大丈夫ですわ、アルバートさま、なにも心配いりません。私たち、ちゃんと幸せになれますわ」


 それは不思議な感覚だった。

 自分の胎内に、王家の血を引く尊い命が宿っている。

 月が満ちて生まれるのはきっと男の子だ。

 金の巻き毛と青い瞳の男の子。

 あの醜い赤毛とは比ぶべくもないほどに、美しく優秀な子になるだろう。


「アルバートさま。私たち幸せになれますわ」


 アメリアは愛しい男を抱きながら、うっとりとそう繰り返した。


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