Episode ⅩⅩⅢ (4-3)
楽しくも、宿題という課題に追われた一か月程の夏休みも終わる。
アテナは休み明けの学校へ向け登校している。
「アテナちゃん!」
「あ、トリンドルちゃん。おはよう」
「おはよう」
後ろから、ハイポジションの水色がかかったポニーテールを揺らす一人の少女。
トリンドル・クリア・ウォータルがやってきた。
「夏休み、どうだった?」
「できるだけ、計画して過ごそうと思っていたけど、趣味に没頭した休みだったな。おかげで、宿題もギリギリに終わってしまった。トリンドルちゃんは?」
「私も運動部は休みがないから、ほぼ毎日学校へ行ったり、遠征に行ったりしたよ。あっ、海外に遠征に行ったから、皆にお見上げを渡そうと思っているの」
「え! いいな~。楽しみにする」
トリンドルが所属する水泳部は
Sunlight Stand 学園は、陰光大学などの学校間での関係は良好。
「それでね。毎日コーラとパンケーキとか食べ放題みたいな食事で、もう~太っちゃうよ~。って感じの食事になりそうだったからコーチがこれだけ食べてって、途中から書類を渡されたの。野菜、ささみ、野菜ジュース、
「大きく内容が変わったんだね」
「そうなの。他校のチームは好きなものを食べていいっていう緩いルールだったんだ。チームメイト皆で、コーチに最終日だけはアメリカを感じたいの‼ って、お願いしたら、渋々許してくれたの。最終日は記憶にないくらい沢山食べちゃって、皆普通に五キロとか増えてたけど。私だけ十キロ超えちゃって、コーチに怒られちゃった」
「一回の食事で十キロって。トリンドルちゃんって、ミツキちゃん並に食べるの?」
「そんな事ないよ~。内容にもよるよ。私はスイーツ担当。ミツキちゃんはご飯担当だよ」
「ふっ、いつか大食いとかあったらいいね」
「ふぇ~、私、競技向けの体じゃないよ~」
「ごめんなさい、からかって。フッ」
「まだ笑ってる~」
夏休みのお土産話を楽しみながら、アテナとトリンドルは夏休み明けの陰光大学教育学部付属陰光中学へ向かった。
「アテナ。トリンドル。おはよう!」
「あら、おはよう!」
挨拶してきたのは、紺色のハーフアップしているミツキとお団子スタイルのサーカだ。
サーカは夏休み中にMUSEの個展で数日共にした。
ミツキは女子ソフトボール部員。夏休み中はほとんど遠征や試合が続いた。休みはお盆休みの数日程しかなかった。
「アテナ~夏休み中に遠征と試合ばっかりで、お盆休みにステーキとかご飯とか。制限なしに食べていたから、一気に八キロくらい体重が増えちゃったよ~」
「大変だったんだね」
「そうなんだよ~。うちの鬼瓦監督、コーチ、副キャプテンがも~。怖くて怖くて。ご飯には制限がないけど、家庭的な料理が多かったから。完全に休みに入ってからは外食しまくりで、また家族から怒られちゃったよ。今日からまた、再開だし。一位目指すからにはやるしかないからね」
「息抜きしながら、休みながらだね」
「怪我しないように気を付けてね。アテナちゃん」
「おうよ!」
「そういえば、女子ソフトの遠征はどこ行ったの?」
「えっ! 国内だけだけど……九州行ったり、関西行ったり」
「私はアメリカだよ」
「へぇ~初耳! もしかして、水泳ってそんなに持ってるの?」
そのように言ったミツキは下から持っているの意味を隠喩する手の形をした。
「そんなんじゃないよ~~。ただ、コーチと周りの人達の協力だね」
「いいな~。私達も、アメリカとか行ったっていいのに‼」
ミツキは激しく
「なかなか、遠征先も難しいんだね」
「そうね~。文化系って、あまり変わりが無くて、地味なイメージがあるけれど、ここまで遠征先の差が起こるよりはまだましかもしれないわね」
アテナとサーカは気持ちでは遠くからミツキとトリンドルの遠征先論争を見届けた。
「は~い。朝のホールルームなので、席についてください」
ルーム長のエレンがホームルームの時間に近づいた為、一年い組の生徒へ席に着くよう促した。
程なくして、一年い組担任のラレス・サーシャが教室へ入ってきた。
「早速ですが、明日は一学期のテストがあるのでみなさん。もちろん、勉強してきましたよね?」
「……」
返事はなく、サーシャと生徒たちは間を感じた。
「ま、大丈夫だと信じたいですけど。今までの事をきちんと勉強すれば問題ないので、何もしていないという人達は放課後に授業ノートを復習しておいてください」
一部の生徒は慌てたようにスケジュール帳やタブレット、スマホのメモ機能などを使い書き留めていた。
アテナもその中の一人。しかし、授業内容はほとんど入っている。
左前のミツキを見ると、以上に慌てているように見えた。
この後の事はなんとなく想像ができた。
「あと、今月下旬に臨海学校があります。体育の時間も水泳の授業に移行するので、授業場所をしっかり確認してください」
ホームルーム後の休み時間にアテナ、トリンドル、サーカに臨海学校のについて聞いた。
「臨海学校って、この時期にやるの?」
「そうだよ。北側の海はクラゲがいっぱいだから、太平洋側の海沿いでやるんだって」
「私、大丈夫かな」
「もしかして、泳げない感じ?」
「いや、フォームは大丈夫なの。だけど息継ぎが苦手っていうか、難しくて」
「あー。それはきついよね。鼻に入ったら痛いし。でも、ほら。私達には専門家がいるじゃん」
「そう、このわ――」
「私がね」ウィンクをして瞼からキラキラが零れる。そんな幻覚にも近いエフェクトが見えた。
「ミツキちゃん、横取りしないで!」
「ミツキちゃんはなんでも出来るから、教わってもいいと思うけど……。でも、水泳部員のトリンドルちゃんに教わった方が上達は早いと思うから。集中的に訓練するのであれば方法にするよ」
「あートリンドルに取られた~」
「あ、あの~」
「ふぇ、どうしたの? サーカ」
「いや~その私~泳ぐの苦手なんだけれど……」
「あれ、そうだった?」
「覚えていないの?」
「あ~、ごめん。私が教えた人達、皆沈没しちゃったから」
「なんと、恐ろしい事を言うの!」
トリンドル
在籍年数がアテナよりも長いサーカは、毎年クラスメイトの水泳部員や経験者などから教えてもらいながら直前には克服している。
一年のブランクがあると、ゼロからのやり直しとなってしまう。その度に、サーカはこの学校から水泳を無くしたいと願っている中の一人である。
「サーカちゃんの事もサポートするから、安心して」
「ありがとう~トリンドルちゃん……」
サーカは
周りの人達もその現場を目撃していた。おそらく、天気が良かったため教室内のガラスが反射してトリンドルが神々しく見えたのだろう。
テスト当日。
「テスト、大丈夫だった?」
サーカがミツキにテストの結果を心配して声をかけた。
「うん。たぶん大丈夫。凄いよ、私の親友は。昨日は部活終わりだというのに三人で集まって私を拉致するかのように拘束をし、今日のための復習したわけだから。いい意味でも悪い意味でも友人は大切にしなきゃだね」
その時、水泳部のトリンドルを除きルーム長のエレン、茶道部のサーカ。そして、アテナの三人がかりでミツキのテスト対策の勉強会を手伝った。
「けれど、この学校はスポーツが優秀でも。学習を疎かにすると退学されるケースがあるから。積めるだけ良い成績を重ねないと後々に響いてしまうわ」
書類の山を手にしたエレンが言った。
「それはそうだね。でも、この後は美味しいものが食べたいな~」
「例えば?」
「ふ~ん」
「ねぇ、ミツキちゃん。こんなのどう?」
スマホを持って、ミツキに画像を見せてきたトリンドル。そこには、巨大パフェのクリーム山盛りと書かれていた。
「え~。くっ、クリームっ――。私、そこまでスイーツ受け付けられる体じゃないよ~」
ミツキは今にも吐き出しそうな表情で言った。
「それじゃ~大学の学食でも行ってみる? そこだったら、運動部向けにデカ盛りの定食とか、丼物があるわよ」
エレンが空かさず提案をする。
「行く!」
「ちなみに、今月の限定品は……」
「限定品は……」
「長野名物の山賊丼よ」
「買います!」
「いや、ここは食堂じゃないよ」
トリンドルが常識的な意見を言った。
放課後。お腹を空かせたミツキを連れてアテナ、トリンドル、エレン達は陰光大学の学生食堂一号館へ向かった。
陰光大学は小学校から大学までほぼ同じ敷地内に位置しており、それは大学だけでも広大である。アテナ達が向かう学生食堂一号館は大学内の四つある学生食堂の中の一つ。
ここでは、定食、丼、麺類などの食事ものから唐揚げ、フライドポテトのサイドメニュー。そして、ゼリー、プリン、ミニパフェなどのデザートものまで取り扱う学内最大級の学食である。
それは、学外の者が近くの飲食店を利用せずに向かうほどである。
なんと言っても、学食は安さが醍醐味。そこに美味しさの評価が五つ星なのも、陰光大学の食堂の特徴である。
「ミツキちゃん。何頼んだの?」
「それはもちろん、山賊丼と山賊焼き五つとフライドポテト。あと、サラダ大盛りだよ」
「すっすごい……。これで今日のご飯は終わり、じゃないよね……」
「さっすがー! 夕飯は唐揚げらしいよ」
「とっ、鳥の連続!」
「まさに、鳥の
ミツキは軽食という名の運動部の男子が食べる倍の量の食事を始めた。
「でも、私の体はこれだけ食べても運動すれば全て燃焼されてしまう特殊ボディーだから、問題ないよ!」
「いつも思うけど、ミツキちゃんの体はどんな構造になっているのか不思議でしょうがないよ」
「ミツキ以外の家族は運動部出身だけど、そこまで食べていないものね」
「うん。お父さんがこのくらい食べようとしたけど、減量が大変だったって言ってたよ」
「私なんて、増えすぎたらコーチから制限されるから……」
「水泳は一番体力使うから、食べても全部消化されて無くなるんじゃないの」
「そうもいかないんだな。人によって、体質が違うから。でも、ミツキちゃんみたいに食費はかからないからそこは問題にならない。だから、良い面もあるよ」
「そういうけど、トリンドルはスイーツにお金がかかるけどね」
「うっ……、痛いところはいや~」
アテナ達は放課後のおやつ時間を楽しんだ。
「ふ~、ごちそうさま~」
「ミツキ。もう時間でしょ」
「あー! そうだー。
「監督、コーチ、副キャプテンと言いなさい」
「大丈夫、今はいないから。じゃぁ、皆さようなら~」
「頑張ってね~」
ミツキは荷物を持ち、
「アテナちゃん。そういえば、もうすぐ文化祭ある事って知ってる?」
「文化祭?」
「ええ。こちらも中学と高校と合同で行うんだけど。また、個展するよね?」
「あ、全然考えてなかった」
「臨海学校よりは少し先だけど、テーマとかアイディアとか出すの大変だから、今から考えた方がいいかも」
「そうだよね。よし! ちょっと、考えてみるよ」
夏らしいギラギラした日差しが照り付ける。朝の海岸沿いにはまだほとんど人はいない。
「はぁあ~、Good morning~」
「Good morning .ポーレットちゃん。朝から大きい口を開けるなんて、だらしないよ」
「いいじゃん!」茶髪ツインテールの少女は強く断言する。
「それよりも、なんか、この前のSummer vacation で来てた日本の学校から文化祭? っていう面白い Festival のお誘いが来たそうよ」
「ふ~ん。Japanね」
茶髪の少女は口角を上げる。
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