Episode ⅩⅩⅡ (4-2)

 展示当日の朝。

 創部以来、初となるMUSEの個展。

 今回のテーマは「魔法少女の誕生」。

 部員全員が中学生というなかでできる、最大限に準備を進めてきた。

 開催期間は、二日間という短い期間の中で多くの人達に見てもらえるよう学内、地域への売り込みはもちろん、SNSでも告知を続けた。

 アテナ達はスケジュールを共有しあい情報を共有しあいながら、ここまでの開催実施にまで至った。

 もう、すべき事はない。

 あとは、お客さんが見に来てくれればそれでいい。

 そのような思いの中。

 今回、会場運営に専念するMUSEの部員は展示場所へ集まった。

「おはよう、アテナちゃん」

「サーカちゃん。いよいよ開催だよ。なんか体育祭ほどではないけど、緊張してきてしまったよ……」

「大丈夫、皆で納得するまで準備をしたのだから、自信を持って」

「そっそうだね……」

 陰光大学西南校門で会ったアテナとサーカは西-B棟・展示室-五へ向かう。

「誰か、来るって事前に聞いてる?」

「友達と家族は来るわ。アテナちゃんはどう?」

「私の家は共働きだから時間には間に合わないな。友達もここの学校以外はいないし」

「そっか、地域の人達とか来てくれたら嬉しいわね」

「そうだね」

 アテナ、サーカ達MUSEは展示開始直前の展示物の最終として受付を見た。

 定刻となり、MUSE創部以来となる初の個展が始まった。

 午前中の客がまばらだったが、皆チラシやポスターを見て来た。

 展示の最後にはアンケートを書いてもらうように事前に告知する。

 遠征や試合などで来られない部員もMUSEの一員として、今回の個展に来てくれた人達はどのように感じたのか。

 結果を見る事が彼らには制作だけでなく、この展示に関わったと感じる要素の一つである。

 昼食後。

 メンバーは、時間に分けて昼食をとる。

 アテナも、他の部員と一緒に昼食をとった。

「サーカちゃん。お客さん、どのくらい来た?」

「午前中はそこまで多くなかったけど、お昼過ぎくらいから親子連れで来てくれる人が多くなってきたかな。皆、私達の展示に関心を持って来てくれたみたいだから嬉しいな」

「展示時間があまりないから、今後は展示期間も考えなきゃかな」

「あのー。失礼致します」

 アテナの背後から、誰かを呼ぶ声がした。

 何かと気になり、振り返った。

 パステルピンクのジャケットとパンツを着た女性だ。面識はない。

 だが、私達に何か言いたいようだ。

「もしかして、い組の人達?」

「数人はい組です。どちらさまですか?」

「私、先日こちらで行われた体育祭の賞品提供させていただきました。サムシングクラウド株式会社の副社長をしているものです」

「あ、そうでしたか」

「いつもお使いいただきましてありがとうございます」

「こちらこそ、その節はありがとうございました。でも、なぜ私達がい組だと分かったのですか?」

「ブレスレットをつけていらっしゃるので。その後もお使いいただきましてありがとうございます。他の生徒様はいかがご様子ですか?」

「ほとんどの人達は使っていると思います」

「今後ともよろしくお願いします」

「はい」


 とても上品で印象の良い人だと感じた。

 日付が変わり、アテナ達は二日間に渡る個展を終えた。

 まだ、課題を残す事も多いが、MUSEは今後の目標として文化祭での展示を目指すのだった。

 パステルピンクのジャケットとパンツを着た女性は、夜の首都高しゅとこうを走行している。

 運転中の車内に、スマホから電話が鳴った。着信は接続されているナビの画面に映る。

「応答!」

 女性は一言発して画面を非接触で操作する。

「あー、今大丈夫?」

「ええ、生徒達の様子かしら」

「そう、その後の様子は」

「特に、今は何もない様子だわ。着用率はほぼ百ってところかしら、けど、一部の生徒はつけてないみたい」

「まあ、ほとんどの生徒が付けていれば、ある程度の適合者は何人か現れるだろう」

「リチャード様は?」

「あー。もう、帰ったよ。最側近も大変だよな。いつまでもこっちの世界に構ってられないし」

「だから、私達がこちらの世界での仕事を任されているわ。次は文化祭か」

「でも、お前だけあまり来たら逆に怪しまれるんじゃないか」

「あなたよりは、周りの様子に敏感だから。その時になれば、隠ればいい」

「こっちにも、奴らの部下や手下が蔓延っている可能性がある。いつもの事ながら、十分に気を付けよろ」

「ふっ、言われなくても……」

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