Episode ⅩⅨ (3-8)
学校の応接室。重厚な長いソファーに座る二人。
一年い組担任のラレス・サーシャと男性一人がソファに座っていた。
「リチャード様。本日は遥々、陰光大学までお越しくださいましてありがとうございます」
「いいえ。最近は当校へ訪問できていませんから、せっかくと思いまして……。ところで、校長はどちらに?」
「それが……」
「校長は、行方不明です」
陰光大学教育学部付属陰光中学副校長のメルタ・エーマンが部屋へ入ってきた。
サーシャは少し場所を離れた。
「メルタ……。いや、副校長と言った方がよろしいですね」
「構いません。こちらもいつも通り、リチャードと呼ばせていただきますわ」
「話を戻しますが、行方不明とは……」
「理由は分かりませんが、今年に入ってから様子がおかしく」
「それは、彼らの影響が――」
「そうとも言い切れないのが、現状です」
一月。「コンコンコン」と、校長室のドアをノックするメルタ。
「失礼します」
「どうぞ」
「校長、こちらの書類にサインをお願いします」
「あっ、ああ」
「お顔が優れないようですけど、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫何でもない」
大丈夫とは言いつつも、明らかにその時は青ざめたような顔をしていた。
その後も周りが見ても明らかに状態が悪いと思うような暗い顔をする日が続いた。新年度が始まってからは学校には来て、仕事をしているようだと間接的に見ていた。直接見た事はそれ以降。メルタもサーシャも記憶を辿ってみても覚えがない。
間接的に出勤をして仕事をしたという言葉一応として口にできる理由。教員や学校職員達に届く書類や仕事上での指示は毎週必ず届いていた。生徒向けに配布する校長通信が欠かさず発行していた。定期的に行われる会議もビデオ通話で参加をしていた。だが、姿を見ていない。
「このままであれば、校長職の解任も考えていい頃だと思うが」
「私もそのように他の教師達と文科省へ申し出たのですが、立場としての最低限の仕事をしているのだから問題はないだろうと言ったまま――」
「お役所は堅いからな」
「国立の学校なのに、融通も利かないなんて」
「向こうは向こうで、別の問題で手一杯なのだろう」
「それは、他国に買収されたあの」
「あー。Sunlight Stand学園。まあ、日本校は内部に問題は起こっての内容だし、環境も昔よりも良いものとなっているようだ。問題は資本という事か」
メルタとリチャードはほぼ同時にコーヒーを一杯飲んだ。
「今回の体育祭への提供品ですが、本当に彼らに与えても」
「仕方がない。さっきも言った通り、Sunlight Stand学園の日本校は副校長も変わり、考え方も変わってしまったから、私達が提供するものを研究し尽くして、最終的には機密情報を漏らす可能性があるからな。まだこちらの方が何かあったとしても、自分たちで管理しきれる。これだけが、私達が彼らと対抗する武器となる。反応条件や適性は様々だ。十分に注意して監視活動を行ってほしい。そして、来るべき時が来た時には」
「もちろんです。そのために、今回の体育祭は、この時のための実践型の内容にしたのですから」
「リチャード様の意志、皆の気持ちを生徒たちに託さなければ‼」
「頼む、二人とも」
「はい」
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