Episode ⅩⅥ (3-5)
「以上でバレーボールの試合は終了になります。他部門の試合はすでに終了していますので、生徒の皆さんは各クラスに戻り下校準備してください。お疲れさまでした」
白熱したバレーボールの試合が終わる。
優勝を決めた一年い組の女子は皆で教室へ移動した。
「は~。今日は疲れたよ」
アテナは緊張と共に戦った試合が終わり、安堵する。
固い生徒用椅子に寄りかかる。
「でも、アテナ。決勝で一番活躍してたよね」
ミツキはこれまでの努力を裏付ける活躍に彼女を讃える。
「あれは、一人抜けちゃって――後にも引けないから。今回ばかりは頑張らないとだなって、思ったからだよ」
「けど、これで来年の試合は私達が迎え撃つ事になるわね」
「え~、それはやだよ~」
エレンが来年の体育祭の予想をする。
再び激戦を運動で繰り広げなければならない事に恐怖を感じる。
「大丈夫だよ! 私みたいに昼食に爆食して、試合前に水をがぶ飲みすれば――」
「それは駄目」
エレンの冷たい一言に本気で落ち込んだミツキ。
彼女は上を見上げる。
急な行動に幼なじみ達は動揺する。
「全員揃って、駄目とか――このバレーボール大会のおかげで皆の息もぴったりになったとか。さすが、我が優勝チームだけある……」
涙目に心の中では彼女へスポットライトが当たっていた。
しかし、周りにいるクラスメイト達にはその光は見えない。
夕方を告げる傾いたオレンジ色しか光として認識されてなかった。
「おーい! い組のバレー女子!」
「あ! 慧だ」
再び気分を落ち込む前に戻ったミツキ。
試合が終わって帰ってきた慧。
クラスに戻ってきた多種目に参加したい組生徒達。
「お疲れ~結果は?」
ミツキは慧に結果を聞く。
「もちろん、優勝だよ! 野球はどうだった?」
「こっちも、優勝だ」
慧とミツキはお互いの健闘を讃え合った。
「これでサッカーも勝てれば、明日は楽して済むだろうけど」
慧は見上げる。
そばにいる男子生徒が話し始めた。
「それがサッカーは良い所までいったけど、準々決勝で負けていた。三位決定戦で延長の末、三位だった」
「一位、二位は?」
ミツキが聞く。
「高校三年は組が一位、中学一年ろ組が二位」
「あと一歩だったんだね」
惜しい結果にアテナは悲しくなる。
「やはり、ろ組は強い。しかも中学一年にしてチームの強さは一体?」
今日までのろ組が出した成績にエレンは考える。
「あっ、なんか聞いた事があるけど……」
「トリンドルちゃん。サッカーだったよね」
「うん。でも、中学二年生との合同チームで女子は一位だよ。こっちも強かったけど、ろ組は休みも集まって練習をしていたみたい。担任の先生が熱血で熱々な先生。だから皆の団結力の強さもあって、ここまでの成果が出てるんだね」
トリンドルの情報網は只者じゃ無かった。
「休みまで集まって練習をするとか、皆の都合を合わないとできないわ。計り知れない努力をこの短期間で」
エレンが物知りの幼馴染からの情報に驚く。
そして、手で顔を支えては来年について考え始めていた。
「まさか、エレン。来年は休日返上でとか言わないよね?」
兼任しているミツキに一時的とは言え、練習時間が増えてしまえばほとんどの時間を学校で過ごす事になる。
「当然よ。部活で遠征に行く人がいる。い組は総合的にポテンシャルの高いクラスを目指しているから、今後は日常的に短期集中というのがベースになる。それを忘れずにだらけない事をモットーにすれば、そんな休み返上練習というものを行う訳ないわ」
現実味がある対策だった。
しかし、非常に効率よく動かなければならなくなりそうだとアテナは思う。
「良かった。そんなに運動したら、母さんから食費を削減されちゃうから」
ミツキの発言、アテナは一日にお弁当以外で彼女はどのくらい食事につぎ込むのか。
興味がありつつ、大半の気持ちとしては少々恐ろしくなった。
(高校に入って、外食するような開放的な
今のところはその想定は隅っこに置いておく事にする。
校内外に散らばっていた生徒達は続々と教室へ戻ってきた。
下校前のホームルーム。
「みなさん、お疲れさまでした。今日は、進学して初めての体育祭だったと思います。先輩方を相手にしながら、女子のバレーボール、女子のサッカー。そして、男子の野球が勝つ事ができました。おめでとうございます。男子サッカーは残念ながら、三位でしたが、全体でのランキングは二位です。まだまだ一位に着く余裕はあるので、明日も頑張りましょう。今日は早く寝て体を休めてください」
サーシャは明日の予定を軽く話す。
仕事の少なかった日直が指示を出す。
「起立! 明日も元気に学校へ来ましょう。さようなら」
「\\\\\\さようなら//////」
「はい、さようなら」
電車の時間が近い生徒の一部は急足で玄関へ向かう。
アテナ達いつものメンバーも廊下の片方を開けて歩く。
正面玄関で靴を履き替えるのを待つ。
「それじゃあ。私達はここでお別れね」
サーカ、バン、慧は公共交通機関での通学。
アテナ、ミツキ、エレン、トリンドルは徒歩圏内に住んでいる。
途中で三人と別れた。
四人は揃って下校する。
「今日の出来事が嘘のようだよ」
アテナは再び今日の事を振り返る。
「ほんと、すごかったよね。アテナ。今日で一か月分の運は使い切っちゃたんじゃない?」
ミツキは奇跡的な出来事の連続に少々不吉な事を言う。
「それも、嘘ではないかも。けど、それでもいいかも。だって、もう今月終わりだし」
彼女の不審な一言に、何の釘も刺さずに受け入れる。
一ヶ月の運を使い切ったとしても良いほど、アテナにとっては一生において大きな事だった。
「だよね~。体育祭最終日は月末。あ~。これでお小遣いアップとかないかな~」
「それは、食費で削られてるんでしょ」
「流石~、うちのクラスのルーム長はよ~く私の事が分かってる」
ミツキはこの後一日使ったエネルギーの倍を食べると考える。
そのくらいの働きをしたと思っていた。
「ルーム長じゃなくても、幼稚園からの幼馴染なんだから、長く一緒にいれば、それくらい分かっているわ」
二人の付き合いの長さを感じたアテナ。
「ミツキちゃんとエレンちゃんって、そんなに付き合いが長いんだ」
「ええ。ここら辺に住んでいる人達とは皆知り合いよ。アテナさんは引っ越して来たの?」
「そうだよ。中学進学と一緒にここに引っ越してきたの。前は、都心の幼稚園から大学まである女子校に通ってたの」
「女子校か~、楽しかった?」
「う~ん」
アテナは言葉を詰まらせる。
「あまり、楽しめなかったかも……。幼稚園から小学校入学までは皆と合わせられてたけど。小学校入学してからは、皆同じ事をしてて。それに合わせるのが苦手になってきちゃって……。それで、こっちに……」
アテナの声音が徐々に小さくなっていく。
「アテナちゃん。ここなら自由にいろんな事ができるから、これからは楽しい
「急にどうした? トリンドル」
普段口にしないワードを言葉にした彼女にミツキは心配する。
「何を言ってんの、ミツキ。トリンドルちゃんはアテナちゃんを励まそうとしているのよ。変なものというか、大食いをしたのはあなただけどね」
「いやいや、あれは標準だから! 私は一日に一回はあの食事をしなければならない体なんだよ。しかも、こんな大きい行事だったら尚更だよ! 朝も昼食のくらい食べたし、夕飯も……」
「ぐぅ~」
話の途中、大きなお腹の音がした。
「ミツキ」
「ごめん! いや、お腹の音に何か悪い事でもある?」
「こっちまで、お腹空いてきちゃうよ!」
「私も……」
「ごめん。皆!」
交差点の度、ミツキのお腹は最後の一人と別れるまで彼女のお腹の音は鳴りやまなかった。
体育祭二日目。
決戦の朝が来た。
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