前後日録 (Episode Ⅲ: 1-3-2)
陰光中は部活によって
運動部の生徒達は一般の生徒達よりも早く登校している。
運動部員に合わせて、学校の一部は鍵が開けられていた。
春冷えの通学路。
サラリーマン達もジャケットなど、上着を羽織っている。
彼女もブラウスを一枚羽織っていた。
ベージュの髪を揺らし張り切って教室へ入る。
まだ誰もいなかった。
部屋中の空気を体に吸い込む。
「わぁー。ふぅ。朝一番乗りっていいなぁ」
黒板に日付を書く。
前半組のアテナは手を白いチョークで汚す。
早く登校したものの、これ以上の仕事というものは無かった。
退屈が目の前にあり、何をする事も無い。
机にうつ伏せになり居眠りを始めた。
入学式の昼寝と同じ感覚。
耳元からザワザワとした気配が立ち込める。
登校してきた生徒と朝練から戻って来た生徒達が入室する。
まじかに同級生がいる環境にお構いは無い。
アテナはよだれを垂らしていた。
人々の足音や声など、人が発する音がまとまりをつけている。
野生的本能でゆっくりと目を覚ました。
右隣りからまわりの騒めきがまとまる前には無かった空気を感じる。
「あ~。アテナ、可愛いなぁ」
気持ち悪い笑みを浮かべる。
何事も無かったかのように椅子に座る女子生徒。
アテナは恐怖を感じる。
表情に表さないようにするのが必至だった。
心中に秘めていた戸惑いは反対の方向に顔を向け吐き出した。
(大丈夫、大丈夫……)
仰天した顔はそう簡単に戻らなかった。
なんとなく勘づいていた正体を伺いたいと思う。
口元についているよだれを持っていたハンカチーフで拭く。
アテナは心の準備を整える。
五回呼吸を繰り返した。
決まった心とともに、振り向く。
「みっミツキちゃん……。お、おはよう」
「おはよう。アテナ」
いつもと変わらない挨拶をした。
「あの~。さっき、何してたのかなぁと思って……(本当に何してたの?)」
アテナは人生最大の挑戦に出ていた。
「今、アナの写真を見ているんだ」
「アナ? それは一体」
「私の妹」
「へぇ~。ミツキちゃん、妹が居るんだね。(『アナ』って言う妹? さっきのは、何!?)」
表面上では不審に思われないような口調で話していた。
性別の恋愛は否定しない。
しかし、我が身の事と考えると難しい問題だとアテナは思った。
まさか、同学年の女の子を好きになるはずがない。
だが、結論を求められたら自分の気持ちを素直に言おうと決めた。
現状、アテナはこのままこの事は自分の中に保留にしておく事にする。
翌日。
アテナはルーム長でありミツキと幼馴染のエレンに聞く。
「ねえ。エレンちゃん」
「何かしら、アテナちゃん」
「あの。ミツキちゃんって、妹がいるの?」
一瞬、エレンの顔が無表情になる。
「妹なんて初めて知ったわ。ミツキ以外に姉妹なんていないもの」
詳しく話を聞くと、彼女には兄一人と弟一人がいる。
その事実を知ったアテナは今後この事について知ろうという気にはならなかった。
ただ、闇の中へ葬った。
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