チーズインハンバーグ、サラダとスープとデザートセット 1300円(税抜き)

所 花紅

第1話

 ――先輩? なんか最近、様子、おかしいですよ? 大丈夫です?

 ――あたしで良ければ、相談に乗りますよ。つっても、話を聞くくらいしかできませんけどねー。

 ――えっ、夢? 毎日そんな変な夢を見るんですかあ! ……あ、す、すみません、大声出して……はい、気を付けます……。

 ――毎日そんな夢見るなんて、確かに辛いですよねえ。先輩、ロクに眠れてないでしょ? なんかやつれてますもんねえ。でもでもそれだったら、あたしお役に立てるかもです。

 ――ウチのクラスに、刀鏡院雪峯とうきょういんゆきみねって奴がいるんですけど。そいつの家がなんでも、代々霊能者ってヤツなんですって。んでんで、そいつも霊能者なんですよ。

 ――だから相談してみるといいですよ!


〇 ● 〇


「もーぉいーいかぁーい」


 陰鬱な墓場に、場違いなほど楽しそうな声が響いた。

 街灯が一つあるばかりの、ひどく寂しい墓場だ。頼みの月明かりも雲に隠れ、周囲の様子はよく見えない。

 正方形の墓場の中心には、こんもりとした塚がある。それに背をつけて座り込んでいた。ぐしゅりと湿った土がズボンの尻に染みて、気持ち悪い。


 ふぅっ。ふぅっ。ふぅっ。


 荒い息が漏れる口を手で押さえて、必死に殺す。

 聞こえないようにしなければ。絶対にバレないようにしなければ。動かないようにしなければ。


 ざりっ。


 動かした爪先の下で、砂利が微かに音を立てた。どっ、と心臓が早鐘を打つ。


「あれぇ? なんかおとがしたなぁー」


 こっちかなぁ。あっちかなぁ。そっちかなあ。


 子どものような舌足らずだが、その声は老人のようにしわがれていた。


 ぺた。ぺた。ぺた。ぺた。


 裸足で石を踏む音が、少しずつ少しずつ近づいてくる。

 マズい、こっちに来る。急いで離れないと。

 ああ、でも、足が。足が、動かない。膝ががくがく震えて言う事を聞かない。


「もーいいかーい、もーぉいーいかぁーい」


 くすくすと笑う声。「もういいかい」と何度も口ずさむ、鬼。

 汗か、涙か。頬を伝う雫が、顎から地面に滴り落ちた。その途端。

 背後から、ぐっ、と肩を掴まれた。ひゅっ、と笛のような音を立てて、喉が鳴る。


「みぃーつけたぁー……」


 くすくすくす。楽しそうな声が、鼓膜を揺さぶった。


〇 ● 〇


「――わあぁっ!」


 大声を上げて、俺は飛び起きた。

 ちゅんちゅんと、スズメの鳴き声が外から聞こえる。

 ぼたぼたと額から落ちる汗が、布団にいくつものスポットを作った。全力疾走した後みたいに、心臓が痛いくらいにドクドクしている。


「――なんだ、また夢かよ……」


 吐き出した声は、みっともないくらい震えていた。


「くそぉ……なんなんだよ……一体」


 俺はぐいっと手の甲で汗を拭った。パジャマの脇が、べっちょり濡れて気持ち悪い。

 暗い墓場で、何か分からない「恐ろしいもの」とかくれんぼをする夢。

 墓場にある塚の後ろに隠れている所から、夢は始まる。怖くて動けない中、「もういいかい」と声が響いて、最後には肩を掴まれて。


 そこで俺はいつも、汗だくで目が覚めるのだ。

 それがもう、七日。

 毎日毎日、同じ夢を見るなんて冗談じゃねえ。


 汗に濡れたパジャマを着替えて階段を下りて、のろのろと顔を洗ってリビングに顔を出す。母さんが鼻歌を歌いながら、朝飯を作っていた。


「おはよー……」

「あらおはよう! なんか最近顔色悪いわねー、受験勉強のやり過ぎ? ダメよー、ちゃんと休む時は休まないと! ただでさえほら」

「……うっせぇなぁ」


 母さんの言葉を遮って、俺は言った。


 そんなの、俺が一番良く分かってる。

 大学受験は十月。今は七月だから、受験勉強に集中しないといけないのだ。だけど、あんな夢を見せられて勉強に集中できるわけがない。

 何か言いたげな母さんを無視して、用意された朝飯を食う。「行ってきます」とおざなりに声をかけて外に出た。


 朝っぱらから太陽は眩しくて、日差しはガンガンと肌を突き刺してくる。

 そしてミンミン蝉がうるさい。頭の中でわんわんと響く蝉の声にイライラして、俺は地面に仰向けになって転がる蝉を蹴り飛ばした。お仲間を蹴っても、蝉は変わらずミンミンミン。


 ……ああ、ほんっとマジでうるせえ。


 げんなりしていると、後ろから声が聞こえた。


「あー! おはよーです、先輩!」


「……ああ。おはよう、家無いえなし


 蝉より元気な声に振り返る。

 短髪の少女が溌剌とした笑顔を浮かべて、手をぶんぶん振って駆けてきた。テニス部の後輩で、一年生の家無千陽いえなしちひろだ。


「最近よく会いますねー! ご一緒しまーす!」

「そーだな。お前、今日も元気だな」

「それが取り柄ですからね!」


 ふんす、と無い胸を張る家無。


 三年生は一年生に押し出されるように引退するから、俺が家無と関わったのはほんの少しの間だけだ。

 だけど家無はこうして慕ってくれて、時間が合えば一緒に登下校したり、帰りにマックで勉強会をしたり、カラオケに遊びに行ったりする。

 もしやこれは俺に脈アリなのか!? と、前に聞いたら「あたし、先輩はお兄さんみたいに思ってるんで! タイプじゃないですねー」とバッサリフラれた。女心は分からん。


「それでー、そん時ミコが『タピオカって蛙のタマゴみたいじゃない?』って! あたしタピオカ飲んでたのにひどくないです?」


 今日も家無は元気いっぱいで、くだらない話を楽しそうに話す。

 そのキラキラとした笑顔を見ていると、ふっと俺の頭に、どうしてか夢の墓地が浮かんだ。


 真っ暗で、月の無い墓地。Tシャツ越しに触れる汗ばんで熱い身体。泣きたいのを我慢して、ぐしゃぐしゃに顔を歪めている家無。


 ……?


 どうして今、そんなイメージが出てきたんだ? 家無が夢に出てきたことなんて無いはず――


「――ぱい、先輩!」

「あ、あ?」


 鋭い家無の声に、俺は思わず足を止めた。

 瞬間、目と鼻の先を轟音を立ててトラックが通り過ぎた。横断歩道だった。ランプは既に赤になっている。ごうごう音を立てて、車が道路を行き交う。

 今、家無が声をかけてくれなかったら……俺はきっと、気づかずそのまま車の中に突っ込んでいた。


 今頃になって、膝の辺りが震えはじめた。


「家無……助かった、ありがとう……」


 家無は、心配そうに眉をひそめて俺の顔を覗き込んだ。


「……先輩? なんか最近、様子、おかしいですよ? 大丈夫です?」

「…………ちょっと。ここ最近、変な夢を見てな……」


 信号を待つ間、つらつらと最近見る悪夢の事を話す。

 ふんふんと相槌を打っていた家無は、俺の話が終わった後で、どんと自分の胸を自信満々に叩いた。そしてなんと、霊能者を紹介すると言ってきたのだ。


 家無と同じB組の、刀鏡院雪峯。


 珍しい苗字だから、俺も名前だけは知っていた。顔も知らないけど。

 だがしかし、霊能者だなんだってのは知らなかった。というか、このご時世に霊能者。はっきり言って胡散臭い。


「あ、バカバカしいと思ってます? マジなんですってー! あいつホント霊能者なんですよ! 小学校の時にこっくりさんでヤバい事になったんですけど、あいつそれ解決したんですって!」

「こっくりさんー?」

「そう! もう凄かったんですよー! だから、先輩の夢もきっと解決してくれますって!」

「つってもなぁ。ただの夢だと思うけどな」


 受験のストレスが見せた悪夢と言えばそれまでだ。なにかに追われる夢を見るのは、現実で不安があるとか不安に立ち向かう暗示だとか、そんな話を聞いた事もある。

 だけど俺は、昼休みに一年B組の扉を開けていた。


 きっと、疲れていたのかもしれない。


〇 ● 〇


 思い思いに昼飯を食べている一年生達は、扉を開けた俺に物珍しそうな視線を向けた。

 三年生が一年生の教室に入る事は、あんま無いからな。珍しがられるのも分かる。

 扉近くで弁当を食べていた女子が、俺を見上げた。


「佐々木先輩? 誰かに用事ですか?」

「あ、室岡か。えーっと、刀鏡院って、どいつだ?」


 テニス部の後輩である室岡は、「刀鏡院君ですか?」と首をかしげた。


「刀鏡院君なら、あそこに座ってる茶髪です」

「ああ、ありがとう」


 礼を言って、言われた方に向かう。

 むぐむぐと弁当を食べている後輩の真横に立って、声をかけた。


「むぐ?」

「ええと、お前が刀鏡院雪峯、でいいのか?」

「はい、そーですよお! 俺が刀鏡院雪峯でーす」


 家無に負けず劣らず元気いっぱいに挨拶した刀鏡院は、一言で言うならチャラ系、だった。

 俺は勝手に、高校生霊能者という姿を脳内で作っていた。

 ぞろりと前髪を長く伸ばして目元を隠し、黒服を着た陰気な姿。背を丸めて、教室の隅っこで怪しげな本を読んでぶつぶつとなにかを呟いている。


 目の前の後輩は、それと正反対だった。


 明るい茶髪はあちこちに跳ねて、太いフレームの眼鏡をかけている。ちなみに色は緑。

 缶バッチがじゃらじゃらついたオレンジ色のパーカ――今は夏だというのに長袖だ――に、ダメージジーンズ。

 ウチの高校は私服OKだが、さすがにこれはどうなんだろう。なんかゲーセン辺りでたむろってそうだ。


「で、誰? 俺になんか用ですか?」

「あー、ええと……」


 なんと言えばいいか、言葉に詰まった。


 霊能者だと聞いたから悩みに乗ってほしい?

 変な悪夢を毎日見るから助けてほしい?

 なんというか、自分で言ってて荒唐無稽な話だ。

 それに、そもそもの話、だ。刀鏡院雪峯は霊能者だと家無は言ってたが、本当にそうなのか?

 目の前できょとんとしている後輩と、霊能者というのがイコールで結びつかない。家無が嘘をついているというか、刀鏡院雪峯。こいつが嘘をついているのでは?


 そんなことを考えていた俺の口から出てきたのは、無難な一言だった。


「あの、霊能者だって聞いたんだが」

「うい。そーですよ。俺になにか依頼? お化けでも出ました? それとも妖怪? あ、河童騒動だったら解決したからご安心をー」

「河童いたのか!? この町に!?」

「いましたよー、夜白池に。まあ正体はおっさんだったんですけどね!」

「おっさん!?」

「全身緑のボディペイントして、甲羅背負って嘴つけた変態のおっさんでした。……あ、それとも百キロババア騒動? 百キロって言えば、時速六十キロの風圧っておっぱいの感触らしいっすよねー。先輩やった事あります? あ、そうだ先輩、ガッコの近くの和菓子屋でおっぱい饅頭ってのが」

「どんだけ話題とっ散らかすんだお前!」


 いかん。こいつ多分、思ったままのことを何も考えずポンポン口に出すタイプだ。

 放っておいたら、確実に話題が脱線事故を起こす。いやもう起こしてるかもしれないけど。


「ああ、いや、依頼っていうか、聞きたいことがあるっていうか」

「ふんふん?」


 そう言ってから、刀鏡院は不意に俺ではなくて、俺の後ろを見るようにした。眼鏡の奥の丸い目が、遠くを見るようにすがめられて、ふっと首をかしげる。


「先輩。ここ最近、夜の墓場かなんか行った? 人気の無い、暗いトコ。それか、そーゆートコの夢見た?」

「え」


 ドキリ、心臓が跳ねた。


 なんでそれを知ってるんだ。それに、そこが人気の無い暗い所だなんて。いや待て落ち着け、家無が「ウチの先輩がこれこれこういう夢を見て~」って話したのかもしれない。

 俺はまだ、霊能者云々というのを完全に信じてないぞ。刀鏡院のホラかもしれないからな。「私って実は霊感があってー」ってのは、目立ちたい奴がよく言う嘘の一つだからな。


「ああ、まあ」


 俺が曖昧に頷くと、相変わらず遠くを見るような目をしたままで、刀鏡院はふんふん頷いた。


「え? あー、分かる分かる。けっこー限界っぽいよな。二十五メートルプールくらい。違う? あそっか、水深か」

「はあ?」

「あ、ごめん先輩こっちの話。で、その墓場ってどこ?」

「七が辻の墓場っしょ、先輩」


 俺が答える前に、ひょいっと横から口を出してきたのは家無だった。

 両手を後ろで組んで、ニコニコ笑顔で下から俺の顔を覗き込んでくる。

 七が辻? ……俺は家無に墓場の夢を見てる事を話したが、そんな事を言った覚えは無いぞ?


「家無。俺、夢の墓場が七が辻だとか言ったか?」

「いやいや先輩、前言ってたじゃないですかー。ほら、勉強に疲れたらあの辺りまで散歩に行くって」

「いや、それは確かに言ったけど……」

「先輩の夢に出てくる墓場の話を聞いて、ピーンと来たんです! 暗くて墓場の真ん中に丸い塚があるのは、あそこしか無いって!」


 七が辻の墓場。家から近い、周囲に家の無い寂しい墓場だ。

 確かに夜、勉強に疲れたらあの辺りまでぶらぶらと散歩したりはする。そういえばあそこは、街灯が一、二本しか無くて、夜になれば真っ暗だった。

 それに確かに、あの墓場の中心には小さな塚がある。


 その時だ。机に頬杖をついて俺達のやりとりを見ていた刀鏡院が、ぱちっと一つ瞬きをした。


「あれ、家無じゃん。どしたの」

「はぁー? 今気づいたの? ちょっとしっかりしてよ。先輩が毎日変な夢見てるから、なんとかしてって話なんだけどー?」

「うん、聞いてた聞いてた。七が辻の墓場ねー。……先輩さあ、最近そこに行った?」

「いや……最近は散歩に出てないから……」


 俺はのろのろと首を振る。

 最後にあの辺りに行ったのは……そうだ、七日前だ。

 難しい公式やら英文を脳みそに詰め込むのに疲れて、散歩に出た。夜でも生ぬるい空気に辟易しながら、ぶらぶらとあの辺りまで歩いて……それで、確か……。


 ――あれぇ? 先輩じゃないですかー! 先輩も散歩ですかー?


 墓場前の自販機にもたれかかりながら、家無がコーラを飲んでいた。近づくと、いつもの元気な笑みを浮かべて手を振ってきた。


 ――あたしも散歩なんですよー! なんか寝苦しくってー。


 そこから記憶が曖昧だ。気づいたら、家のベッドで天井を見上げていた。カーテンの隙間からは細い光が部屋を縦断していて、とっくに外は朝になっていた。

 どうしてか心臓がバクバク高鳴っていて、息が上がっていた。着てたジャージは冷や汗でべっちょり濡れていて――


 そうだ。それからだ。その日の夜から、墓場で何かから隠れるあの夢を見始めた。


「せんぱーい、どしたの?」

「先輩? どうしたんですか?」


 気づけば黙り込んでいたらしい。後輩二人が、俺の顔を覗き込んでいた。


「あ、いや……」

「うーん、夢見たのが七日前で、七が辻の墓場に行ったんでしょー? ……あ、だよね。それしかないよね」


 ふと横に顔を向けて、刀鏡院はうんうんと相槌を打つように頷いた。

 しかしそこには誰もいない。霊感がある事をアピールしているのか。そういう不思議な行動を取れば、俺が信じると思っているのか。

 俺の疑念にかまわず、刀鏡院は俺の方を向く。そうして、本当に嫌そうに顔をしかめた。


「先輩さあ、もしかしてあそこでかくれんぼした?」


 ――もーぉいーいかぁーい、もーぉいーいかぁーい……。


 きゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃら。


 声が脳裏に蘇った。


 もういいかい、もういいかい。ほらほらにげてよみつけるよ、もういいかい、もういいかい。もういいかい。おねえさんはみつけたよ、おにいさんはどこかなあ。もういいかい、もういいかい。

 きゃらきゃらきゃらきゃらキャラキャラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!


「ねーねー先輩、墓場でかくれんぼした?」

「す、するわけねえだろ、そんな気味悪ぃこと。それよりお前、本当に霊能者なのか? さっきから誰もいないとこ見て喋ったり思わせぶりなこと言ったりしてるけど、そんなん家無に聞けばすぐ分かる話だろうが。いい加減なこと言ってんじゃねぇぞ!」

「ちょっ、せんぱ」

「そういう風に思わせぶりなこと言って人を不安にさせて楽しいか!? こっちは真面目に聞いてんのに、先輩からかって楽しんでんじゃねえ! お前みたいに霊能者とか言って金取る奴なんて言うか知ってるか、詐欺師っていうんだよ!!」


 脳内を一瞬流れて行った、気味の悪い声。

 それを振り払うように、俺は刀鏡院に詰め寄った。胸倉を掴み上げる。

 ここ最近感じていたイライラとした気持ちをぶつけるように、大声で怒鳴った。一気にざわめきが消えて、視線が集中したのが分かるけど、かまわなかった。家無が視界の横でわたわた慌てている。


 詰め寄られた刀鏡院は特に慌てもせず、腹が立つほど落ち着いた顔をしていた。


「まーまー、先輩落ち着いて。俺に当たっても悪夢消えるならいくらでも当たればいいけど、そーいうわけじゃないでしょー。じゃあ疲れるだけじゃん」


 全く堪えていない様子の、飄々とした言動が俺の神経を逆撫でした。もう一度怒鳴ってやろうかと口を開いた途端、すっと刀鏡院は真剣な顔をした。


「先輩の悪夢は、大本絶たないと意味無いんだよね」

「はぁ? 大本?」

「そ。七が辻の墓場でかくれんぼしたから、あそこにいる鬼に目つけられたの。あれを何とかしない限り、先輩の夢は終わんないよ」


 パンパンの風船のように膨らんでいたイライラとした気持ちが、急にすーっと萎えた。


 何を言うかと思えば、鬼だと?


 バカバカしい。昔話じゃあるまいし、鬼なんてこの世にいるもんか。そんなバカらしい事を真面目に言う後輩に、俺は呆れた。

 教えてくれた家無には悪いが、こいつが霊能者だと信じる事が俺にはできない。こいつはただのホラ吹きだ。

 それっぽい事を思わせぶりに言って、人の不安を煽って楽しんでいるだけ。じゃあ、これ以上かまう必要は無い。つけあがるだけだ。


 胸倉を掴んでいた手を離し、背を向けて足早に教室を出ようとする。俺の背中に、刀鏡院が「先輩!」と大声をぶつけた。


「先輩! 別に信じてくれなくてもいいからさー、七が辻には近寄んないでね! 今日中に片付けるから、今日だけは絶対だよ!!」


 その声に、俺は返事もせずに扉を閉めた。

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